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第177話 笑顔
しおりを挟む「なあ、かき氷の味は? 何がいい?」
そう聞かれて、あ、そうだった、ともう一度看板を見上げる。
「オレ、いちご練乳がいいです」
「抹茶でお願いします」
「了解。あ、お金いいよ。コンテスト頑張ってくれれば」
「あ、はい」
笑う先輩達と、苦笑の颯。
「颯、抹茶、美味しいの? 食べたことない」
「あげるよ」
ふ、と、颯が微笑んでくれる。
待ってる間、周りを見ると、色んなお店があって、なんかほんと、ワクワクする。
「楽しいねー」
「慧、去年はどうしてた?」
「お客さんだった。皆でぐるぐる回って、楽しんでたよ。颯は?」
「かき氷売って、コンテストに出たって感じかな」
「かき氷屋さん、してたの、知らなかった」
「ここに来て、買いにこなきゃ分かんないよな」
確かにそだね、と頷く。
……まあここに買いに来てても、きっと去年のオレは、颯とは話せてなかったと思うけど。張り合うのやめてから、どう距離とっていいか、話していいか、分かんなくなってたし。
……やっぱりそう思うと、今のこの状況が不思議。
昔を思う度、ギャップがおかしいけど。
「はーいお待たせ、どーぞ」
「わー、ありがとうございます」
やまもりのかき氷を受け取って、一口。
ふわふわの氷に、イチゴと、甘い練乳。
「おいしー」
幸せ、と颯を見上げると、颯は目を細めて、なんだかとっても優しくオレを見つめる。どき、と心臓。
「幸せそう」
笑いながら言って、抹茶をすくうと、「ほら」とオレに向ける。
幸せなのは……かき氷がおいしいのもあるけど。
……颯が居てくれるからっていうのも、いっぱいあるんだけど。と思いながら。
「ん」
ぱくっとくいつくと、颯、微笑んで、「どう?」と聞いてくる。
「もう一口ちょうだい? なんかイチゴで、よく分かんなかった」
「ん」
さっきよりも大きくよそって、食べさせてくれる。
「ん、美味しい」
抹茶もイケるね、と颯を見上げる。
オレにイチゴを渡してくれた先輩が隣に居たのだけれど、オレ達を見ながらクスクス笑いだした。
「なあ、それ、ナチュラル?」
「え?」
「いつもそういうこと、してんの? 宣伝のつもり?」
「……?? どういう意味ですか?」
不思議に思いながら聞くと、「急に混みだしたから」と先輩が笑う。
「客寄せでやってくれてんのかと思った」
そんなセリフを聞きながら、確かに来た時には無かった列が出来てるなあ、と気づいた。
「慧が幸せそうに食べてるから」
そんな風に言って、颯が楽しそうに笑う。「オレ??」と首を傾げていると、先輩が颯の肩をポンポンしながら。
「なんか、颯さ。番になってから、楽しそうに笑うようになったよな」
「「え」」
颯もオレも同じ声を出して、ぱっと見つめ合う。そうなの?? とオレが見つめると、颯は、少し口元を隠してオレから目を逸らした。「なんか、良かったな~」と言った先輩を見て、苦笑してる。
……なんかすごい嬉しい。かも。なんか照れてるっぽい颯が、好きすぎる。
「あ、ちょっと店行ってくる。颯、またな? 慧くんも。また明日も寄ってよ」
「はーい」
少し列ができると、皆も並びたくなる心理になるのか、あっという間に行列になってしまったそこから離れて歩きながら、かき氷を食べる。
「客寄せ、とか言ってたけど……ただ、味見してただけだよね」
颯を見ながら言うと、クスクス笑って頷いた後。
「でも、慧が店の前で幸せそうに食べてたら、皆食べたくなるかなーとは思ってたよ」
「えっそうなの?」
「だって幸せそうだから。……まあ、あんなに並ぶとは思わなかったけど」
はは、とおかしそうに笑う颯に、オレも、すごい列だったねーと笑ってしまった。
「ていうか、全然違った、颯の先輩たちのイメージ。真面目で勉強できそうなイメージで……」
「だろ。真面目って感じじゃないな。成績良い人達ではあったけど」
「はっ。やっぱりチェスできる人って頭いいのかな?」
「そうとは限らないけど。チェスにどんなイメージある?」
可笑しそうに笑う颯に、んー、と考えて。
「……なんか、頭良くて、貴族とか、そういう人達の遊び??」
「貴族って……」
はは、と笑ってる颯は。
楽しそうで。
……颯、こうして一緒になってから、楽しそうに笑うのは分かってた。
それは、オレが、昔は見たことないような笑い方で。
でも、そういう風に笑うような関わりをしてなかったから、見たこと無かっただけだと思っていたのだけど。
さっきの先輩の言い方だと。
オレと居るようになってから、楽しそうに笑うようになったのかぁ。
と。思うと。
そういえば孝紀も、「あんな顔して笑う颯、やっぱ、初めて見た」とか言ってたし。
……オレと居て、颯の笑顔がふえたなら。
…………すっごく、嬉しいよな。
(2024/7/7)
七夕🎋ですねぇ✨
🌟願いごと 叶いますように✨
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