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◇2人の関係

「未知の」*優月

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 玲央のマンションを出て、一緒に歩いて学校に来た。


「オレ、1号館なんだけど、玲央は?」
「……バンドの部室行くから、オレはこっち」

 逆方向を指されたので、じゃあここでお別れか、と。
 すごく寂しくなりながら、玲央を見上げた。

「じゃあ行くね。 色々、ありがと、玲央」
「――――……」

 玲央の手がふ、と、頭に触れた。
 ふわ、と撫でられる。

「……玲央」

 優しい触れ方に、ふ、と笑うと。
 ゆっくり、手を離された。

「――――……連絡する」
「うん」

 最後見つめあって。玲央と、別れた。
 玲央が歩き去ってくのを、何となく眺める。

 家に居る時のラフなカッコも良かったけど。
 外に出る時の服装も、やっぱりカッコいいな。
 
 歩いてるだけで、しかも後ろ姿なのに、目立つというか。
 後ろ姿だけでも絶対カッコいいと思えてしまう。

 かなり離れてから、玲央が一度、くる、と振り返った。
 胸が、どきっとする。

 離れたまま、少し止まって。
 玲央が軽く手を振った。小さく手を振って返して。

 いつまでも止まってるのは変かなと思って、オレも歩き出した。


 1限の教室について、ふ、と息をついた。


 ――――……あーオレ……絶対。
 ……玲央の事が好き……だな。 


 どうしよう……。

 机に肘をついて、うー、と頭を抱えていると。


「どーした、優月?」

 ぽんぽん、と頭を叩かれて、顔を上げると、同じクラスの友達。


「あー……うん……ちょっとね」
「ちょっとどーした?」

「んー、カルチャーショック……というか……未知の世界に突入してて……」
「何それ? どこで突入したの?」

「……うーん……最近知り合った人との事がね……」
「そーなんだ。どういうとこが??」

「うーん……うーーん……口ではいえない……」

 そのまま、突っ伏す。

 キスも、触れられる事も。
 あの、見つめてくる視線も、あの声で囁かれる事も。

 何なら、あのマンションだけだって、かなり別世界だし。
 今着てるこの、すごい着心地のよすぎるシャツと下着も、いつもと違くて、なんだか変な感じがして……。

 きわめつけが――――……セフレにして、とか。
 ……全然最後まで出来てないくせに、そんなこと頼んじゃった、自分……。


 あー……だめだ、もう……。
 頭、クラクラしてきちゃった……。


「大丈夫かー?」
「……それが、あんまり大丈夫じゃなくて…」

「そっか、がんばれよ?」

 よく分からない励まし方をされながら、背中をポンポン、とされた。


「ありがと……」

 そのまま、突っ伏していると、教授の声がして、授業が始まった。


 なんとか、起き上がりはしたものの。
 いままでで一番、全然身の入らない、授業になってしまった。

 1限が終わった所で。
 美咲と智也に、昨日は心配かけてごめんね、と、連絡を入れた。
 すぐに、『お昼、集合ね』と、美咲から入ってきて、智也がOKのスタンプ。オレも、同じく了解した。
 
 うー。2人に何て言えば良いんだろう。
 すごく、心配してくれてただろうし。

 うー……。

 1限もやばかったのに、2限はさらに、何も頭に入ってこない。
 だめだ。今日の授業全滅しそうな気がする……。

 2人に何て言おうと思うと困って、小さく、何度もため息をついてしまった。

 けれど。
 玲央を思うと、心の中はなんだか、熱くなって。


 あー……。
 ほんとに……。


 ……好きみたい……だなあ。




 午前中だけで、何度もそう思って。
 1人、赤面して、それを隠すのに、何度も俯いた。



 2限が終わって、昼食時間。

 友達たちに、「優月昼いこ?」と話しかけられたけど、約束があるからと断った。智也と美咲に会うのはいつも同じ学食。学部が違うから授業は一緒にはならなくて、お昼後の授業も皆バラバラの建物なので、中央にある学食で集まる事になってる。

 広い食堂なので、大体いつも、同じ辺りに座って集まる事にしてる。
 あたりを見回すと、2人、発見。


「おはよ、智也、美咲」

 あ、もう、おはようじゃないか、なんて自分で思いながら。
 振り返った2人に、見つめられる。


「――――……」

 2人が、なんだか、オレを見て、ほっとしたような顔をした。


「良かった、元気そうで」

 智也のそんな言葉に。
 そんな言葉が出てしまう位、心配させちゃったんだなと、思って。

「心配かけてごめんね」

 そう言ったら、智也が「大丈夫だよ」と言いながら、オレに手招きをした。

「こっちおいでよ、優月」

 智也に呼ばれるまま、その隣に座る。
 いつもはこんな風に呼んだりしないんだけど……。
 きっと、美咲の真横にしないでくれたんだろうなと、智也の気遣いに、心の中では、苦笑い。
 ……だってまだ美咲、一言もしゃべってないし。

 昼なのに、食事も買いに行かず、3人で、少し顔を寄せる。


「昨日あれから、どうした?」
「……えっと――――……会えて、玲央のマンションに、行った」

 ぴく、と美咲が眉を寄せる。

「……えーと……それって……早い話、あいつとそーなった、てこと?」

 智也がそう聞いてくる。

「……最後までは、してないんだけど……」

 2人が、え?という顔で、オレを見つめる。

「なんか、多分オレがいっぱいいっぱいになっちゃったから……途中で終わらせてくれて……オレ、寝ちゃったし……泊めてもらって、そのまま学校に来た、感じ……」

 そう言うと、2人が顔を見合わせてしまった。

「あいつと2人きりになって一晩居て、そんなの、ありえんの?」

 智也の声に、オレも少し首を傾げながら。

「……不思議なんだけど……実際そうで」

 色々はされたんだけど……。
 ……色々――――……。

 ……あ、やば……。

 不意に、昨夜の事を思い出した瞬間、かあっと耳まで熱くなった。


「――――……」
「――――……」


 智也と美咲が、オレの反応に、また顔を見合わせてしまった。


「……ねえ、優月」

 初めて、美咲がちゃんと声を出した。

「……優月は、これからあいつとどうなりたいの?」

 どうなりたい。
 ……どうなりたい……。


「……オレ、朝、玲央と話してて……どうしても、玲央と、これきりになりたくなくて……」
「――――……なくて?」

 2人がすごく、自分を見つめてくるのを、見つめ返しながら。

 ……なんて言ったらいいんだろう。
 ……って、もう……正直に言うしか、ないかな。


「……セフレにしてって――――……お願いした……」

 
 美咲が、ぴき、と、強張った顔をして。
 智也は、あちゃ、という顔をして。


 あ。やばい事、さらっと言ってしまったなーと……思いつつも。

 うーん、これ以外言いようがないし……。


「心配かけるの、分かってる。ごめんね……でもオレ、どうしても、玲央と居たくて。それでも全然良いかなって、思っちゃったんだ……」


 そう言うと。
 2人は。特に美咲は。

 はーーー、と、ため息を、ついた。


「……あいつのこと、好きになっちゃったの?」
「……うん。多分。そうなんだと思う」

「――――……好きって、伝えたの?」
「伝えてない。だって――――……好きとか重いの、やだって、美咲の友達が言ってたって聞いてたし……」

「――――……」

「好きって言ったら、そうなるなら――――……これきりにしたくないなら、そういう関係になるしかないのかなって思って……」
「――――……」

「それでもいいって、思っちゃって……うー、ごめん……」


 美咲のまっすぐな視線に耐えられず、今日何度……だろう、机に突っ伏すの。


「ごめんてオレらに言うとこじゃないから」

 智也が困ったように言って、ポンポン、と背中を叩いてくれる。

「ていうか、神月はなんて?」

 智也の声に、なんとか顔を上げて。

「……なんか、お前そんなのになれるの?て聞かれたんだけど……なれるならなりたいって言ったんだ、オレ」
「――――……」

「そしたら、いいよって言ってくれて……」

 そう言うと、数秒黙った智也が。

「優月はほんとにそれでいいの?」
「……オレと、会ってくれてる時の玲央だけ見てれば、いいのかなって……思って」

「……優月は、ほんとは、ちゃんと付き合う関係の方が良いでしょ?」

 美咲の言葉に、うん、と頷いて。

「……でも、玲央とは、恋人にはなれないから……オレ今、他に恋人になりたい人居ないし。…玲央が、他の人と会ってても、最初から分かってれば、それはそれでいいのかなって思っちゃって……」

 そう言ったら、今度は美咲が、はー、と息をついて、机に倒れてしまった。

「あーもう……そこまで覚悟してたら、何も言えないじゃない……」

 美咲のそんな倒れる姿、初めて見たので、困って智也に目を向けると。智也は、すごい苦笑いで、大丈夫、と言ってくれる。


「ていうか、何なの、優月、あいつの何がいいの??」

 体は起こしたけど、まだ額に手を当てて、顔は下に向けたままの美咲。


「……何って……何だろう……」

 玲央を、ぱっ、と思い浮かべる。


「――――……ぜんぶ……かも……?」


 言ってしまったら、美咲がものすごい大きく、はあ、と言った。
 ため息とかではなく、もう、はあ、と声で、はっきり言った気がする……。

 うう。ごめん……。
 
 隣で、智也はますます苦笑いしてる。

 
「……とりあえず、ごはん、買いにいこっか」

 智也の声に、ん、と頷いて、美咲を見ると。
 ふーーーとまた息をつきながら。美咲も頷いて、立ち上がった。




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