上 下
99 / 830
◇お互いに。

「優月を観察」1*玲央

しおりを挟む

 翌日。1限と2限の合間。

 席を取って、廊下から、下を覗き込んだ。


 なぜかと言うと。
 この窓は、優月と出会ったあの場所の斜め上にあり、下を見ると芝生とあのベンチが見えるから。

 ――――……優月、居ないか。
 ……まあ、昼時でもねえし。 居る訳ないか。

 ていうか、ここから見てる奴が居たら、オレ達がキスしてたの、丸見えだったな。……まあ別に良いけど。


 ――――……今日、風、気持ちいいな。

 なんとなく、ぼーーっとその場所を見つめながら、風に当たっていると。昨夜から、ついさっき迄の事が思い浮かぶ。


 昨日も結局最後まではしないで終わらせた。
 散々イかせて、キスして、後ろ慣らして。
 そこまで結構な時間もかけてたし――――……。

 「大好き」とか言った後くらいからは、半分、うとうとし始めて。
 あまりに可愛く思えてしまって、一緒にイって、寝かせてやる事にした。 
 まあ。別に、今更急いでもねえし。

 朝起こしてシャワーを浴びさせて食事して、1限の優月に付き合って学校に来た。1限は部室のソファに寝転んで、ライブの曲を聞きながら過ごした。

 優月とのこんな生活が、何だかおかしい。

 朝が早くて、一緒にしっかり朝飯を取って、朝に学校に来て。しかもオレには1限がないのに。

 ――――……健康的な生活が、笑えてくる。


 優月と会う前まで、誰かとセックスして、夜中まで起きていて、朝遅く起きて、2限に間に合うように学校について。授業を受けて遊びに行って誰かと会って――――……みたいな、そんな生活だった。 食事も、特に朝はまともに取ってなかった。

 

「クロー?」

 そんな声に、ふと下を見ると。

 ――――……優月だ。
 昼だけじゃなくて、こんな隙間の時間にも、ここに来る訳?


「あ、クロいた、おいでー」

 3階だけど、優月の声が結構聞こえる。優月の声がわりと高めだからだろうか。一瞬呼びかけようとしたけれど、何だか少し観察したくなって、口を閉じた。ちょっとした、好奇心。


「おはよークロ」

 よしよし、とクロを撫でながらそう言って、優月はその場にしゃがみこんだ。急いでコンビニに買いに行ってたのか、はあ、と息を整えながら、缶詰を開けて、紙皿みたいな物に移してるのが見える。

「食べていいよ」

 クロの頭を撫でながら、優月が言うと、クロは食べ始めた。

 角度的に、ちょうど優月の顔が、何となく見える。
 ふ、と微笑みながら、クロを見つめてるのが分かる。


「今日お昼来れないからさ。ちょっと早くてごめんね」

 なんて、話しかけてる。

 はは。 なんかほんと――――……無邪気。

 クロは食べ終わると同時に、すり、と優月の脚にすりよった。


「んー、なんでお前はこんなに可愛いかな~…… 美味しかった? 明日はおやつ持ってきてあげるからね」

 そんな風に言いながら、クロを撫で回している。


 ――――……は。なんかあいつって、いつか騙されそう。
 ちょっと心配になる。

 ……つか、今オレと、色々なってる時点で、ちょっと騙されてねえかな?



 ほんとなら、優月とオレなんて、接点も一切無く、少しも絡むはずの無かった関係な気がする。

 あそこでクロを挟んで会って、会話が無ければ。
 学校ですれ違うだけなら、一切触れあわずに、過ごして終わった筈。


 知り合う事もなくて。 
 触れ合う事もなくて。


 可愛いなんて、思う事も、無く。



「――――……」


 何だか。
 ――――……すごく、ざわつく。



 会えて、良かったな、なんて。
 思っているような、気がする。



 
しおりを挟む
感想 778

あなたにおすすめの小説

完結・虐げられオメガ妃なので敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王に溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

誰よりも愛してるあなたのために

R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。  ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。 前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。 だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。 「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」   それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!  すれ違いBLです。 初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。 (誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)

花婿候補は冴えないαでした

BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

そんなの聞いていませんが

みけねこ
BL
お二人の門出を祝う気満々だったのに、婚約破棄とはどういうことですか?

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

処理中です...