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◇そばに居る意味

「クロのおかげ」*玲央

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  ――――……惚れてる?
 惚れてんのか? これって。 


 唐突に、部室に行って、メンバーに聞きたい衝動に駆られる。

 ……あいつらって、どう思ってんだろう、オレの事。

 散々からかわれてる気がするけど――――……。
 オレが優月に、惚れてると思ってんのか?


「玲央、食べるの早すぎ……噛んでる??」

 優月の、戸惑ったような声。

「大丈夫?」

 きょとん、としてる、抜けた表情も、
 今となっては、もう、可愛い以外の何物でもない……。

 オレが大丈夫と頷くと、優月は、ん、と小さく頷いて、カフェオレのストローをくわえる。

「カフェオレも美味しいねー」
「ああ」

 さっきまでの話なんか無かったように、完全に普通の顔をして、優月はオレを見つめてくる。
 
 ……むしろ優月より、オレの方が、必死なんだよな。

 優月は、どちらかというと、この先どうとかの話よりも、「今居られればいい」という想いが強いのだろうと思う。

 そこにあるのは――――……。
 多分、今しか居られないだろうという諦め、な気がする。

 ……オレは、優月とずっと居たいと思っているから。
 どうやれば、一緒に居られるかを考えてしまってる気がする。


「少し良いか?」

 スマホを出しながら聞くと、優月はうん、と笑顔で頷く。


 勇紀達との4人の連絡画面に、かなり躊躇いながら。

「質問」
「お前らって、オレが優月に惚れてると思ってる?」

 もう面倒くさいので、直球で聞いてみた。
 少し待つけれど、既読が付かない。多分今は食事中だろうと思ってスマホをしまった。

「もう良いの?」
「ん。既読つかねえし。少し待つから。食べ終わったなら行くか? コンビニも寄るだろ?」
「うん。オレ、トイレ行ってくるから待ってて?」

 優月が立ち上がりかけた時。

「会計して出口に居るから」

 自然と伝票を手に取りながら立ち上がると、優月が見上げてくる。

「ん?」
「なんかいっつもさ、玲央が全部払ってくれる気がするんだけど……」
「……嫌なのか?」
「ん……。なんか……なんとなく」

 あまり今まで言われたことがない。
 別に払うのが当然だと思っているし、周りもオレが超大金持ちの息子なのを知ってるからか、ほとんどの場合、出すとも言われない。バンドのメンバーだけは皆が嫌だと言うからいつも割り勘だけど。
 まあ男は別として、女は、出させた事が、無い気がする。

 ……優月は、男、か……。
 でもって本人が気にするからな……。

 どう考えるべきなのか、良く分からない。

「……でもここはオレがお前を連れて来たいって言ったから、払う」
「…う…ん」
「良いだろ?払わせて」

 そう言うと、少しの間、まっすぐな瞳に見つめられる。
 ん、と優月が頷いた。

「うん……ありがと、玲央」
「ん」

 にっこり笑う優月。

 金持ってる方が払えばいいだろうと思っていたから、払う事を何とも思ってなかったけれど、優月の態度で、少し考える。

 普通だと、こうなのか? 
 そういえば、オムライスも、払うって聞かなかったっけ。支払いをしながら、なんだか優月がとても嬉しそうにしてたのを思い出す。

 男だからか?
 ……全部出してもらうのとか、嫌なのかな。

 とりあえず会計を済ませて、優月を待ちながら、スマホを見るがまだ返事は来ていなかった。

「お待たせ」
「ん」

「ごちそうさま、玲央」
「ああ」

 笑顔の優月に、何だかほんかわかしながら頷いて、その頭を撫でる。

「……玲央、外で、撫でるの……」
「ん?」
「ちょっと恥ずかしいかも……」

 ぷ、と笑いながら、店のドアを開けて優月を先に通してからら店を出る。
 2人並んで、道路の端を歩き出すと、優月が見上げてきた。

「玲央って、猫、好き?」
「……優月ほどじゃないけど」

 くす、と笑って答えると。

「飼ってたことある?」
「家に居たのは犬」
「そっか。クロね、昔飼ってた猫にそっくりなの。最初見た時は、ほんとびっくりした。同じ黒猫でも結構顔違うんだけどね」
「人懐こいよな」
「うん。すごく可愛いよねー」


 オレがたまたまあそこのベンチに座らなかったら。
 そこに来たクロを、たまたま抱き上げなかったら。
 優月が、たまたま探しに来なかったら。

 こんな風に、一緒には居られなかったんだよな……。

 そんな風に思っていたら。


「クロのおかげで、玲央に会えた気がするしね」

 優月に視線を向けると。優月がふ、と笑んだ。


「クロ居なかったら、オレ、あそこで玲央としゃべってないもん」


 同じこと。
 今、思ってた。



「――――……」

 ふと、浮かぶ。


「オレと会って、優月は良かった?」
「え?」

 ものすごい、きょとん、とした顔で、数秒固まって。
 それから、優月は、めちゃくちゃ笑顔になった。


「そんなの当たり前だし」
「――――……」


「オレ、クロのおかげで玲央に会えた、って、今言ったでしょ?」

 クスクス笑いながら、そんな風に言う優月。
 ――――…………どーしたって、愛しいとしか思えなくて。


 近くに人が歩いてないことだけは、確認。
 肩を抱いて、背を屈めて、優月に口づけた。


「んっ……?」

 優月が見開いてる瞳を見つめながら、
 舌を絡ませると、優月が、ぴくん、と震えて、ぎゅ、と瞳を閉じる。

 ほんの数秒キスして、ゆっくり離した。


「…………っっれお……だから外……」

  赤くなって、うろたえてる優月の頭を、くしゃくしゃと撫でた。



「悪い。可愛くて、我慢すんの無理だった」

 そう言うと、ますます赤くなって、それ以上は文句も言わない。


 そうやってすぐ、可愛い感じで、許すから。
 調子に乗っちまうんだけどなー……。


 ああ、マジで可愛い。








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