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◇2人の関係

「大好きすぎ」*優月

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「あ。――――… 玲央だ」

 ふわ、と気持ちが上がる。

「出てもいい?」
「……良いよ」

「……黙っててね?」
「分かった」

 クス、と笑う蒼くん。オレは通話ボタンを押す。

『優月?』

 初めて、電話越しに聞く、玲央の声。
 ……玲央の声。やっぱり、良い声だなぁ。

 その声が、自分の名を呼んでくれている事がすごく嬉しくて、めちゃくちゃ笑顔になってしまうのが、自分でも分かる。

「玲央……」
『いま、絵描いてる?』
「あ、ううん。あの――――… 先生の息子さんと……あ、その人も、先生みたいな人なんだけど、今夕飯食べに来てて。ごめんね、電話……」
『……別にいい。なあ、オレ、今夕飯食べ終わったとこ、なんだけど……』
「うん」
『……お前今どこに居んの?』
「……どこ……蒼くん、ここ、どこの駅が近い?」

 蒼くんが答えてくれた駅名を、玲央に伝える。

『……お前、今日オレと会う気、ある?』
「――――え……これから?」
『……無理ならいいけど』
「無理じゃないよ。……オレ、会いたい」

『――――……じゃあ、学校の駅で会おうぜ。どれくらいで来れる?』
「1時間あれば――――……」
『分かった。近づいたら連絡して』
「うん」

 あとでな、と電話が切れた。


「……優月。 顔。 緩みすぎ」

 クッと笑いながら、両頬をぶにぶにとつままれる。

「いった……痛いよ、蒼くんっ」

「つーかさー…… 電話出た時の、笑顔。 お前、あんな顔で、そいつの前で笑ってんの?」
「……あんな顔って?」
「超緩みまくった顔」
「――――……」
「その顔でそいつの前に居たら、どんなに鈍くたって、お前が好きなのは、バレバレだと思うけど」

 それで隠してるつもりなの? 好きとか言わなくたって、バレるって。
 続けて、あれこれ言われて、む、と唇を噛む。何も言い返せない。


「とにかく……オレ、玲央とこれから会う事に、なった」
「……まあそうみたいだな」

「……だからごめん、もう、帰ってもいい?」

「は? ……お前、飯だけは食ってけ」
「あ……はい」

 言われて、それもそうだと思い、一生懸命食べ始める。

「ちゃんと噛めよ」

 クスクス笑う蒼くんに、突っ込まれつつ。

「――――……こんなバレバレのお前を、側に置いとくなら、お前に好かれるのは嫌じゃないって事じゃねえのかなーと、オレは思うけどな」

 そんな事を言ってくれて、素直に喜びたい所ではあるのだけれど。
 全然素直に喜べない。

「――――……ていうかさ。蒼くんさ……」
「うん?」

「さっき、モテモテのバンドやってるイケメンが、何でオレなんかに興味湧くんだ?とか、ひどい事言っといて、そんなの急に言われたって、もー、からかってるとしか思えないからね」

「ああ、まあ……確かに――――……」

 クッと笑いだして、蒼くんはまたしばらく笑い続けてる。
 昔から、笑い上戸。そして、人をからかう……いや、オレをからかうのが楽しくてたまんないらしい。昔から、ほんと変わらない。


「……でもさ。よく考えてみ?」
「なに?」
「オレもさ、言っちゃなんだけど、超モテモテな、大人な訳。分かる? ほんとは優月みたいな奴に構うようなタイプじゃない訳。ほんとは、忙しくてそんな時間も無い訳」
「……じゃあ構わなきゃ良いじゃん」

 ていうか、どこが「大人」なんだ……。蒼くんてほんとに……。

「――――……そんなオレがさ。忙しい中、お前が絵を描きに来る火曜日は、お前からかいに――――……いや、可愛がりに、なるべく早く仕事終わらせて会いに行ってやってる訳。分かる?」
「つか今、からかいにって言った……」

「……まあそこ、オレの楽しみの1つだから。お前の絵も見たいしな」
「……」

 どこまでが本気で、どこまでがからかってるのか、全然分かんない。

「だからさ。そいつも、オレみたいにさ、優月みたいなのがタイプなのかもしんないじゃんか。だったら、何もしなくても優月のままで居れば良いんじゃねーのか?」

「……蒼くんのは、なんか違う気がするし……オレのままって、言われても……更に分かんなくなるんだけど……」
「まあタイプっつーのをオレの方にはめるのは、微妙だけど」

「……玲央の事だって、オレが、玲央のタイプとか言ったら、ほんと怒られちゃいそうだし」

「……つか、誰に怒られるんだよ」
「……玲央の、セフレの皆さん……?」

 言った次の瞬間。
 ぶ、と吹き出した蒼くんが、また、ヒーヒー言いながら笑い出した。

「もうさ、マジで、笑いすぎだからっ」
「だってお前――――……」

 クックッ。
 
 誰だ、クールとか、この人に言ってる、全く見る目のない人は。
 オレに言わせれば、クールなんか、ひとかけらもないからね……。

 オレをからかって楽しんでばっかで。

 まあ――――……でも、大事なとこは、いつも守ってくれる気がするけど。


「――――…んー。お前、今日、初体験しちゃうのかなー」
「っっっ!!!」
「ついに、大人になっちゃうんだなあ?」

 ふ、と笑いながら、しみじみ言われ、真っ赤になってしまう。

「……蒼くんのバカ!!」

 クッと笑いながら、「どこで会うの?送ってやるよ」と言う。

「学校の駅だけど……」
「じゃ行こ。大丈夫、顔出さないから。そいつ見るだけ。今の時間なら車のが早く着くし」

「え。でも……いいの? お仕事疲れてないの?」
「…………」

 急に、黙って。それから伸びてきた手に、よしよし、と撫でられる。

「お前のそーいうとこなー……ツボなんだよなー」
「……ん?ツボ?」

「何でもない。口では言えない。……行こ。送る」
「うん」

 クスクス笑う蒼くんと、店を出て、車に乗り込む。

 色々話しながら……からかわれながら。
 玲央と待ち合わせの駅前のロータリーの端で止まってくれた。シートベルトを外してドアを開けて降りて、蒼くんを覗いた。

「蒼くん、ごちそうさまでした。送ってくれてありがと」
「ん。オレは、『玲央』を見たら帰るから。声掛けなくて良いからな」
「うん、分かった。じゃ、またね。ありがと」

 蒼くんに手を振って、駅に向かう。
 ちょうど改札に着いた所で、玲央が現れて。

「優月」
 と、呼んでくれた。

 あ、もうだめだ……。
 嬉しすぎる。


「玲央……」

 近づいてきた玲央を見上げて笑った瞬間。
 くしゃ、と頭を撫でられた。

「……早く、いこうぜ」

 背に手を置かれ、歩き出す。


 手、温かい、玲央。

 背中に置かれている手の温度が熱くて。 
 それだけの事に、ドキドキする。


 あ。――――……蒼くん……。
 車の横を通り過ぎる時。
 蒼くんと目が合って。ふ、と笑まれた。


 ……どう思ったんだろ。蒼くん。
 ――――……思いながらも。



「……優月?」

 優しく笑ってくれる瞳をただ見上げるだけで、息が止まりそう。
 玲央の事しか、考えられなくなる。



 やばいなー。大好きすぎるな。
 玲央の事。


 これから2人になれるんだと思うと。
 心臓の動きが、めちゃくちゃ、速くなる。







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