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第97話 楽しみすぎる
しおりを挟む推薦文に思いを馳せていると、昴がふとオレを見つめた。
「ん?」
「それ、慧は出ないの?」
「……イケメンコンテストに? オレが?」
「高校の頃は出てたじゃん」
「やだよ。そんなの出たら……」
「出たら?」
ちょっと黙って、考えた後。眉を顰めながら昴を見つめ返した。
「……負けても勝っても、なんか、微妙に気まずくない?」
皆、少し考えてから、まあそっかな? と首を傾げた。
「負けるなら全然いいけど、万一、何かの間違いで、ほんっとーに万一勝っちゃったりしたら嫌だし」
「一回勝ったことあるんだっけ」
「うん……超僅差だけどね」
「あーなんか、思い出してきた」
三人は当時のこと思い出したのか、ははっと笑い出した。
「あん時は勝って、超大喜びしてたのにな?」
「そうそう。やったーって大騒ぎしてたよな」
誠と昴に言われて、「そうだけど、今もう全然気持ちが違うし」と首を振る。
「勝っても負けても、颯はそんなの気にしないで、笑ってそうな気がするけどな?」
健人の言葉に、うん、と頷いてから。
「颯がこだわらなくてもね。誰かに、結婚してる同士で戦ってるとか噂されるのも嫌だし。仲悪いって思ってる人も、まだ居そうだしさ」
「ああ、そっか。そっちもあるか」
健人がんー、と唸って頷く。
「たしかにね……夫夫対決とか、変に騒がれそうだし」
「変な噂になりそうなのはやめたほうがいいかもな」
誠と昴も、同意してくれたところでオレは、ん、と頷いた。
「だから絶対出ないよ。……ていうか、皆が出ればいいじゃん。いい線いくでしょ、皆」
話を振ると、三人は、揃えたみたいに重ねて「パス」と言った。
「なんか昔からそう言うの嫌いだよね。何で?」
「颯に勝てる気ぃしない。張り合うのもあほらしい。つか、お前はほんと、よく張り合ってたよな」
健人が言うと、昴と誠も笑いながら頷く。
「まあ……今になって、なんでオレ、颯に張り合っていられたんだろうって、謎だと思ってるよ」
そう言うと、あれだけ絡んでて今更? と昴に苦笑される。
「まあでも、とりあえず今年からオレは、颯の応援団だから。推薦の紙、貰ってこよっと」
お茶を一口飲み終えたオレは、立ちあがった。
「学祭の本部って、十号館の上だっけ。今誰かいるかなあ?」
「うん。多分誰かは居るんじゃない? もう準備始まってるし」
「じゃあ行ってから授業行くね」
「んー」
皆と別れて食堂を出て、十号館に向かって早歩きで歩き始めた。
その途中、慧くんーと呼ばれて振り返ると。
「あ。奈美。ちょっと久しぶり」
Ω三人と飲みに行って以来。
学部違うとなかなか会わないんだよなーと思いながら。
「こないだありがとね、色々聞かせてくれて」
「こちらこそ。こないだはごちそうさま。って颯くんにもよろしくね」
「うん」
「話がお役に立てたなら良いけど」
「もちろん、色々聞けてよかったよー。あ、そうだ、あのさ」
きょろ、と周りを見回して、少しだけ奈美に近づく。
「今週の金曜から、颯が二泊三日でゼミ合宿なんだけど」
「あ、そうなんだ。それで??」
「あの……巣作りってやつ、してみようと思って」
「あ、そうなの? わー、いいね、ゆっくり、頑張って!」
と言ってから、奈美は、クスクス笑う、
「頑張ってっていうのも変だけど」
「ヒートとかじゃないから、ちょっと真似事するだけかもだけど……」
「あーでも、分かんないよ、寂しいなーとかなってると、なっちゃうかもしれないし」
「そうなの??」
「うん。メンタルも絡むからね。ほんとにヒートになっちゃうと、ちょっときついかもだけど……」
「ヒート、まだ本格的になってないんだよね……変性の時は、わりとすぐ落ち着いたっていうか」
「そっかー……変性って、ほんと珍しいし、ヒートとかって人それぞれだから……」
うーん、なってみないと分かんないね、と奈美に言われる。
「何か困ったら、連絡して? 啓太と紗良にも話しとくから、四人のトークに連絡くれればきっと誰かは返事できると思うし」
「ん、分かった。そうする。ありがと!」
「うん! 頑張ってねー!」
「またねー」
手を振って、奈美と別れる。
……なんか、口に出したら、すっごく、楽しみになってきた。
奈美はあんな風に言ってたけど、ヒートがくる気配とかは全然なくて、体調も絶好調だし。こないだみたいに具合悪い感じは全然ないし……。
颯の匂いのするものに包まれて、二泊三日、のんびりしようっと。
十号館に向かう足取りは、なんだかめちゃくちゃ軽くて。
もうなんか、スキップでもしたい気分。
楽しみすぎる。
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