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「湊との関係」*司

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 ――――……また、居る。


 1つ隣駅の高校の制服。
 晴れてる日のこの時間、よくここで見かける。

 ちょうど、ジョギングの折り返し地点にしているので、そこで水を飲むためにいつも立ち止まる。川に降りる階段の少し脇で、そいつはいつも座っていた。
 ほとんど動かず、川なのか空なのか。とにかく前を見つめたまま、固まってる…… 変な奴。

 オレのジョギングは、先に違う練習をしてからなので、時間は決まっていなくて、不定期。でもって、すぐに川に出るとすぐここに来れてしまうので、学校を出てから、住宅街の方を色々回りながら、距離を稼いで走ってくるから、同じ時間にここに来る訳じゃない。

 なのに、晴れてると見かけるって事は。
 ……何分? 何十分? ここに居るんだろう?


 最初はそれが気になった。
 あと、スマホとか見る訳でもなく、ずっと前を見て。何を考えているんだろう、と。

 一度気になってからは――――…… なんだかいつも、見てしまった。

 いつも、たった、一人で。
 明るめの茶色い髪の毛がなんだか目立つ。


 なんとなく、姿を確認することが日課になってて。
 でも、一度も、顔を見たことがなくて、段々興味がわいてくる。


 どんな顔、してんだろ。
 女の子かと思うくらい、華奢な背中。

 これで顔、超ごつかったら、笑ってしまうかも……。
 そう思いながら、口元が笑みを作ってしまったことに気が付いて、息を吐くふりをして、引き締めたりする。


「――――……」

 咳払いとか、してみたら…… 振り返ってくれるかな。
 一度試してみる。

 反応すらしない。

 もう一度。少し大きく、咳払い。

 全然こっち、見もしない。 聞こえないのかな。
 うーん……仕方ない、諦めるか。

 つか、オレって、いったい何したいんだ。
 よそのガッコの、顔も分かんねえ、しかも、いつも1人で居る、男相手に。

 そう思って、はあ、とため息を吐いた瞬間。

 手がつるっと滑って、ペットボトルを落としてしまった。
 そいつが座っている方に向かって、転がり落ちていく。


 やばい、当たる――――……っ


 思って走り出した瞬間。転げ落ちてくるペットボトルの音に驚いたように振り返ったそいつが、慌てたように手を出して、ペットボトルを何とかキャッチした。

 当たらなかった、良かった。


 ほっとして。
 勢いの止まらないまま、そいつの隣で何とか踏みとどまった。


「ごめん! 手が滑って――――……」
「奇跡的にキャッチできたから――――…… 大丈夫」

 そう言って、オレを見上げて、おかしそうに笑んだのを見て。
 ずっと、見てみたかった顔を見れた喜びだけじゃなくて。


 ――――……どうしてだか、すごく、胸が……。


「ん」
 短く言って、ペットボトルを差し出してくる。



 なんか――――…… ドキドキ、して。


 え、なんで。
 ――――……男、なのに。


 つか、なに、こいつ。

 華奢な背中のイメージそのままの――――…… というか…… 
 顔、やばいくらい、キレイ。

 毎日こんなとこに居るのに、白いし。焼けないのかな。
 顔、小さいのに、二重の目は、大きくて、目立つし。

 何か――――……綺麗な、人形みたいだ。


「……つか、ほんと、ごめん。 ぶつからなくて、ほんと、良かった」
「大丈夫だったから、気にしないで」

 話は終わった、とばかりに、オレから視線を逸らして、川に目を向ける。


 また、オレから目をそらして。
 また背中だけになる、のか。

 そう思ったら、なんだか。
 自分の方を向かせたくて、ぐ、とペットボトルを握りしめた。


「……その制服って、南校だろ?」
「え……」
 話、続けるの?
 絶対そう思ってるんだろうな。

 少し不思議そうな表情をした後、まっすぐにオレを見つめて、頷いた。

「うん、そう」

「オレ、東校のサッカー部」
「……そうなんだ」

「――――……横、座ってもいい?」
「――――……?」

 あからさまに首を傾げられて、苦笑い。

「ジョギング疲れて。 ちょっと休憩」
「――――……ああ……ん、どーぞ」


 良かった、嫌がられはしなかった。
 ……不思議そうな表情は、消えないけれど。


「いつも、ここに居るでしょ」
「――――……」

 なんで? と言わんばかりの顔。


「オレもいつもここに走りに来てて、そこの橋を折り返し地点にしてて。いつもここで水飲むからさ」

 言い訳みたいにそう言うと、ふーん、と言いながら、頷く。

「ここ帰り道なの?」
「――――……いつも学校からそのまま塾に行くから。 東校の近くの塾なんだけど、少し時間が空くから、塾が始まるまでの暇つぶし」
「ああ、そうなんだ」

 なるほど。それでいつも、結構な長時間、1人でここに居るんだ。
 納得。

「南校か。頭良いんだな」
「……そんな変わんなくないっけ、東校」
「うちはピンキリ。受験コースはまあまあ良いらしいけど。南高は全員頭良いだろ」
「……こっちも全員頭良いとは限らないけど」

「なあ、名前、何ていうんだ?」
「え。……オレの?」
「うん」

「……久住 湊くずみ みなと
「湊て呼んでいい?」
「え。……いい、けど……」

 呼ぶことあるのかな、とでも思ってるんだろうな。
 気にせず、続けた。

「オレは、桜井 司さくらい つかさ。覚えて?」
「桜井ね」
「司でいいよ」

 そう言うと、湊は、少し無言の後。

「――――……呼び捨て苦手なんだけど」
「いいじゃん、最初から呼べば気にならねえよ」

「――――……ていうか……オレ、呼ぶこと、ある?」
「あるある。だってオレ、ここ毎日通るから。話しかける」

「……んー……司?……で、いいの?」

 
 ――――……なんか、嬉しい。
 照れたみたいな呼び方が、なんか、可愛い。




 結果的には、ペットボトル。
 落ちて良かった。


 ……なんて、思ってしまった。









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