151 / 822
◇そばに居る意味
「頭撫でる」*優月
しおりを挟むほんと、カッコイイ。
演奏が始まって、しばらく経つ。
ずっと目を逸らさず、皆を見ていた。
音楽はもっぱら音でしか聞かなくて、バンドのライブ映像というものをそういえばあまり見た事が無い。だから比べる事は出来ないのだけれど。
……真ん中で歌ってる人が、ダントツでこの上なくカッコイイし。
他の皆も華があるし。
この人達が、ステージに立って、ライトの下で演奏するのか。
そりゃ人気、あるよねー……。
こないだも思った事をまたしみじみと思う。
勇紀は、出会った時は具合が悪くてぐったりしてたし、そこが出会いだったから、なんかすっかり普通の友達として仲良くしてきたけど、こうして演奏してるの見ると、何か、遠い世界の人な気がしてくる。
この人達皆、玲央と一緒に幼稚園からって事は、そもそもがお坊ちゃま達なんだろうなぁ……。受験して高校から入学した人は、エスカレーターで上がってきた人達との格差が顕著で大変だという噂を聞いた事があるけど。……まあ分かる気は、する。
幼稚園からずっと、良い家柄の人達がエスカレーターで進んで、その輪の中に後から入るのって。しかも普通の家の人とかだったら。よく分かんないけど、色々大変そうだなーと、その噂を聞いた時思ったっけ……。
大学になると、外部受験での入学が格段に増えて、むしろ外部からの生徒の数の方が増えるので、もうそこらへんは全然関係なくなるから、あんまりオレは気にしないで生活してきてしまったけど。
――――……やっぱり、オレは何でここに居るのかなあ?と、またしても少し疑問を感じてしまう。
そこらへんの価値観の違いって、友達同士でも結構厳しいのに。
……好き……とか。
好きとか挟んだら、もっと、そういう違いって難しいんじゃないのかな。
価値観違っても、玲央の事は、好きだけど。
大好きだけど。
――――……玲央、さっき……。
優月が居たい限り、て。言ってた。
オレと玲央がいつまで一緒に居るか、それを決めるのは玲央だと思ってた。思ってたというか、当然すぎて、考えもしてなかったというか。
玲央が居てくれる間だけでもいい、て思っていたから。
……最初はほんとに、一度だけでも、ほんとに少しの間だけでもって思ってたから、価値観がとかそんなのまるで考えなかったけど。
オレが居たい限り居てくれるなら、ずっとになっちゃうよ。
……いいのかなあ、玲央。
玲央は。もしかしたら。
――――……オレの事が珍しいのかなあ。と少し思う。
キスとかそういうの全部初めてな人なんて、相手してなかったみたいだし。
玲央の好みって綺麗な人ぽいから、物珍しいのかなと思うし。
ずっと玲央の側に居る仲の良いお友達とも、多分、全然違うし。
物珍しいものって……たまに可愛く見えたり、するのかなあと。
……ちょっと、思ったりもして。あんまり考えたくないけど。
すごい頭の遠くの方で、ちらっと、思っちゃうんだけど。
何であんなカッコイイ……カッコ良すぎな人が、オレに好きって言って、一緒に居たいって言うんだろう?
ずっと居たいと思うって何だろう?
そりゃ、ずっと居れたら嬉しいけど。
キラキラしすぎてるもんなー……玲央。
――――……歌、うまい。 ほんと、良い声。
「なあ、ちょっと飲みもん買ってくるから、あれを一回練習しといて」
曲が切れた所で、玲央がそう言った。
あれってなんだろう。思いながら、遠くの皆を見ていると。
ふっと玲央にまっすぐ視線を集めて、皆がニヤッと笑った。
「明日、歌うの?」
「すげー久々」
「……もしかしたら歌うかも」
「りょーかーい」
皆がなんだかおかしそうにニヤニヤしてる。
「……何飲むか、一秒で言え」
玲央が心底面倒そうに、そう言うのが聞こえる。
「ミルクティ」
「ブラックのコーヒー」
「水」
「ん。……優月、おいで」
皆から少し離れた玲央が、オレを呼ぶので、玲央のもとに急ぐと。
ぽん、と頭に手を置かれて、そのまま肩を優しく押される。
「外付き合って。座ってんのも飽きたろ?」
「え。飽きないよ。 楽しい。皆カッコいいし」
言うと、ふ、と玲央が笑う。
「でも、行こうぜ、一人じゃ持てねーし」
「うん、行く」
「玲央よろしく。優月もー」
勇紀の声に振り返って頷くと、玲央にそっと背を押された。
「こないだの自販機行こ」
ん、と頷いて、一緒に自販機の所まで歩き始める。
「優月はどんな音楽聞く?」
「割となんでも。スマホでランダムに流すかなあ……でも今は玲央たちの曲覚えたい」
「ん。覚えて。今度CDあげるから」
クス、と笑う玲央に、よしよし、と撫でられる。
撫でられて、ドキッとして。手が離れても、ドキドキしたまま。
……何で今、撫でたんだろう。
玲央って……。
「……玲央が、頭撫でるのって……癖??」
「え?」
「頭、よく撫でるでしょ?」
「……ああ」
玲央は、ぷ、と笑って「癖じゃねえよ」と言う。
あれ。そうなの? 癖じゃないの?……いや、癖だよね??
隣の玲央をふと見上げると。
「オレに撫でられたとか、他の奴は言わねえと思う」
「……?」
「撫でてねえもん、お前の事しか」
「え」
「……かわいーからなんかつい撫でちまうけど」
「――――……」
優しく笑む瞳にまっすぐ見つめられて。
オレはまた一瞬で赤くなって。ドキドキでへたり込みたい気分……。
「まあ、お前撫でるのは癖になってるかもな」
またしてもヨシヨシしながら、そんな事を言ってくる。
「オレ、お前にしかしてない事、もっとあるよ」
「――――……」
「後で教えてやろうか?」
ふ、と瞳を細めて。
可愛くてたまんない、みたいな瞳で、見つめられる。
なんでそんな風に、オレを見るのか、それもすごい不思議、なんだけど。
なんか、色々迷う、全部の事が一瞬どうでもよくなる位。
大好きだなーと、思ってしまって。
胸が、きゅ、と締め付けられる。
246
お気に入りに追加
5,157
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
親友だと思ってた完璧幼馴染に執着されて監禁される平凡男子俺
toki
BL
エリート執着美形×平凡リーマン(幼馴染)
※監禁、無理矢理の要素があります。また、軽度ですが性的描写があります。
pixivでも同タイトルで投稿しています。
https://www.pixiv.net/users/3179376
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!
https://www.pixiv.net/artworks/98346398
つぎはぎのよる
伊達きよ
BL
同窓会の次の日、俺が目覚めたのはラブホテルだった。なんで、まさか、誰と、どうして。焦って部屋から脱出しようと試みた俺の目の前に現れたのは、思いがけない人物だった……。
同窓会の夜と次の日の朝に起こった、アレやソレやコレなお話。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
転生令息の、のんびりまったりな日々
かもめ みい
BL
3歳の時に前世の記憶を思い出した僕の、まったりした日々のお話。
※ふんわり、緩やか設定な世界観です。男性が女性より多い世界となっております。なので同性愛は普通の世界です。不思議パワーで男性妊娠もあります。R15は保険です。
痛いのや暗いのはなるべく避けています。全体的にR15展開がある事すらお約束できません。男性妊娠のある世界観の為、ボーイズラブ作品とさせて頂いております。こちらはムーンライトノベル様にも投稿しておりますが、一部加筆修正しております。更新速度はまったりです。
※無断転載はおやめください。Repost is prohibited.
気付いたら囲われていたという話
空兎
BL
文武両道、才色兼備な俺の兄は意地悪だ。小さい頃から色んな物を取られたし最近だと好きな女の子まで取られるようになった。おかげで俺はぼっちですよ、ちくしょう。だけども俺は諦めないからな!俺のこと好きになってくれる可愛い女の子見つけて絶対に幸せになってやる!
※無自覚囲い込み系兄×恋に恋する弟の話です。
ひとりぼっち獣人が最強貴族に拾われる話
かし子
BL
貴族が絶対的な力を持つ世界で、平民以下の「獣人」として生きていた子。友達は路地裏で拾った虎のぬいぐるみだけ。人に見つかればすぐに殺されてしまうから日々隠れながら生きる獣人はある夜、貴族に拾われる。
「やっと見つけた。」
サクッと読める王道物語です。
(今のところBL未満)
よければぜひ!
【12/9まで毎日更新】→12/10まで延長
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる