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◇お互いに。

「夕陽」*玲央

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「……玲央がやじゃなければ、も少し、見ててもいい?」
「ん? 空?」
「うん。もうすぐ沈むんだよね……沈むとこが、好きで」

「――――……いーよ。気が済むまで見てな」

 うん、と嬉しそうなので。ふ、と笑い返して。
 2人で並んで夕陽を瞳に映す。


「すごい綺麗……」

「……絵に描きたいとか、思うの?」
「うん。思う……」

 優月は視線を逸らさず夕陽を見続けていて。
 オレは、たまに空を見ながら、その優月を眺める。


 まっすぐに空を見上げて、楽しそうな姿も。
 猫と戯れている姿も。

 ほんと。無邪気で。
 ――――……純粋な、感じ。


 きっと、まっすぐまっすぐ、生きてきたんだろうと。
 ……優月の事をまだそこまで知らないのに、そう思ってしまう。

 まっすぐな瞳で、見つめられると。
 ちょっと恥ずかしいと思う位。

 なんか、違う世界で生きてきた、気がする。


「――――……」

 そっと手を伸ばして、優月の頭に触れる。
 髪の毛、さらさらと撫でると。

 優月がふ、とオレを振り返って。
 嬉しそうに、にっこり笑う。

 邪魔だろうかと思って、そっと手を離した。

 空を見ると、もう本当に沈む所で。
 もう空の大部分は暗くて、下の方に微かに、太陽の光が残ってる。

 こんな風に、太陽が沈む所、見続けたのは、生まれて初めて。
 いつもの自分なら、見てと言われても、興味がなくて見なかった気がする。


 手を伸ばせば、すぐ触れられる。
 こっちを見て、嬉しそうに微笑む。

 ――――…オレとはまるで、接点の無さそうな優月と。
 触れ合えば、接点ができる。

 完全に光が消えると、優月がオレを見上げた。

 
「ありがと、玲央。付き合ってくれて」
「…ん」

「――――……暇だった?」
「……いや? 暇じゃない。綺麗だった」

「……うん」

 思うまま答えると、優月がまた、ふわっと笑顔になる。

 

「優月」

 ぐい、と腕を引いて、口づける。
 優しく、キスして、少しだけ絡めた舌をゆっくりと離して。
 至近距離で、優月を見つめると。


「――――……なんかさ……」
「……ん?」

「……夕陽が沈むの一緒に見て……すぐ、こんな優しくキスされるって」
「――――……」

「すっごい、ロマンチックだなーて。思っちゃうんだけど」

 玲央の真下で、そんな風に言って、クスクス笑う。


「――――……」

 なんか気恥ずかしくて。返事が出来ない。


 
「あ。……そんなの思うの、オレだけ?」

 照れたみたいに、ふっと視線を外して離れようとした優月の頬に触れて。
 もう一度、ゆっくり、キスした。



「――――……なんかオレ……」
「……?」

「――――……色んな事、割と何でも知ってると思ってたんだけど」
「うん?」


「見ないで過ごしてきた事……すげえあるのかも」
「……え?」


 優月は、オレの言った意味が良く分からなかったみたいで。
 きょとん、として、見上げてくる。


「とりあえず、夕陽が沈むとこ、初めてちゃんと見た」
「? ――――……うん。……え? 初めてなの?」

「こんな風に見たのは初めてだな」
「……そう、なんだ」


 ――――……夕陽見て、楽しそうな優月を、好きだなんて思うのも。
 今も、何だか――――……自分でも、よく分からないのだけれど。


「……玲央が知ってて、オレが知らない事は、いっぱいあると思うけど」

 優月が、んー、と考え込んでる。

「……オレが知ってて、玲央が知らない事、あるかなあ」
「……あるよ」

「ある?? そうかな……――――……今、浮かばないけど」

 優月がクスクス笑い出す。


「……知らない事、教え合っていけたら楽しいね」

 まっすぐな瞳でそんな風に言った直後。

「あ、でも多分、玲央が10こ教えてくれる間に、オレ1こかも… いや、20この間に1こ……」

 だんだん眉をハの字にしながら。優月がぶつぶつ言ってる。

「……ンなこと、ねえから」


 ぷ、と笑ってしまって。
 優月の頬にキスした。



「――――……飯食いに行くか? 食べて帰る?」
「うん」

 一緒に、立ち上がる。
 

「優月、何食べたい?」
「んー……。あ。オムライスは? 玲央、好き?」
「いいよ。どこで食べる?」

「あるんだよー、駅のとこに。美味しい、オムライスのお店」
「へえ……」

「知らない?」
「ああ」

 優月は、ふ、と嬉しそうに笑って、オレの腕に触れた。

「じゃあ、1こめ、教えてあげるね」
「――――……ああ」

 嬉しそうな笑顔に、ぷ、と、笑んでしまう。



 ……1こめじゃ、ねえけど。
 お前と居ると、なんか。
 今まで思わなかったことを思うし。


 ――――……楽しそうに隣を歩いてる優月と、駅に向かいながら。
 なんだか気持ちが穏やかすぎて。


 ……穏やか?――――……。

 んー……。



「優月」
「え?」

 くい、と腕を引いて、囁く。



「悪いけど早く食べて、早く帰ろうな?」
「え?」

「……早くお前に触りたいから、オレ」
「――――……っ……」

 また、赤くなる。

 んー。穏やかな時間もいいけど。

 こういう顔見てると。
 ――――……早く、泣かせたいなー。と思ってしまう。

 
 
「さ、早く店行こうぜ」
「……うん」

 赤いまんまで、優月が頷くのを見て。
 よしよし、とまた、撫でた。



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