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◇そばに居る意味

「平気?」*玲央

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「待てって」

 今回は本気で逃げてる訳じゃなさそうで。
 すぐに追いついて、腕を掴む。


「……玲央、オレ、明るい道のど真ん中でとかは……恥ずかしいからね」
「――――……ん、分かった。ごめんな?」

 あまりに可愛かったらまたキスしてしまいそうではあるけれど。
 ……まだ赤いのが可愛いので、撫でて、謝ってみた。

 機嫌が直った優月と、カフェに入り、メニューを手に取る。

「そういえば何でここに連れてきたいって言ってくれたの?」
「あぁ。卵サンドが、名物みたいに書いてあったから……。あ、これ」

 メニューを優月の前に開き、一番最初のページに大きくのってる卵サンドを指さす。

「好きだって言ってたろ」
「……いつ卵サンドの話したんだっけ」
「オムライス食べてる時。 卵が好き、て言いながら、メニューいっぱい言ってた」
「あ、言った」

 いっぱい料理の名前言ってたから忘れてた。
 なんて言いながら、優月が嬉しそうに笑う。
 
「そういうの覚えてくれてるの、嬉しい。玲央、ほんと優しい」

 素直な言葉に、くす、と笑ってしまう。


「卵サンドにする。あと、アイスオレ」

 店員を呼んで、優月のと同じのを頼み、メニューを端に片付ける。


「――――……な、優月」

 話し始めた瞬間。優月がぴくん、と動いた。
 優月のポケットのスマホが震えてる音がする。

「出て良いよ」
「んー――――……」

 ちら、と画面を見て。「そうくんだから…明日の事、ちょっと話してくるね」と言い、玲央が頷くと、立ち上がった。

 店の外に出て、自転車置き場の横に優月が立つのが見えた。
 反対を向いているので、顔は見えない。

 5分位、話して、優月が戻ってきた。


「明日ね、受付の人もう1人いるし、19時以降は空いてくるから、ライブ行っても良いって。ただ、打ち上げは――――……あの……」
「打ち上げは?」

 少し言いにくそうに、優月が眉を寄せながら。

「誰が来る打ち上げか聞かれたから少し説明したら……行かない方がいいんじゃないか?って」
「――――……」
「それか、どうしても行きたいなら、ライブの後一回外出てろって。一緒に行くからって…」

「――――……『そうくん』って、本名は?」

野矢 蒼のや そうだよ。くさかんむりに、倉って書いて。蒼くん」

「名前そのまま呼んでんの?」

「――――…オレが小学生で、蒼くんが高校生ん時に会って、そん時はまだ先生でもないし、一緒に絵を描いて世話してくれたお兄ちゃん、だった」

「――――……なんか、すげえ鋭い?」
「あー……うん。鋭い。頭良いし」

 ふふ、と優月は笑う。

「オレにとっては、ずっと味方だから――――……めちゃくちゃ頼りになるけど……敵にしたら怖そう。かなー……」

 笑いながら言ってる優月に。
 ふ、と息を付いた。


「……あのな、優月。昨日話した時、あんまり考えずに――――……お前に来てほしいってのしか考えてなかったんだけど……」
「……うん?」

「昔からのファンとか、知り合いの中にはさ――――……」
「うん」

「オレと――――……」

 なんて言おうか。一瞬止まると。

「……うん。分かってるよ。 ごめんね、オレも、それ、全然気づかなくて。さっき勇紀に聞いて、あ、そっか、と思って。 蒼くんなんかは、すぐ気づいてたし。 ――――…オレが鈍いんだと思う」
「――――……」

 なんで、優月が、謝るんだ。

「だから、打ち上げは何か邪魔になりそうだから、行かない方が良いかなって、思ってて」

「邪魔じゃない」
「――――……」

「邪魔なんかじゃないよ」

 とりあえず、強く思う事を、先に伝えた。


「――――玲央……」

 じっとオレを見つめてた優月が、ふわ、と微笑む。


「ん……ありがと」

 その時。「お待たせしました」と、食事が運ばれてきた。
 目の前に並べられた卵サンドに、優月が嬉しそうな顔をしてる。

 薄めの柔らかそうな食パンに、たっぷりすぎるくらいの卵。
 店員が居なくなると同時に、「すっごい美味しそう」と、笑う。

「いただきまーす」

 頬張って、美味しい、と満開の笑顔。


「――――……あのさ、優月」
「うん?」

「……オレの関係してた奴とか――――……会いたくない、よな?」

 邪魔な訳じゃないけど、お前が嫌な気分になるなら、来ないって方が良いのかも。

 ――――……でもそうすると、明日、優月と会えねーしな……。
 ………ってだから、どんだけ会いたいんだって。

 自分に突っ込んでると、優月は、んー、と考えながら。


「――――……でも、そこにいる全員がそうじゃないでしょ?」
「……ん?」

「だったら、誰がそうなのか分かんなけば、別にオレは嫌じゃないけど……」
「――――……」

 ……んん?
 ………そういうものなのか?

 卵サンドをもぐもぐ頬張ってる優月を見ながら、首を傾げる。

 つーか、この類の話をしてると、いつも、謎すぎる回答で、混乱する。

 むしろ、こうなってくると、オレの感覚の方が普通なんじゃと思えてくる。
 なんで優月は、平気そうな事、言うんだ?

 普通、嫌、なんじゃねえの?

 ……お前、オレの事、好きなんだよな?




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