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◇お互いに。
「夕方まで待てない」*玲央
しおりを挟む食事を取り終えて、ぼちぼち皆で立ち上がり、3限の教室に向かう。
途中途中で皆と別れながら、5号館の前に通りかかった時。
前方に優月を見つけた。
今まで、これっぽっちも視界に入ってきた事のない奴なのに。
――――…目が勝手に、探しているんだろうか。
なんか、ものすごく、見かける気がする。優月は村澤智也と歩いていた。
優月は、村澤の方を向いて、楽しそうに笑ってる。
ふ、と顔が綻びそうになったのに気付いて、引き締めた。
隣で話しかけてくる友人に応えながら、視線は前方、階段を上っていく優月に向いてしまう。3階まで上って廊下に出ると、優月と村澤も、先の廊下を歩いていく。
次の授業。同じ校舎の同じ階なんだ。と、気付いて。
何だか、少し――――…… 気持ちが弾む気がして、おかしい。
優月が笑顔で頷いた後。
村澤の言った何かの一言で、かあっと赤くなって。
村澤に、肩をポンポンされてあやされてる。
そのまま押されて、優月は教室に入って行き、村澤は、これからオレが向かおうとしている教室に入って行った。
――――……つか。
優月、すぐ赤くなる……。
……可愛いから、他の奴の前であんま、赤くなるなよな。
なんて、ムカつくのは。
ほんと、何なのか。
「……悪い、先行ってて」
一緒に居た皆にそう言って。
優月が入っていった教室に、足を踏み入れる。
――――……居た。
誰かと話しながら、列の端に座ろうとしてる優月の腕に触れた。
「?」
不思議そうに、くる、と振り返った優月が、オレを見て、えっ?と目を丸くした。
「玲央……? え? どうし」
「4限の授業って時間に厳しい?」
「え? えっと……ううん、そんなんでも……」
「――――……この授業終わったら、この階の奥のトイレに来て?」
まわりには聞こえないように、優月にそう伝えた。
「――――……う、ん……わかった」
優月はすごくびっくりした顔のまま。
ただ、頷いてる。
その手を離して、オレは優月の居る教室を出る。前のドアから教授が入れ替わりに入ってきた。廊下に出ると、オレの教室に向かって歩いている教授の後ろ姿も見えたので、足早に向かい、後ろのドアから教室に滑り込んだ。
5限が終わるまで待てば、思う通りに触れるのに。
朝別れて。2限の前に上から優月を見て。
昼の前に、少しだけ、触れて。
――――……今、別の奴に赤くなってる優月を、見て。
夕方まで待てない。 と、思うなんて。
――――……オレ、絶対、おかしいよな。
なんでこんなに、触りたいんだか。
そうも、思うのだけれど。
やっぱりどうしたって、触りたくてしょうがないのは誤魔化しようがない。
――――……早く、終われ。
始まったばかりの授業に対して、そんな風に思って。
片肘をついて、ノートに視線を落とした。
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