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◇初めての夜

「少しでも」*優月

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【side*優月】



 手を繋いだまま、大学の裏に進んだ所にあるマンションに連れてこられた。

 なんか、すごく高そう。
 広い豪華なエントランス。受付の人がいる。エレベーターもやたら広くてなんだかやたら豪華。

「――――……緊張してる?」

 くす、と笑いかけられて。
 うん、と頷いたら、また微笑まれてしまう。


「……優月って、名字、なに?」
「花宮」

「学部、どこ?」
「教育学部……」

「何年?」
「2年」

「教師になるのか?」
「まだわかんない」


 エレベーターを降りるまで、何だかよく分からない質問をされ続ける。

 答えているけど、もう、玲央と居る事も、この謎に豪華すぎるマンションも、これから、自分に起こるだろう事も、なんだか非現実すぎて、ふわふわしてるのに。 

 中に入ると、さらに、非現実的。

 玄関が広い。何部屋あるんだろ。ドアがいっぱいある。奥のリビングに通されたけど、広すぎる。一通り、高そうな家具はそろってるけど、生活感がなさ過ぎ。
 なんか、マンションの見学会とかに使われそうな部屋。

 どこに居れば良いのか分からなくて。
 リビングに入った所で立ち尽くしていると、キッチンから戻った玲央に水のペットボトルを渡された。

「ありがと……」
 受け取って、ふたを開けて、飲んでる所に。
 
「飲んだら、シャワー浴びよ」
「――――……っ」

 囁かれて、理解した瞬間、
 飲み込もうとしていた水が、変な方に入って。

 げほ、とむせる。
 そのまましばらくむせる事になって、手を口に押し当てて俯いてると。

「……大丈夫か?」

 隣で、クスクス笑う、玲央の声。
 背中に触れてる手が、あったかい。

 しばらくして、やっと普通に息ができたオレの頬に、玲央の手がかかる。
 
「オレは、優月がシャワー浴びなくても全然いいけど」
「――――……っ」

「そのままでオレに色んなとこ、なめられるの、優月は嫌がりそうな気がして。……平気なら、このままベッド行くけど、どーする?」


 ……こんな言葉。
 もう、破壊力がありすぎて。
 言われただけで、もう、顔に血が上って、まともに息ができない。

 
「……っシャワー、貸して」


 走って汗かいたし、このまま、な……なめられ――――……。
 
 どこ、なめられるのか分かんないけど、どこにしたって、
 無い。絶対無い。

 ……体、すごく綺麗に、めちゃくちゃ洗いたい……。


「ん、いーよ」

 くす、と笑いながら、頬に触れてる指が移動して、髪を撫でてくる。

 こないだも、思ったけど。
 ――――……玲央が、こういう時、目を細めて笑うのが。


 なんか、異様に、……なんだろ。やらしい感じで。
 ……なんだろ。妖しすぎて。……色っぽい、のかな?

 とにかく、表情だけで恥ずかしくなって、体温が、上がる気がする。

 こんな、まったく色気なんかないと思う、自分に対してすら、

 そういう雰囲気にもってって。
 妖しい雰囲気を、瞬間的に、作る。

 どれだけ、こういう事、慣れてるんだろうて、思う。
 やっぱり、オレとは違う世界の人なんだろうなとも。


 それでも。……今日だけだったと、しても。
 全然違う世界が、少しだけでも、交わってくれて、

 玲央と、触れ合えるなら。
 嬉しい。


 ただ、そう思って。
 優しい瞳を、見つめた。



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