【胸が痛いくらい、綺麗な空に】 －ゆっくり恋する毎日－

「変なの」＊湊

　今日は、楽しい日だった。


　朝からずーっと、放課後に会う司のことを考えて過ごした。
　授業が終わって帰ろうとした時は。クラスメートと話せた。

　オレは、別に、人が嫌いじゃない。
　話すのが苦手だから、あまり話そうとしてないだけで、興味がないわけでもないんだけれど。多分見た目の印象も、きっと、そういう話しかけにくいとか、人と話すのに興味が無さそうと、思われる感じなんだと、何となく知ってる。　冷たい感じが、するらしい。

　だから、司みたいな感じで始まる関係って、ほんとに特殊で。どうしてオレに話しかけてくれたのかも、よく分からないけど。

　いつからか、司はなんでも受け入れてくれるような気がして。
　それで、話せるように、なっていって。

　でもやっぱり他の人は苦手だったのに。
　――――……今日話したクラスメート達は、明日なって、言ってた。

　……明日、話せる、のかなあ……。

　まあそこは、そんなに期待しないで、行くけど。
　人と話すのは嫌いじゃないけど、１人でいるのも別に嫌いじゃないし。
　でも。

　司と話してる事で、人と話すのも、悪くないって。
　なんだか余計に、思ってる気がする。

　きっと、良い成長。そう、思う。
　　
　とにかくそれで。朝から楽しい気分で過ごして、クラスメートとも話せて、
　それで、最後は、司の学校の前で、司に会えた。
　司の一番仲の良い人、颯太にも、オレの事を紹介してくれて。

　そんなのって、どうしたって、嬉しいに決まってる。

　男同士で、隠したほうがいいんじゃないかなって思うのに。
　司は、全然隠そうとしないし。
　――――……隠さないどころか。校門の前で、抱き締められてしまった。

　何だかな、司って。
　――――……優しくて、元気で明るくて、あったかくて。


　やっぱり、太陽みたいなんだよね。


　そんな風に思った時。
　塾の先生が持ってる時計が鳴った。


「後ろから回してー」

　回ってきた解答用紙に自分のものを重ねて、前に渡す。
　そのテストの答え合わせを前に居る別の先生がしている横で、担当の先生の授業が始まった。

　ノートを出して、文字を書いていく。
　司と知り合って、好きだと思い始めてから、塾に来るのが少し嫌になる時があった。

　もう少しあのまま河原で、司と話してたいなあ、と思ったから。
　まあもともと、司はジョギングが目的だったから、オレが残ったって、一緒に居られる訳じゃないのも分かってたけど。

　勉強は、好き。
　知らないことを知るのも、好きだし、難しい問題を解いた時の感覚が好き。
　だから塾に行きたくないなんて、自分が思うと思わなかった。


　そんなに、司と居たいとか。
　でも、こんなの変だって、すぐ、その気持ちは閉じ込めて、忘れようと思ってたけど――――……。

　先生がプリントを配ると言って、順番に列ごとに渡していく。
　少しだけの間。

　司、今頃サッカー、頑張ってるのかなあ……。
　ぼんやり考えながら、ふと気づくと、ノートに、「司」と書いていた。

　あ。
　書いちゃった。


　うわー……。
　なんか、すごい恥ずかしい……。

　何、司の名前、書いてんだろオレ。



　消そうと思って、消しゴムを持ったけれど。
　――――……何となく、消せなくて。

　ちょっと悩んだ末。


　その下に、「会」と追加して、「司会」にした。
　見られても、何、司会？って言われても。　なんだっけ？で誤魔化せるかなと。ていうか、このノートはそもそも塾用でオレしか見ないから必要もないんだけど。まあ、「司」と書いてて、誰かに見られたら、オレ、死ぬほど赤くなる気がするし。一応保険。


　――――……消せばいいだけなのに。



　……なんとなく、「司」という字を消したくなかった。




　

　…………ほんと、変なの。オレ。


　回ってきたプリントを後ろに回しながら。
　終わったら司に電話しよう、と、思って。

　それまで、勉強を頑張ることにした。