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◇Rain本編

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「雨降ってると、なんか静かで気持ちよくない?」
「――――……」

「雨の音、聞いてるのも結構好きだし」
「――――……」

「……まあ土砂降りの中歩くのはちょっと微妙だけど……」

 クスクス笑う。 


「でも、まあ土砂降りでもなんでも――――……傘で隠れれば、類と外でキスできるし。やっぱりそれが一番好きかなー……」
「……お前ほんとバカだな」
「バカとか言いながらもさ。……類だって嬉しいだろ?」
「……嬉しくないし」

「いいよ、分かってるから。嫌だったら、傘2本持ってくればいいんだもんな。まさかオレがほんとに捨てると思った訳じゃないだろ?」

 その言葉に。
 何だか気持ちを見透かされたような気がして。
 何も言わずにいると。

 浩人は、また、クスクス笑う。


「迎えに来ないって選択肢だって、ある訳じゃん? でもちゃんと来てくれるしさ……可愛いなぁ、類」



 ……何だかな。もう。
 ……迎えに来ない、なんて、選択肢、ほんとにあると思ってんのかな。

 ほんと、浩人、バカ。



 黙っていると。
 浩人は、あーでも、と言いだして。


「類に、オレを迎えに来ないなんて選択肢――――……無いか」

 その言葉には少し驚いて。
 心読めるのかなと、たまに思う事を、また思って。

 類を覗き込んで、にっこり笑ってる浩人を、まじまじと、見上げた。
 何秒か見つめあって。

 自然と足が、止まる。
 ふ、と笑った浩人の顔が、近づいてくるのを、ただ見つめて。

「――――……」

 優しく触れるだけのキス。瞳、閉じずに見つめあったまま。
 ふ、と、浩人の瞳が優しく緩んで。ゆっくり、触れた唇が離れた。


「――――……類、可愛いな」

 類の頬にも、ちゅ、とキスして、浩人は「歩こっか」と言って優しく笑う。




 浩人に出会って、5年。

 可愛いと。
 言われ続けて、もう、5年。


 何でなのか不思議だけど。
 いつもこんな風に――――……隣に居てくれてる。
 




 ――――……晴れの日の2倍くらいの時間をかけて、やっとの事でマンションに辿り着き、部屋に上がる。

「類、先風呂入っといで?」
「え?」

「濡れただろ? 飯作ってる間に入って来なよ」
「んー……」

 返事をして浩人を振り返った類は、自分と触れ合っていた方とは逆側の、浩人の肩がかなり濡れている事に気付く。        

 浩人は髪や体の滴をタオルで払っていた。
 類は自分の肩を見て。そこが全く濡れていない事を確認した瞬間。

 浩人のそういうさりげない優しさが。 
 ものすごく、愛おしくて思えて。類は何も言えなくなる。


「――――……」

 
 言葉が見つからなくて、類が黙って、立ち尽くしていると。


「類?……どした?」


 すぐ、気づく。
 昔から。いつも。


 分かりにくいと言われてきた類の、ちょっとした沈黙に、浩人はすぐ気づく。

 別にいつもずっと喋っている訳ではなく、むしろ黙っている事の方が多いのに、何かを言いたくても言えずに黙っていると、すぐ、どうした?と聞いてくる。


「……類?」

 黙って寛人を見上げる類を見つめ返して、浩人は、くす、と笑った。


「可愛い顔して。どした?」

 すり、と頬を撫でられる。


「――――……どうしたの?」

 優しい仕草で、そのまま、類を腕の中に抱き締めた。


「るーい……?」

 囁く浩人に、類はギュッとしがみついて、ぽつんと言葉を口にした。


「―――……一緒入ろ」
「え」

 浩人は、類を少し離して、顔を見てくる。


「何、珍しい」
「……いいから」


「あー……でも、一緒に入ったら長引くよ? パスタ食べたいんだろ?」

 
 浩人の言う、「長引く」の意味は分かってる。
 ――――……でも。

「……パスタ、後でいいから」
「――――……」

 浩人がクスッと笑って、類を覗き込んだ。


「――……何。誘ってんの?」

 その言葉に反論せずに黙っていると、浩人が優しい声で囁いた。


「お腹すいてるんじゃないの?」
「……大丈夫」

 類がそう言うと、浩人は、ふ、と笑いながら、ちゅ、と類の額にキスした。


「ん―……」


 そのまま、浩人は類の髪の毛に顔を埋める。しばらくして、一言。



「……オレはさあ……どんな天気でも、類が居るなら好きだよ?」


 そんな浩人の言葉に、自然と綻ぶ顔を見せまいとして、類は更にその胸に顔を埋める。




 ずっと、雨は 嫌いだった。
 濡れるのも、面倒なのも。雨の降る前や後の気候も。
 ――――…嫌い だった。

 今も。一人だと。嫌いなんだけど。
    
 だけど。 お前と一緒だと。

 一緒に入る傘も。
 肩くっつけて、歩くのも。

 傘に隠れて、キス、するのも。好きなんて。


 ――――……ほんと、オレらしく、ない。



「類……?」

 ふと頬に触れられて、そっと上向かせられる。  



「ふ。 ……可愛い。 今、すっごく喜んでるだろ」


 優しく緩む瞳が近づいてくるのをまっすぐ見つめて。
 唇が重なると同時に、類は瞳を伏せた――――……。








【完】




*****



雨やだなーと思いながら
短話完結で書いたんですが、
ぼんやりと、この二人のなれそめのお話を考えてます。
形になったら書きますので(^^)

お気に入り登録して置いて頂けたら
きっとまたいつか♡
by悠里


◇ ◇ ◇ ◇

↑と書いてたんですが、なんだかこの2人の昔を書きたくなってしまい。
次ページから、1話で切っても続きが気にならない程度で、書いていきますね(^^) 
思いついた時だけの不定期更新でいきます。
(2021/7/7)
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