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◇そばに居る意味

「ヤキモチ」*玲央

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「もー、離してあげなよ、真っ赤じゃん優月」

 勇紀が優月の手を取って、少し引いた。

 ……ち、連れていかれた。


「優月、大丈夫。オレら、玲央のキスシーンなんて見慣れてるから驚かないし」
 甲斐がそんな風に言って、真っ赤な優月を慰めているが。

「……つか、その話、要らねーから」

 別の奴とのキス、見慣れてるとか、優月に言うな。

 そう思って甲斐をちらっと睨むと。
 甲斐は、ぷ、とまた笑い出した。


「気にすんの?それ。 優月に聞かれたくないの?」
「そりゃそうでしょ、ていうか、優月だって聞きたくないよね?」

 勇紀がオレの代わりにそう言って、優月に、ね?と聞いてる。
 優月は、少し黙ってから。

「……何となく、分かるから、大丈夫だよ」

 そう言った。
 ………また、出た。
 こういう話になると、いつも、知ってるから大丈夫と優月は言う。

 オレは、何となく、優月がそう言いそうだと思っていたのだけれど。
 三人は当然、ん?という顔で優月を見た。

「大丈夫ってどういう意味?」
「……ん?」

 三人の表情に、優月までがきょとんとして。
 全員きょとん、としてる。

 颯也と甲斐のそんな顔は珍しくて、こんな話でなければ笑ってしまいたいところだが。オレは、はあ、とため息をついた。

「……ちょっとは気にしろよ」

 優月の頭を撫でながらそう言うと。また優月が不思議そうで。
 ダメだ、分かってねえなと思った瞬間。

 勇紀がさすが聡くて、すごい顔でこっちを見た。

「……え、ちょっと待って、今の玲央の、気にしろって何? ヤキモチ妬けって言ったって事?」

「優月、いつも平気って言うから……ムカつくんだよな……」

「はーーーー???」

 あー。勇紀、うるさい。
 颯也と甲斐は、口開く前から、その視線がうるさい……。

「何、ヤキモチ妬いてほしいの??! ヤバいよ、どーする?」
「玲央がヤバいのはもう今週ずっとだから。オレはそっちより、優月の大丈夫の方が気になるけど。 玲央のキスとか、気になんねーの?」

 颯也が優月をじっと見て聞いた。
 つーか、颯也、オレが今週ずっとおかしいって何だ。そう思いながらも。
 優月が困ったように話し始めるので、何も言わず、聞く事にした。

「……玲央にそういう人達が居るの知ってるし……玲央、いつもキスするから、今までも色々あるだろうなーと思うし……」

「だから、大丈夫っていうのか?」

 颯也が首を傾げてる。


「何それ。気にしなよ。ていうか、玲央は気にしてほしそうだよ」

 クスクス笑って勇紀が言う。


「あと、オレ、玲央からキスすんのはあんま見た事ないけど。なあ??」

 勇紀の言葉に、甲斐が頷く。

「大体されてたよな。まあ玲央も拒んでもねーけど」
「玲央の相手は積極的だからな……」

 颯也もため息をつきながら言ってる。
 苦笑いの勇紀が、優月の肩をポンポンと、抱いてる。


「玲央があんな風に可愛いとか言ったり、キスしたりとか、見た事無いからね。大丈夫だよ、優月。優月の事、玲央は特別だから」

 勇紀に肩をポンポンされながら、優月がオレを振り返って、じっと見つめてくる。

「なあ、今マジで、ヤキモチ妬いてくれないからムカつくって言ったの?お前」

 優月の視線に向いていたいのに、真正面の甲斐が、乗り出して、オレを無理無理見つめてくる。


「……大丈夫、気にしないばっかり言われると、余計気になるって話」

 仕方なくそう言うと、三人はふー、とため息。

「……難しすぎ、玲央」
「付き合ってらんねえよな、言いすぎれば重いって言うしなあ?」
「こんなの面倒じゃないの? 優月」


 勇紀、甲斐、颯也。
 好きに言った後、優月を見つめてる。

 優月は、少し黙っていたけれど。
 また、くる、と、オレを振り返った。


 まっすぐな瞳でじっと見つめて。

「玲央がモテるのは、すごく分かるし……キスした人の気持ちも分かるし……って、思ったんだけど……」


 その後、ちょっと困った顔をして。三人を振り返った。


「……玲央が今言ってるのって、ヤキモチ妬いてほしいって事なの???」

「おっとー……?」
「マジか……」

 勇紀と甲斐が、コントみたいに斜めになってる。颯也はめちゃくちゃ苦笑いだし。
 
「分かるでしょ? それ以外の理由で、何で玲央が気にしろって言うと思うの?」

「え、だって。そういうの、玲央は嫌いって……」

「だから、優月には言って欲しいんじゃないの? つーか……ははっ。面白いなー、優月……」

 勇紀が優月越しに視線を向けてくる。


「玲央は、こんな感じが可愛いんだろ?」

 可笑しそうに笑いながら、優月の頭を撫でながら言うので。


「……つーか、あんま触んな」

 優月の二の腕を後ろから掴んで、オレの方に引き寄せた。


「うっわ、玲央のヤキモチとか……キモ過ぎ!」

 至近距離に引き寄せられた優月は、すぐ真下からオレを見上げて。
 また少し赤くなってる顔で、ふ、と笑った。


「――――……玲央……」


 特に何も言わず。
 名前を呼んで、ただ、笑うだけ。


 ――――……なんか、脱力する。
 ……可愛くて。


「見つめあうな―。優月は可愛いけど、玲央、マジで誰?て感じ」


「……オレお前と、幼稚園から一緒なんだけどなー……。お前ってこんな奴だっけ…?」

 マジメな顔で甲斐が言って、それからものすごい苦笑い。



「お前にこんな事聞く日が来ると思わなかったけど……優月の何が気に入ったの、お前」

「――――……何が?」


 甲斐の質問に、しばらく止まる。

 何が、か。
 なんだろう。
 優月の……。

 笑ったとこと、話し方と、見つめてくる瞳と、無邪気なとこ、話す言葉、エロイとこ、純粋なとこ……。


「んー……ぜん」
「全部とか言うなよ」

 甲斐に止められた。
 ――――……ちっ。読まれた。


 ぷ、と笑う三人と、全部って言おうとしたの?と不思議そうな優月。


「今、優月の真似して全部とか言おうとしたけど。優月どう思う?」
「え……っと……」

 勇希の言葉に戸惑ってる優月に。
 甲斐と颯也が続ける。

「つか、今の玲央を動画にして、玲央の相手に送ればいーんじゃねえ? 諦めるだろ、きっと」
「諦めるっつか、呆れるかも」


 ……とことん弄られてる感じがして、ものすごく嫌なのだけれど。
 ――――……なんか、優月が楽しそうなので。まあ良しとする。


 普段、優月と過ごす時は、ほとんど二人きりで。ひたすら可愛がって、触って過ごしてるから、今も気付くとついつい、手が伸びそうになる。

 早く帰って、抱き締めたいとずっと思うのだけれど。



 オレがずっと一緒に居る奴らと、優月が、なんか仲良くしてンのも。
 ――――……ちょっと、面白い、かも。







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