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第3章 キャンプ
「髪を触る」*樹
しおりを挟む服を着て、鏡の前でドライヤーを手に取った。
すると、蓮が周りを見ながら近づいてきて、貸して、と笑う。
「今誰も居ないからさ」
「……うん」
見つめ合って、にこ、と笑い合う。
鏡越しに、ドライヤーをかけてくれる蓮の手をぼんやり見つめる。
いつもはリビングとかソファでかけてくれることが多いから、こんな鏡で、やってくれてる蓮を見る機会って、無い。
いつも触られる感触で分かってはいたけど。
指先で、すごく優しく、さらさら触れてくれてる。
「――――……」
ほんと、大好き、だなあ。オレ。
――――……蓮のこと。
見た目はすごく派手だけど。
多分、オレが知ってる、誰よりも、落ち着いてて、優しい。
……って優しすぎる位優しいのは、特にオレに対してかな。
森田とかには結構突っ込んでる気もする。
オレにもたまに面白いか……。
でも、ほんとに優しくて、黙ってても居心地が良くて。
こんなに、和む人、いないんだよね……。
あと。和むとは正反対で、ちょっと不思議ではあるけど。
――――……こんなに、ドキドキする人も。
皆、もうちょっと出てこないで、ゆっくり入ってて。
露天に行った皆に祈りながら、蓮の手がオレに触れてくれるのを見つめる。鏡ごしで見つめ合うとかは、ものすごく照れくさいので、蓮の顔を見つめる事は出来なかった。
最後、ブラシでとかしながら、セットしてくれて、ドライヤーのスイッチを切った。
「ありがと、蓮」
斜め後ろの蓮を振り返って、そう言うと、蓮はオレを見下ろして、ふ、と笑んだ。
「オレ、樹の髪触るの好きだから。昨日、出来なくて、すげーストレスだったの」
「……そうなの?」
思わず笑ってしまいながら聞くと、そうだよ、と蓮が苦笑い。
「良かった、今日は出来て。今日出来なかったら、すげーイライラして、山田とかに当たってたかも」
冗談めかして笑う蓮に、何それ、と笑ってしまう。
「蓮は? オレかけようか?」
そう言うと、蓮は、浴場の方を見ながら、首を傾げた。
「やってほしいけど……多分あいつら出てきて、うるさそうだから、今日はいいや」
「……じゃ明日、家でやってあげるね」
そう言うと、蓮は、楽しみ、と笑った。
「いつもさ、蓮はささっと自分でかけちゃうこと多いからさ」
「まあオレは、樹に触れるチャンスだから、めちゃくちゃ乗り気でやってたけど……別に一人でかけれない訳じゃないから」
「何、チャンスって」
「……んー。……堂々と髪、ずっと触っていられるチャンス?」
はは、と笑いながら蓮がそんな事を言う。
「――――……だって付き合ってた訳じゃないしさ。髪触らせてって、変だろ?」
「……キス、はしてたんだから、髪くらい……」
ちょっとよく分からない。
「キスは……我慢できなかったから」
「――――……」
「キスは許してくれてるっぽかったけど……その上髪、触らせてとか、気持ちわるがられても困るし。そこ、ドライヤーは、合法的だろ?」
「気持ち悪いって……合法って……」
クスクス笑ってると、蓮は、よしよし、と髪を撫でてくれる。
「まあこれからは、いつでも触るけど……でもドライヤーはさせて。髪が乾いてく、ふわふわした感じが好きだし――――……あと、気持ちよさそうにしてるの、可愛いから」
「……っ」
もう、ほんと、蓮、不意打ちで、恥ずかしいこと、ぽんぽん言う。
一瞬で赤くなったと思うオレは、可笑しそうに笑った蓮に、すり、と頬を撫でられた。
そこでがらっとドアが開いて、びく、と離れた蓮の手。
知らないおじさんが出てきただけで、オレ達のことなんか、全く見ていなかったのだけれど。
二人でおかしくなって、笑ってしまった。
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