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「ほんとに可愛い」1*司

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 ジョギング開始。
 湊のもとへ。

 ……って本来の目的とはだいぶかけ離れているけれど。

 今は湊に会えるって言うのが、このジョギングの最大のメリット。まあ、そのついでに、体力づくり。

 ゆっくり好きになってもらおうなんて決意そっちのけで、いきなり告白して、抱き締めてキスして恋人になりたい宣言をしてしまった昨日。
 今日颯太には、前向きな待ち時間、とか言ったけれど。

 1日経って、湊がちょっと後悔してたらどうしよう。
 ……そんな事はない、と思いたいけれど、少し心配。

 ……そういう好きか分からないような事、言ってたし。

 ハイペースで、一応決められたルートで、河原に出て、直線。
 湊に向かって、猛ダッシュ。

 少し遠くに湊が見えてきた。
 湊は川を見てる。いつも通り。

 近づきながら少し息を整える。
 階段を下りながら、湊の名前を呼ぶ。

 どんな顔で、振り返るか。
 そう思ってドキドキしながら。それでも湊の姿に自然と笑みが浮かぶ。

 湊が振り返って、と同時に、嬉しそうに笑った。
 胸が、とくん、と鳴る。
 湊の隣に腰かける。

「司……」

 この顔見ただけで。
 後悔なんてしてないのは、分かった。


「……湊」

 ……ほんと、可愛い。

 オレは、湊の髪を、クシャクシャと撫でた。


「……可愛い、お前」
「――――……っ」

「オレに会えて、嬉しいって顔してる気がする」

 つい、思うまま、言ってしまうと、湊は赤くなった。

 たぶん、昨日の事がなかったら、そんな事ない、とか。からかうな、とか。きっと湊は言っていたと思うのだけど。
 今日はもう、言わないらしい。


「……ほんと、可愛い」

 柔らかい頬に触れて。瞬間、そのまま抱き締めたくなってしまって。
 やば、と思って、手を離す。

 けれど抱きしめたい衝動が消えず、オレは膝の上に突っ伏した。


「……つかさ?」
「――――……どーしよ、オレ」
「……?」

「……抱き締めたい」
「…………っ」


「……て、こんなとこで、無理なの分かってんだけど……」

 湊が何もいわないので、少し顔を上げて、湊を見つめる。

「……オレ、やっぱ、湊が好き」
「…………つ、かさ」
「……ん?」

「………オレ、も……好き、だけど」
「けど?」

「……っ……普通に次々言われるの、無理」
「――――……」

 可愛い。
 ――――……キスしたい。

 ……やばいなー、可愛くて。
 そっか、あんまり言われるの、無理なのか。

 くす、と笑ってしまう。


「……ごめん。 ……つか、『オレも好き』とかさ。可愛くてしょーがないんだけど、湊……」


 最大限の我慢で、湊の頭を撫でる事で、自分を押さえる。


「これ位はいいよな……?」

 撫でてると、湊が、ふわ、と笑う。

「――――……っ」

 だめだ、これも。

 ……そんな風に、嬉しそうに笑われるともっと触りたくなる。
 また手を離して、膝に埋まってしまう。

 河原の遊歩道から数段おりた所に座ってるので、対岸は遠いし、下の河原には誰も居ないから、そんなにまわりに人はいない。とは言っても。 遊歩道を歩いてる人達が上に立ったら、丸見えなところなわけで。

 ……好きな事ができるはずもない。

「……何、そんな風に笑うかな。 キスしたくなっちゃうじゃんか」
「っだから……そういうのほんと……オレ、ついてけないから……」

 今度は湊が、膝に突っ伏してしまった。

「あ。悪い。……つか、何オレら2人で膝にうまってんだろ」

 笑ってしまう。言いながら、湊の背中をポンポン、と撫でる。

 それから、颯太に、湊との事を話したと伝えたら、少し心配しながらも、嬉しそうな表情。
 

「……とりあえず、オレらの事、お互いの幼馴染には公認な?」


 何だか嬉しくなって、そう言うと。
 湊が、じっと、見つめてきた。


「……司」
「ん?」

 ずく可愛い顔してじっと見つめてくるので、ふ、と笑って見つめ返すと。

「……オレ、司が――――……好き」
「ん?――――……湊?」

 嬉しいけど、急にどうしたのかな、と思う。

「……オレ、今まで、そういう意味で、人好きになった事、なくて」
「――――……」

「……だからなんか、よく分からない、って、思うんだけど……」
「――――……だけど?」

「……司の事、ほんとに……好きって、思うから……」
「……だから?」

 ああ、もう、可愛い。

「――――……恋人に……なってって言ってくれたの……すごい嬉しいから」
「――――……」

 湊が、じっとオレを見つめてくる。


「よく分からないくせに、……恋人になりたいって言ったら……ダメ?」
「――――……」

 え。
 ……今なんて???


「昨日から思ってたんだけど……ちゃんと……分かってからの方が、良いかな……とも思って…… でも、やっぱり、オレ……司の事、すごい好きだから……待っててって言うのも、何か、違う気がして」

 湊の言葉を、自分の中で、繰り返す。


 ……湊、オレと、恋人になりたいって、言った。よな?


 次の瞬間。
 オレは、湊を引き寄せて、ぎゅ、と抱き締めていた。

「……ダメな訳ないじゃん。 だってそれってただ経験ないから分かんないって言ってるだけで……オレの事、すっごく好きって事だろ?  恋人になりたいって、湊、思うんだろ?」
「……うん」

「じゃあ――――……オレ達、今から、恋人同士、な?」
「……うん」

 頷いてくれた湊をぎゅーと抱き締めて、それから手を離した。
 離さなければキスしてしまいそうで。

「……キスは我慢する。外だから」

 言うと、湊はまた恥ずかしそうにオレを見てくる。

「――――……湊が、初めて、そういう風に好きかもって、なってくれてる訳だしさ。 ……ゆっくり、付き合お?」
「……それでいいの?」

「良いに決まってるだろ」
「――――……ありがと、司」

 ありがとって。
 ――――……ありがとって、ほんと、可愛い。


「こっちこそだよ。ありがとな、湊」

 湊、可愛い。
 ……大好きすぎる。


 愛おしさが止まらなくて、ほんとに、困る。






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