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◇進展?

「照れ」*玲央

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「――――……優月、今日用事ある?」
「ないよ」

「とりあえず、オレ今練習抜けて来ててさ。練習あるから、戻らねえといけないんだけど……」
「あ、うん。ごめんね」

 言いながら、優月が立ち上がった。


「つか、オレが悪いんだから謝んな」

 そう言ったら、優月はじっとオレを見上げてきて。
 それから、くす、と笑った。

「……じゃあ――――……来てくれて、ありがと」
「――――……」

 にこにこ笑ってそう言う優月に、何だか、すごく照れる。
 なんだかくすぐったいと言うのか――――……。


「……ん」
 
 呟いて頷く。


「……な、今日もオレと過ごせる?」

 聞くと、優月はまた嬉しそうに、うん、と頷いてから、あ、と止まった。

「明日の必修の授業のノート、無いとダメだから、オレ今日は家に帰らないと……」
「ああ……じゃあ一緒に取りに行く」
「え?」
「……なに?」

「……オレんち、付き合ってくれるって事?」
「だって、その後、オレんち連れてくし。ダメ?」

「……良い、けど……良いの?」
「良いっていうか、それしかないだろ?」

 優月は、んー……と少し困った顔をしてる。


「でも、面倒だよね?……あ、そうだ。玲央が練習してる間に、オレ、取ってきて、戻ってくるよ」

 良い事思いついた、とばかりにそう言う優月の頬を、ぶに、とつまむ。


「一緒に行くって言ってんだろ?」
「――――……う、ん」

 照れたみたいに笑う優月が可愛くて、ちゅ、と頬に口づける。


「――――……練習見においで」
「え。見に行っていいの?」
「いいよ」
「行きたい」

「じゃあ行こ」

 嬉しそうな優月の腕を引いて、一緒に教室を出た。

 さっき、ここに向かっていた時は、気分最悪だったから。
 ニコニコの優月が、 隣に並んで歩いてるのが――――……やたら、嬉しい。


 らしくない感情にまた、くすぐったいと感じる。


「あ、ちょっと飲み物買う」

 自販機の前で止まって、適当に4本購入。

「悪い、半分持って?」
「うん。 バンドの人に?」

 2本優月に持ってもらう。

「ああ。抜けてっから。  優月は何飲む?」
「んと……カフェオレがいい」
「これ? こっち?」
「こっち」
「ん」

 優月のも一緒に買って、練習場所へと歩く。


「場所20時までだから、結構待たせるかも。夕飯、その後で大丈夫か?」
「うん。全然大丈夫」
「ん」

 練習場所に着いて、ドアを開けた。

「おっそ、玲央!やっと来たー」
「もうオレら大分合わせたから、あと歌だけだぞ」

 そんな声に、悪い、と言いながら。 後ろに連れてきた優月を、部屋に招き入れた。


「あ、優月!」

 勇紀が、何だかやたら嬉しそうに笑いながら、優月に駆け寄ってくる。


「玲央と仲直りしてくれたの?」
「え。……別に、喧嘩してた訳じゃないよ?」

「あれ?そうなの? 玲央がアホみたいなことでキレたんじゃないの?」


「……優月、飲み物貸して」
「あ、うん」

 勇紀の余計な言葉を遮りながら、優月から受け取ったペットボトルを勇紀に「好きなの取って」と渡す。

「おーサンキュー」

 勇紀が3人で分けに行くのを見送りつつ。

「優月、こっち来て」

 物珍しそうに部屋を見まわしてる優月の肩に触れて歩かせる。


「ここ座ってな」

 部屋の端にあるソファに連れて行き、さっき買ったカフェオレを渡して、座らせた。


「待ってて、終わるまで」
「うん」

 素直に座って、笑顔で見上げてくる優月に、ふ、と笑って、くしゃ、と髪を撫でる。

 それから、くるりと体の向きを変えて、3人の方に歩こうとした瞬間。


「はー?なに? 優月相手だと、甘々になっちゃう訳??」

 勇紀が大げさに騒いで笑って、甲斐と颯也に言ってる。


「るせ。 ……悪い、待たせた。やろうぜ」

 あまり反応せずに一蹴して、そう言うと。
 3人は苦笑いを浮かべながら、配置についた。



「とりあえず新しい3曲、仕上げよ」
「OK」



 曲の演奏が始まって、歌い始める。



 ――――……何も考えずに、優月連れてきたのだけれど。




 ………なんか、すげえ、恥ずい。ような気がする。



 ……なんだこれ。
 初体験な感情。 


 ……つか、照れくさいとか、あんまり考えた事なかったな…。



 3曲、歌い終わって、「まあとりあえずいっか」と颯也が言うので、さっき配った飲み物で、一旦休憩。


「ねー玲央さあ」

 隣に来た勇紀が、ぷぷ、と笑って。


「なんか照れが入ってない?」
「……入ってねーし」

「嘘だよー絶対、なんか照れてるよねえ?」

 ぷぷぷ、と可笑しくてたまらないと言った顔で、近寄ってくるので、「まじでウザイ」と、押しのけた。


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