24 / 822
◇初めての夜
「気になる」*玲央
しおりを挟む2人でバスルームを出る。後ろをついてきた優月は、またリビングに入ると、立ち止まった。
「飲み物もってくるけど。どした?」
「なんか、広すぎて……、どこに座ってたらいい?」
「とりあえずソファに座ったら」
ふ、と笑いながらそう言うと、ゆっくりソファに近付いて、座ってる。
「……なんか、下、履いてないの、変」
そんな事を言って、少しもぞもぞしながら座り直してる。
ぷ。……可愛い。
「ん、水」
ペットボトルの水を入れたコップに氷を浮かべて、優月に渡す。
「ありがと」
ふわ、と笑う優月。
なんだろうこの。……ほんわかした雰囲気。
特別可愛いとか。特別綺麗とか、そんなんでは、ないと思うんだけど。
至って普通で、全然目立たない感じ。
でも――――……まっさらで、綺麗。
もとは悪くない。
瞳や唇も可愛いし。
細めの体は、均整がとれてるというか。腰、細くて、抱き締めてしまいたいし。
服とか髪形とか、色々いじれば、結構良くなるかも。
バスローブから見える、首筋と鎖骨が、……結構、エロイ気もするし。
そのうえに、無邪気な顔が乗っかってるのがなんだか……可愛いし。
――――……つか、オレ、今日こいつに何回、可愛いって思ってるんだ。
「……優月、お腹空いた?」
「……あー……言われてみれば……空いたかも……」
「言われてみればって?」
……変な回答。
「玲央といたら……なんかそっちに神経がいってなかったっていうか……」
「――――……」
何気ない言葉で、何となく人の言葉奪ってる事には気づかず、こくこくと水を飲んでいる。
ぷ、と笑ってしまう。
「ん?」
きょとん、と見られて、何でもない、と、首を振りながら。
「……下に入ってるレストランに頼めばすぐ来るから頼もうか?」
そう言ったら、んー、と首を傾げて。
「なんか食材あるなら作るよ……?」
「……食材、ここ、一切ない」
なぜならここで料理なんか一切しないから。
ここ、連れ込んでやるだけか、あとはバンドの奴らと夜を通して作業する時の部屋、みたいなとこだし。
「和食、中華、イタリアン、オレはなんでもいいけど」
「じゃ和食がいい」
「適当に頼んでいい?」
「うん」
メニューを見ながら、スマホで注文を頼む。
「20分でくる」
言いながら、優月の隣に腰かける。
「お前料理すんの?」
「うん。……小4の時に双子の弟と妹が生まれてさ。母さんが大変そうだったから、料理はそこら辺からやり始めた」
「へえ……」
双子の弟と妹。
面倒見、よさそ……。
「玲央は全然料理しない?」
「いや。するよ。――――……習ってたし」
「え、そうなの?」
「うち、一通りなんでもやらされるから。習い事多すぎて、小さい頃はすげえ過密なスケジュールだった」
「……なにそれ、例えば?」
「バイオリンとかピアノだろ。料理と……空手、合気道、剣道とか。そろばん、水泳と英語。と何だっけな。ダンスとか乗馬もやったし、茶道もやらされたし」
「うわー……」
「ギターはやりたくて習ったけど。まあもう一通り。どうしても嫌でやめたもの含めたらもっとあるな。変な右脳教室みたいなのも行ったし……」
「すごいね。そんなに習えるものなの?時間的に無理そう……」
「まあ全部がかぶってやってた訳じゃないから。家に教えにきたりもあったから通わないのも多かったけど」
「んー、玲央、戦う感じの、多いね?」
「ああ、護身用な……。親が金持ちだとそこそこ危険も想定されるから」
「そうなんだ……今まで、あった?」
「ん?」
「……危険なこと、あった?」
「送迎兼ボディーガードみたいのも居たし、無かった」
「そっか。良かった」
ふ、と笑って、優月が見つめてくる。
「そんないっぱい習って、できるようになるものなの?」
「良い先生選んでるらしいから、なんとなくできるようにはなるけど…… つか、囲碁将棋も、完全にじーちゃんの趣味で習わされた。オレとやりたいからってさ」
言うと、優月はクスクス笑いだした。
「その話はなんか可愛いね」
「……は?」
……可愛いっつわれた。
なんだか、納得いかない。
「オレもちっちゃい頃、おじいちゃんと将棋はやったなー。囲碁はよく分かんないまま終わっちゃったけど」
……でも、なんだか、優月が楽しそうにしてんのは、
ちょっと、イイ、気がする。
「――――……」
連れ込んだ誰かと、こんな風に話す事がほとんどない。
色々話して聞いて、情がうつるのも、執着されるのも、嫌だから。
家に着いて、シャワー、ベット、コトが済んだら帰ってく、てのが常。泊まらせる事も殆ど無い。他人が居ると、眠りが浅くなって疲れる。
我ながら最低だなと思わなくもないけれど、もともとそれで納得した上で関係を持つから、特に文句を言われる事もない。
夜中まで遊んでセフレの家になだれ込み、気付いたら朝だった、という事はあるけれど、それも、余程疲れてる時くらい。
そういえばこないだの金曜、優月と会ったのは、セフレ宅から車で送られた時だった。疲れていて、ベンチで休憩した所で猫と優月に会ったっけ……。
とにかく、普段はあまり話はしないのだけれど。
……でもなんだか。
やっぱり、聞きたい。
「――――……優月は? 何か習ってたか?」
こいつは、どうやって生きてきたんだろう。
こんな素直な感じで生きてくるの、どんなふうに生きれくれば。
やっぱり、オレは、優月に興味がある。らしい。
「んー……ピアノは中2まで習ってた。習字と絵とそろばんとプールかな。いっぺんには習ってないよ。ピアノと習字とか。ピアノとそろばん、とかって感じ」
「オレもいっぺんには習ってねえよ。何個かかけもちして、級とか段とかとったらやめるとか。ある程度弾けるようになったら終わりとか」
「それでもすっごく大変そうだけど」
「まあ。すげえ忙しかったから、何回かキレたけどな……」
「キレたんだね」
「脱走した」
あは、と優月が可笑しそうに笑う。
「じゃあ、優月、ピアノ弾けんの?」
「うん。まあ、普通には」
「連弾したことある?」
「え、玲央、できる?」
「できる。つーか、最後の方、それの練習ばっかしてた」
「オレも。小6でやめようかなーて時に先生が連弾、楽しいよって教えてくれて。それで中2まで続けたの」
嬉しそうに笑う優月に、ちょっとワクワクする。
「譜面、オレんちのどっかにあるから探しとく」
「うん」
と。そこで、はっと気づく。
探してどーすんの、オレ。
……こいつと、ピアノ、弾きたいのか?
………ほんと、何、楽しく話してんだろうか。
「なんかさぁ……?」
「……ん?」
「玲央のその見た目で、ピアノとかバイオリン弾くのって、反則……」
「反則?」
「カッコ良すぎて、ずるい気がする」
「………」
自分で言って、なにやら納得して、うんうん頷いてる。
そんなまっすぐな瞳で、何言ってんだか。
「茶道はちょっと意外で笑っちゃうけど――――……ダンスとかはすごく似合いそ……?」
首から顎にかかった手に、優月が上向く。
話の途中で開いてる唇にキスして、舌を絡め取った。
「……っ……ん……っ?」
ひく、と喉が引きつって。
ぎゅ、と目が伏せられた。
「ん、ふ……っ……」
幼い位の笑顔が――――……また急に、トロン、とした表情に、変わる。
……なんか、これ。もとからエロイ奴のそれより。
……たまんねー、かも。
332
お気に入りに追加
5,157
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
親友だと思ってた完璧幼馴染に執着されて監禁される平凡男子俺
toki
BL
エリート執着美形×平凡リーマン(幼馴染)
※監禁、無理矢理の要素があります。また、軽度ですが性的描写があります。
pixivでも同タイトルで投稿しています。
https://www.pixiv.net/users/3179376
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!
https://www.pixiv.net/artworks/98346398
つぎはぎのよる
伊達きよ
BL
同窓会の次の日、俺が目覚めたのはラブホテルだった。なんで、まさか、誰と、どうして。焦って部屋から脱出しようと試みた俺の目の前に現れたのは、思いがけない人物だった……。
同窓会の夜と次の日の朝に起こった、アレやソレやコレなお話。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
転生令息の、のんびりまったりな日々
かもめ みい
BL
3歳の時に前世の記憶を思い出した僕の、まったりした日々のお話。
※ふんわり、緩やか設定な世界観です。男性が女性より多い世界となっております。なので同性愛は普通の世界です。不思議パワーで男性妊娠もあります。R15は保険です。
痛いのや暗いのはなるべく避けています。全体的にR15展開がある事すらお約束できません。男性妊娠のある世界観の為、ボーイズラブ作品とさせて頂いております。こちらはムーンライトノベル様にも投稿しておりますが、一部加筆修正しております。更新速度はまったりです。
※無断転載はおやめください。Repost is prohibited.
気付いたら囲われていたという話
空兎
BL
文武両道、才色兼備な俺の兄は意地悪だ。小さい頃から色んな物を取られたし最近だと好きな女の子まで取られるようになった。おかげで俺はぼっちですよ、ちくしょう。だけども俺は諦めないからな!俺のこと好きになってくれる可愛い女の子見つけて絶対に幸せになってやる!
※無自覚囲い込み系兄×恋に恋する弟の話です。
ひとりぼっち獣人が最強貴族に拾われる話
かし子
BL
貴族が絶対的な力を持つ世界で、平民以下の「獣人」として生きていた子。友達は路地裏で拾った虎のぬいぐるみだけ。人に見つかればすぐに殺されてしまうから日々隠れながら生きる獣人はある夜、貴族に拾われる。
「やっと見つけた。」
サクッと読める王道物語です。
(今のところBL未満)
よければぜひ!
【12/9まで毎日更新】→12/10まで延長
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる