4 / 36
「湊との関係」*司
しおりを挟む――――……また、居る。
1つ隣駅の高校の制服。
晴れてる日のこの時間、よくここで見かける。
ちょうど、ジョギングの折り返し地点にしているので、そこで水を飲むためにいつも立ち止まる。川に降りる階段の少し脇で、そいつはいつも座っていた。
ほとんど動かず、川なのか空なのか。とにかく前を見つめたまま、固まってる…… 変な奴。
オレのジョギングは、先に違う練習をしてからなので、時間は決まっていなくて、不定期。でもって、すぐに川に出るとすぐここに来れてしまうので、学校を出てから、住宅街の方を色々回りながら、距離を稼いで走ってくるから、同じ時間にここに来る訳じゃない。
なのに、晴れてると見かけるって事は。
……何分? 何十分? ここに居るんだろう?
最初はそれが気になった。
あと、スマホとか見る訳でもなく、ずっと前を見て。何を考えているんだろう、と。
一度気になってからは――――…… なんだかいつも、見てしまった。
いつも、たった、一人で。
明るめの茶色い髪の毛がなんだか目立つ。
なんとなく、姿を確認することが日課になってて。
でも、一度も、顔を見たことがなくて、段々興味がわいてくる。
どんな顔、してんだろ。
女の子かと思うくらい、華奢な背中。
これで顔、超ごつかったら、笑ってしまうかも……。
そう思いながら、口元が笑みを作ってしまったことに気が付いて、息を吐くふりをして、引き締めたりする。
「――――……」
咳払いとか、してみたら…… 振り返ってくれるかな。
一度試してみる。
反応すらしない。
もう一度。少し大きく、咳払い。
全然こっち、見もしない。 聞こえないのかな。
うーん……仕方ない、諦めるか。
つか、オレって、いったい何したいんだ。
よそのガッコの、顔も分かんねえ、しかも、いつも1人で居る、男相手に。
そう思って、はあ、とため息を吐いた瞬間。
手がつるっと滑って、ペットボトルを落としてしまった。
そいつが座っている方に向かって、転がり落ちていく。
やばい、当たる――――……っ
思って走り出した瞬間。転げ落ちてくるペットボトルの音に驚いたように振り返ったそいつが、慌てたように手を出して、ペットボトルを何とかキャッチした。
当たらなかった、良かった。
ほっとして。
勢いの止まらないまま、そいつの隣で何とか踏みとどまった。
「ごめん! 手が滑って――――……」
「奇跡的にキャッチできたから――――…… 大丈夫」
そう言って、オレを見上げて、おかしそうに笑んだのを見て。
ずっと、見てみたかった顔を見れた喜びだけじゃなくて。
――――……どうしてだか、すごく、胸が……。
「ん」
短く言って、ペットボトルを差し出してくる。
なんか――――…… ドキドキ、して。
え、なんで。
――――……男、なのに。
つか、なに、こいつ。
華奢な背中のイメージそのままの――――…… というか……
顔、やばいくらい、キレイ。
毎日こんなとこに居るのに、白いし。焼けないのかな。
顔、小さいのに、二重の目は、大きくて、目立つし。
何か――――……綺麗な、人形みたいだ。
「……つか、ほんと、ごめん。 ぶつからなくて、ほんと、良かった」
「大丈夫だったから、気にしないで」
話は終わった、とばかりに、オレから視線を逸らして、川に目を向ける。
また、オレから目をそらして。
また背中だけになる、のか。
そう思ったら、なんだか。
自分の方を向かせたくて、ぐ、とペットボトルを握りしめた。
「……その制服って、南校だろ?」
「え……」
話、続けるの?
絶対そう思ってるんだろうな。
少し不思議そうな表情をした後、まっすぐにオレを見つめて、頷いた。
「うん、そう」
「オレ、東校のサッカー部」
「……そうなんだ」
「――――……横、座ってもいい?」
「――――……?」
あからさまに首を傾げられて、苦笑い。
「ジョギング疲れて。 ちょっと休憩」
「――――……ああ……ん、どーぞ」
良かった、嫌がられはしなかった。
……不思議そうな表情は、消えないけれど。
「いつも、ここに居るでしょ」
「――――……」
なんで? と言わんばかりの顔。
「オレもいつもここに走りに来てて、そこの橋を折り返し地点にしてて。いつもここで水飲むからさ」
言い訳みたいにそう言うと、ふーん、と言いながら、頷く。
「ここ帰り道なの?」
「――――……いつも学校からそのまま塾に行くから。 東校の近くの塾なんだけど、少し時間が空くから、塾が始まるまでの暇つぶし」
「ああ、そうなんだ」
なるほど。それでいつも、結構な長時間、1人でここに居るんだ。
納得。
「南校か。頭良いんだな」
「……そんな変わんなくないっけ、東校」
「うちはピンキリ。受験コースはまあまあ良いらしいけど。南高は全員頭良いだろ」
「……こっちも全員頭良いとは限らないけど」
「なあ、名前、何ていうんだ?」
「え。……オレの?」
「うん」
「……久住 湊」
「湊て呼んでいい?」
「え。……いい、けど……」
呼ぶことあるのかな、とでも思ってるんだろうな。
気にせず、続けた。
「オレは、桜井 司。覚えて?」
「桜井ね」
「司でいいよ」
そう言うと、湊は、少し無言の後。
「――――……呼び捨て苦手なんだけど」
「いいじゃん、最初から呼べば気にならねえよ」
「――――……ていうか……オレ、呼ぶこと、ある?」
「あるある。だってオレ、ここ毎日通るから。話しかける」
「……んー……司?……で、いいの?」
――――……なんか、嬉しい。
照れたみたいな呼び方が、なんか、可愛い。
結果的には、ペットボトル。
落ちて良かった。
……なんて、思ってしまった。
1
お気に入りに追加
335
あなたにおすすめの小説
王様は知らない
イケのタコ
BL
他のサイトに載せていた、2018年の作品となります
性格悪な男子高生が俺様先輩に振り回される。
裏庭で昼ご飯を食べようとしていた弟切(主人公)は、ベンチで誰かが寝ているのを発見し、気まぐれで近づいてみると学校の有名人、王様に出会ってしまう。
その偶然の出会いが波乱を巻き起こす。
【好きと言えるまで】 -LIKEとLOVEの違い、分かる?-
悠里
BL
「LIKEとLOVEの違い、分かる?」
「オレがお前のこと、好きなのは、LOVEの方だよ」
告白されて。答えが出るまで何年でも待つと言われて。
4か月ずーっと、ふわふわ考え中…。
その快斗が、夏休みにすこしだけ帰ってくる。
告白ゲーム
茉莉花 香乃
BL
自転車にまたがり校門を抜け帰路に着く。最初の交差点で止まった時、教室の自分の机にぶら下がる空の弁当箱のイメージが頭に浮かぶ。「やばい。明日、弁当作ってもらえない」自転車を反転して、もう一度教室をめざす。教室の中には五人の男子がいた。入り辛い。扉の前で中を窺っていると、何やら悪巧みをしているのを聞いてしまった
他サイトにも公開しています
「短冊に秘めた願い事」
悠里
BL
何年も片思いしてきた幼馴染が、昨日可愛い女の子に告白されて、七夕の今日、多分、初デート中。
落ち込みながら空を見上げて、彦星と織姫をちょっと想像。
……いいなあ、一年に一日でも、好きな人と、恋人になれるなら。
残りの日はずっと、その一日を楽しみに生きるのに。
なんて思っていたら、片思いの相手が突然訪ねてきた。
あれ? デート中じゃないの?
高校生同士の可愛い七夕🎋話です(*'ω'*)♡
本編は4ページで完結。
その後、おまけの番外編があります♡
その日君は笑った
mahiro
BL
大学で知り合った友人たちが恋人のことで泣く姿を嫌でも見ていた。
それを見ながらそんな風に感情を露に出来る程人を好きなるなんて良いなと思っていたが、まさか平凡な俺が彼らと同じようになるなんて。
最初に書いた作品「泣くなといい聞かせて」の登場人物が出てきます。
※完結いたしました。
閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。
拙い文章でもお付き合いいただけたこと、誠に感謝申し上げます。
今後ともよろしくお願い致します。
【完結】遍く、歪んだ花たちに。
古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。
和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。
「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」
No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる