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◇約束の日

「会いたい」*優月

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 昼休み。金曜の昼と同じ場所に、智也と美咲が待っていた。
 ……思っていた以上に、止められた。

 美咲もだし、智也も。
 2人も土日、色々考えてくれたらしくて。

 美咲は最初から答えは決まってた気がするけど。
 智也は、オレが揺らいでたのも考慮に入れてくれたみたいだけれど、それでも、やっぱりやめとけ、が結論だったらしい。

 2人の考えを聞いて、オレは黙った。


「――――……優月は? 結論は?」

 智也がそう聞いてきた。

 オレの前に居る玲央を、オレが好きならいいんじゃないか。
 朝、そう思ってたけど……。

 2人の心配そうな顔を見てたら、言えなかった。


「――――……うん。 行かない」

 そう言うと、2人とも、ホッとしたような顔をした。


「ありがと――――……心配、してくれて」

 智也は少し困ったような顔をして。
 オレの肩を抱いて、ポンポンと叩いた。

「優月、今日ご飯食べに行こ? 奢るから」
「そうだね、行こ行こ。何でも好きなもの奢る」

「カラオケ行って、ストレス発散してから、ご飯。な?」
「……うん。ありがと」


 分かってる。
 ――――……オレと玲央は、なんか、住んでる世界が、違う。

 オレは、好きな子が出来ても、いつも仲良くなりすぎてしまって、男とは見られず。中学高校と仲の良い女の子は多かったけど、誰とも付き合わず、キスすらまだだった、恋愛超初心者。でも、それはそれでいいような気もしてしまったりもしてて。いつか、運命の子が現れるはず、とか。夢みたいな事も、まだ思ってたりして。

 玲央は、そこらへん、オレとは真逆に、すごい慣れてそうで…。

 オレが玲央の所に行っちゃったら。
 遊ばれてる間に、たぶん、ほんとに好きになって。
 玲央が飽きたら、終わり、なんだろうなーと、簡単に予想もできる。

 それに――――……。
 そもそも男同士。


 ……行くべきじゃ、ない。
 そもそも、玲央がほんとに待ってるかどうかだって分からない。

 オレばっかり、こんなに考えて、悩んで。
 玲央はもしかしたら、忘れてるかも知れない、とも思う。

 こうして、考えてる事自体が無駄かも。とも思う。



「…5限が終わったら、正門で待ってるね」


 吹っ切るように、敢えてもうあの場所に行けないように。2人と約束をしてしまおうと、優月からそう言うと、2人は、ん、と頷いた。

 ――――……これで、いいんだ。
 そう思おうとした。




◇ ◇ ◇ ◇




 5限が終わって正門で待っていると、美咲と智也がすぐに現れた。
 なるべく明るく、普段通りで2人と歩く。

 駅まで15分。そこからカラオケに行って、中に入るまで10分。
 つまり、学校を出てもう25分。

 美咲が歌い出したのを聞きながら、ドリンクのストローを口にくわえた。
 
 ――――……もし、約束通り来てくれていたとしても、もう帰った、よな。
 ……怒って、帰った、かな。

 ……いやいや。
 来てないかもしれないし。

 そもそも、来たって、ただ、オレに興味があるっていうだけの……。
 ……興味とか、意味、わかんないし。

 オレはそんなの……。
 やだ、し……。


「――――……」


 ほんとに――――……嫌なのかな、オレ。

 玲央と居たいって言ったのはオレなのに。
 立ち去ろうとしていた玲央を、オレが、止めたくせに。


 良いのかな、こんな、形で、
 来てくれたかどうかも分からないような、そんな形で、終わりにして。

 無理なら無理と、伝えるべきだったんじゃないのかな。


「優月の番だよ」

 美咲の歌が終わる。
 ストローをくわえてぼうっとしてたら、智也につつかれた。

「あ、うん……」

 歌い出そうとして。
 ――――……止まってしまった。


 2人はオレを見て、黙ってる。


「――――……あの……」

 どうしよう。今からでも、行きたいって……。
 そう言ったら、何て、言われるかな。

 どうしよう。
 言えずに黙ってたら。

「――――……優月、行ってくれば?間に合うかは分かんないけど」

 智也が、そう言って、苦笑い。

「嫌なんだろ、すっぽかすの。オレも美咲も反対ではあるけど……優月の事だし、強制する権利はないよ。ね、美咲?」
「――――……ないけど、優月が泣かされたら、許せないけど……」

 2人の言葉に、しばらく動けない。


「――――……オレ、行っていいの?」

 そう聞いたら、智也は、更に苦笑い。

「だから、それを決めるのはオレ達じゃないでしょ。ほんとはさっき、優月が正門に来なくても仕方ないって、美咲と話してたんだよ。でも、お前はこっち来ちゃってさ。――――……でもそれって、あっちに行きたくないんじゃなくて、オレ達に心配させないようにだろ?」

「――――……」

 なんて返事をしたらいいのか分からなくて、2人を見つめる。


「あれだけ言っても……ここまで来てもまだ、そんなに行きたいんでしょ?」
「――――……美咲……」

「今行っても……5限終わってから、1時間弱経つからさ。居ない可能性の方が高いと思うよ?」

「――――……うん。分かってる」

 頷くと、美咲と智也は、苦笑い。

「オレと美咲、このまま2時間カラオケ終わったら、どこかでご飯食べてる。移動したら連絡入れておくから。優月が1人になるなら、おいで」
「…智也…」

「もし、あいつがまだ待ってて、優月がそうなろうって決めるなら……まあ、複雑だけど、また話聞くから。いいよな、美咲?」
「――――……あいつの事は、あたしは、嫌だけどね」
「美咲って」

 智也が美咲に突っ込んでる。


「優月の決める事だよ」

 智也に言われて。
 うん、と頷いて立ち上がる。


「――――……ありがと。……会えたら、話してくる」

「がんばれ」
「泣かされないでよ?」

 智也と美咲に送り出されて、カラオケを後にした。


 学校までの道を、急ぐ。
 5限が終わって、そのまま行けた時間から考えると、もう、1時間。


 待ってないよな……
 そもそも、来たのかどうかも分からないし。


 オレ、今、急ぐ意味、あるのかな。

 ……きゅ、と、胸が痛い。

 行けば良かった。


 あんな数分で、こんなに惹かれた人を、何で会わずに逃げようなんてしたんだろう。来てくれなかったら諦められたし、来てくれたなら、ほんの少しでもオレの側に居てくれようとしてくれた事、それだけでも嬉しかったのに。



 玲央に、会いたい。声、聞きたい。



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