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◇2人の関係

「どんな関係でも」*優月

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 色々考えながら、シャワーを浴び終えて出て行くと。

 下着の話から、なぜかまた触られることになってしまって。
 あっと言う間に手でイかされてしまって、情けない事に泣いてしまった。

 もうオレの許容範囲は軽く飛び越えて、色んな物が溢れ出て来てる気がする。泣いてた事を、恥ずかしいと思えた時にはもう、玲央が目の前でちょっと困ってて。思わず、ごめんね、と謝ってしまった。

 でもなんか。お前に触るの楽しいって言われたのは、何だか嬉しくて。
 許容範囲めちゃくちゃ飛び越えてしまってても、オレは玲央が笑ってくれると嬉しいんだな、と、思った。

 玲央って、また、オレと会ってくれるのかなと思って、聞いたら。
 何か、そこに随分間があったし。嫌なのかなともドキドキしたけど。


 何か色々考えた末に、会おう、と、言ってくれた。最後までしてないし、とかも、言ってた。そうだよね。しないで寝ちゃったし……。うぅ、オレ、ほんと意味わかんない……。


 食事を取り終えると、言ってくれた通り、玲央がまたドライヤーを掛けてくれる。

「――――……気持ちいい?」

 洗面台の鏡の前で、玲央が後ろから聞いてくる。鏡越しに目があって、自然と笑顔になってしまう。

「……うん」

 頷くと、玲央はふ、と目を細める。

「寝ちまいそうな顔してるもんな」

 そう言って、クスクス笑いながら、優しい手で髪に触れる。


 ……玲央ってほんとに優しいな……。

 美咲が言ってた言葉の意味が、自分の中で、分かってきた。



 玲央は、きっと、色んな人と、楽しんでたい、そういう人で。

 オレにそういう事をしてる玲央って、楽しそうだし。気持ちイイ事が好きで、っていうの――――……玲央に会う迄のオレにはまったく分からなかったけど。

 恋人でもない玲央と、色々してしまった今のオレには……もう、分からなくも、ない。

 そういう事を複数の人としたいっていう所は、やっぱりよく分からないけど。玲央みたいな人が、玲央みたいな感じでするなら……そういう人も居るのかな、と、思えてきてしまっている。

 めちゃくちゃカッコいいし、気前も良くて、優しいし。
 キスもそういう事も、めちゃくちゃ慣れてて。まるで愛されてるって勘違いしそうな位に優しいから、美咲の友達みたいに本気になっちゃう人もそりゃ当然居て……。

 でも、玲央は、楽しむ相手に、そういう深い感情は求めてないから、そういうのを期待する人とは、別れて終わりに、してるんだ。

 優しいから、期待を持たせないように、そこは、冷たくきっぱりと……。

 たぶん、それを、美咲は悪く思ってるんだろうなと。

 でも、玲央のしてる事は、今のオレには、分からない事も無くて。
 オレは、それをしてる玲央の事を、嫌だとは、思えなくて。


 ――――……もし、玲央が、オレと会いたいって、思ってくれるなら。
 会いたいって言ってくれた時に、会えるの、嬉しい、かもしれない。

 その関係を、何て呼ぶかは――――……。

 ……美咲にどやされそうだけど。


「ん、おわり。 お前の髪、フワフワな……」

 ドライヤーを止めて、玲央がそう言ってクスクス笑いながら、髪に触れる。
 ドキドキするのはもう、ごまかしようが、ない。

「玲央……」
「ん?」

 ドライヤーを片付けながら、まっすぐ見つめてくれる。


 一つだけ。気になってることを聞いてみる事に、した。


「……玲央って、恋人はいないの?」


 特別な恋人が居るなら。その人にも悪いし。――――……特別に想う人が居る人とそういう関係を持つって、全然意味が分からない。そんなのは無理。


「……恋人は居ない」

 何だか随分間が空いて、玲央は、まっすぐにオレを見つめながら、そう言った。


「そうなんだ……」

 オレは、一度頷いて、俯いた。

 恋人は、居ない。
 ――――……そっか。


「じゃあ、あの……」
「……ん?」


「……玲央は、こんな風に会う人、他にも居るよね?」
「――――……ん。セフレは居る」


「――――……じゃあさ」
「――――……」

「オレも、セフレ、ていうのに、してくれる?」
「――――……は?」


 玲央は、それだけ口にして。
 それきり、しばらく全然、返事をしてくれなかった。


 まっすぐ見つめ合ったまま、かなりの時間が経って。
 何だか急に、恥ずかしくなって、赤面してしまった。

 ……オレってば、昨日最後まで出来ないで寝ちゃったし、ご飯食べさせてもらって、服も洗ってもらって、ドライヤーしてもらって、って、全部してもらってばっかりで、セフレなんて、ありえない……って事?

 よく考えたら、いや、よく考えなくても、オレ、そもそも、玲央と最後まで、してないのに、今の状態で、セフレとか、こいつは何言ってんだろ、と、玲央が思ってるとしか、思えない。

 ……神様、今の発言、取り消してください……っ……。


「セフレって――――……そんなの、お前、なれるの?」
「……っ」

 俯いた、頭の上で、玲央の、声。

 ……………っなれません。
 ていうか、そんな技術? 技能?がないというか。

 わーん、ごめん、玲央、オレがバカでした。

「――――……っっ……」

 もう謝ろう。
 数いる玲央の魅力的なセフレの方々と比べて、そこに並ぼうとしてるオレが、バカだったんだ。

 会おうって、玲央が言った意味すら、よく分からなくなってきた。

 最後までしてないし、会おう、と言われた。

 ……あ、最後までしたらもう、会わないつもりだったのかも。

 あそこまで色々して、最後までしないとか、そんなのやっぱりありえないから、そう言ったのかも。

 なのにオレってば、なんて図々しいお願いを……。
 ……もう、謝るしかない。


「玲央、ごめん、オレ、図々しかっ――――……」

 顔を上げて、謝ろうと言いかけた瞬間。
 腕を少し乱暴に引かれて、唇が重なった。


「……っ……ん、う……っ……?」

 まったく予期してない所に。
 舌が捻じ込まれて。ぎゅ、と目を閉じる。


「……っふ……っ……ん……?」

 何でこのタイミングで、キスするんだろう。

 ……っ謝れてないし。
 せめて、謝らせてほしい。

 全然何も出来てないし、これからだって、大した事もできなそうなのに、玲央のセフレになりたい、なんて。


 取り消させてほしい、んだけど……。


「……っん、ぅ……っ」


 キスが深すぎて、息が苦しすぎて、少し離したくて頭を引こうとするのに、玲央の手に押さえられてて、まったく動けない。引こうとしたのを責められてるみたいに、より近づけられて、口内を嬲られる。

「……っん……」

 自然と涙が滲んできて。
 玲央の服を掴んでた指が、握り締めてないと、震える。



 ――――……なんで、いま、
 こんな内容の、会話の途中で、

 こんなキス、するんだろう。


 全然、わかんない……。
 何も――――……考えられない。


「――――っ……ンっ……」


 頭の中が真っ白なまま。
 どれだけキスされてたか、よく分からない。

 膝が、かくん、と抜けて。でも、玲央に抱き止められてるから、そのまま続いた。

「……っ……ん……」


 最後に押し付けるみたいにキスされて。
 離れた唇に、ゆっくり瞳を開けると。

 玲央が、オレをじっと見つめてて。


「――……玲央?」
「……オレと、セフレに――――……なりたいの?」


 セフレに……なりたいかと聞かれたら……。
 その名前のものになりたいかと考えると、そうじゃない気はするんだけど。

 でも、玲央と居れるなら。
 全然、それでもいいのかも。
 

「……オレ、玲央と居たいから。なれるなら、なりたい」
「――――……」


 そう言ったら。
 玲央は、じっとオレを見つめて。

 何だか、またしばらくの間があいて。
 
 
「――――……分かった。いいよ」

 そう言った。
 それから、玲央が、手を頬に滑らせてきた。


「――――……お前と会いたいって、オレ言っただろ……」


 そんな言葉に、ふわ、とめちゃくちゃ嬉しくなるあたり。
 どうかしてるかもしれないけど。


 でもオレ、今、どんな形でもいいから、この人の側に、居たい。



 ……美咲に、何て言おうかな……なんて、一瞬思うけれど。

 でも。
 オレ的には。

 玲央と居られるなら、その関係が何でもいいと思ったと。
 ……伝えるしかない、かな。



 
 

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