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◇そばに居る意味

「逆らえない」*優月

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「いこっか、居酒屋でいいよね? 電気消すから出てー」

 勇紀がドアの所でそう言ってて、オレと玲央の先を颯也と甲斐が歩いて行く。


「玲央」

 玲央の腕にすこしだけ触れて、玲央を呼んだ。

「ん?」と、見下ろしてくる、視線。


「オレ、なんないよ、嫌になんて」

 さっき言われてから、考えてて。

 オレに嫌だって思われたくないって。思ってくれるんだなーと思ったら、やっぱりすごく嬉しい。

 玲央のまっすぐな視線を見てると、本当にこの瞳が大好きだし、と思って自然と微笑んだ瞬間。


「――――……」

 優しく笑まれて。ちゅ、とキスされた。


「はー?! もー、はいそこー、外ではすんなよー」

 キスされた瞬間、勇紀の声がして、甲斐と颯也が振り返る。
 たぶん真っ赤になってるオレと、「邪魔すんな」と言ってる玲央を見て、何があったか悟ってしまったらしくて。


「……ほんと、あいつ、誰??」

 甲斐が言って、颯也も、ふ、と笑いながら、また先を歩き始める。


「玲央、やっぱり、外は禁止……っ」

 もう一度キスされて。玲央が笑った。


「帰るまでは、これで終わりにするから」
「…………っ……」

 よしよし、と撫でられて。
 文句も、封じ込められる。

 勇紀が、オレと玲央が出ると電気を消してくれて、ドアを閉めてくれた。


「何なの? マジで我慢できないの、玲央」

 並んで歩き出しながら、勇紀が玲央に呆れたようにそう言ってる。


「大変だねー、優月、こんな人の相手……」

 そんな風に言われて、ますます恥ずかしい。


「いんだよ。お前らしか居なかったじゃん」
「ちょっとはオレらにも気を遣えよ」

「今更だろーが」
「いや、今更だけど……つか、優月、真っ赤だったし」

 勇紀がクスクスに笑う。


「優月がすげー可愛いこと言うからだし」

 え。オレ。……のせい?
 びっくりして玲央を見上げてしまう。

「ふーん? 何言ったの、優月?」

 ……何言ったっけ。
 キスされる前……。

 あ。


「……? 嫌になんてなんないよって言ったこと……?」

 そう言ったら、勇紀がじっとオレを見て。
 それから、ぷ、と笑いながら玲央に視線を向けた。


「すっげー意外」
「何がだよ」

「玲央って、そーいうのを可愛いって思う奴なんだね」
「……」

「うんうん、分かる分かるー、オレも、優月の事ずっと可愛いと思ってたから。はは、可愛いよねー」

 詰まった玲央に畳みかけるように、勇紀が楽しそうに言う。

 そういえば、勇紀にはたまに、優月可愛いねとか言われてたっけ。全く意味が分からなかったから、全部スルーしてたけど……なんて思いながら、そのやり取りを見ていたら。

 玲央がオレの腕を掴んだ。


「…やっぱ帰ろっか、優月」
「え」

 驚いてるオレの手を勇紀が、ぱっと奪い返した。

「ダメ、行くって決めたもんな、優月?」
「あ、う、うん」

 玲央が、はーとため息をつきながら、しょうがなさそうに歩いてくる。


「良いの? 行って」

 勇紀に連れていかれてしまいそうなので、玲央を振り返ってそう聞くと。
 玲央は苦笑い。

「いーよ」

「いーのいーの、玲央に聞かなくて。行こ、優月、どんなお店が良い? オレらいつも行く居酒屋が何こかあってさ。中華風とか洋風とか鳥メインとか…」

 楽しそうに店の説明をする勇紀の話を聞きながら、振り返ると、玲央は後ろの方で、颯也と甲斐と歩きながらついてくる。


「いーんだよ、優月。玲央は嫌だったらそー言うからさ。ついてきてんだから、気にしなくて大丈夫」

 勇紀がクスクス笑う。

「そっか」

 ちょっと安心して笑うと、勇紀もうん、とにっこり笑った。



「それに、優月が言うこと、逆らえないんじゃない? 玲央」
「――――……」

 なんか言われた事にビックリしすぎると、止まるんだな、人って。
 と、思った。それくらい、固まってしまった。

 ……逆らえない。
 ……?? 玲央が、オレに??

 すごい固まったオレに、勇紀は、あれ?という顔をした。

「そんな事ない?」
「逆らえないとか、そんな事絶対無いと思うけど……」

 むしろ、オレのが、逆らえない。
 逆らえないというか、好き過ぎて、言うがままになれちゃう気がする。


「今度なんか我儘言ってみなよ。絶対なんでも聞いてくれると思うよ」


 ぷぷぷぷぷ、と、楽しそうな勇紀に、何だか可笑しくなってしまう。





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