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第3章 キャンプ

「出発」*蓮

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 樹と別れて車に乗る事になってしまった。
 最後に、ぽん、と撫でた頭の感触と、笑顔が抜けない。


 バックミラーに映る佐藤の車をなんとなく確認しながら、車を走らせ始める。何で、別れて乗る事になったかって。


「加瀬って、運転中、黙る人なの?」
「――――……」

 諸悪の根源の山田が、のんきに隣から聞いてくる。

「……別に」

 樹が乗ってるなら黙んねーけど。
 樹、向こうで大丈夫かな。

 ……って、大丈夫か。
 樹は、人と話せないわけじゃない。

 大勢が好きじゃないだけで、少人数で話す位なら、むしろ全然話せる。
 ――――……また、過保護とか、言われるな。


 後部座席の女子3人は、乗った瞬間から後ろでずっと喋ってる。

 松本咲まつもと さきはショートカットの超元気な子。
 坂井優菜さかい ゆうなは髪の長い、女子っぽい子。
 南智花みなみ ともかは、この中では一番話しやすい。サバサバしてて、なんなら、オレとは、男友達みたいノリ。

 この3人、そういえばクラス会とかでもいつも一緒にいるっけ。
 タイプ違うのに、仲いいんだな。

 ……で、山田が、この3人と仲がいいのか??


 女子がずっと喋ってて、それに山田もくわわってしゃべってるし、音楽もかかってるので、それを良い事にしばらく無言で過ごしていたら、山田のさっきのセリフ。

 ……別に、運転中黙る人、ではない。
 しゃべる気分でなかっただけ。


「加瀬、話しても平気?」

 山田が聞いてくる。


「ああ」

 前を見つめたまま答えると。


「加瀬って彼女居んの?」
「居ない」
「なんで?」
「――――……別に……今は欲しくないっつーか……」
「……ふーん」

 微妙な沈黙。

「つか、山田は居るの?」
「オレも居ないけど」

「そっちは、なんで?」

 山田の質問をそっくり返すと、山田はクスクス笑った。

「オレはお前と違って、彼女欲しいんだけどねー」
「好きな子は?」

「……ちょっといいなって子は居る」
「ふーん……告んねえの?」

「――――……いいよなー、お前はそうやってすぐいけるんだろうなー」

 しみじみそんな風に言われて、そういうんじゃねえけど……と返す。

「絶対モテただろ、高校ん時も」
「……まあ……彼女は居たけど。別に普通」
「やだやだ。絶対普通じゃないんだろ……」
「普通だって」
「……何、今欲しくないのは、何で? 付き合いすぎて飽きちゃったとか?」
「飽きたとかじゃねえけど……」

 けど……。
 今彼女が欲しくない理由なんてわかり切ってる。

 樹と居る時間が減るから。
 ――――……そこ減らして、彼女に費やしたくないし。

 ……なんて、さすがに言えない。

「そんな事言って、加瀬って、気づいたら彼女すぐできてそう」

 後ろから南がそう突っ込んでくる。
 いつも通り、オレの事を名字で呼び捨て。初めてのクラスの集まりから呼び捨てされたっけ。

「そんな自然と出来るもんじゃねーから。無いよ」

 言いながら、後ろの車を確認しながら、ゆっくりめに走る。
 ちゃんとついてきてるな。

 ――――……つか、佐藤、樹が安心するからって何だっつの。
 まったく……。

 気持ちは分からなくはないけれど、おかげでこんな事になってしまったし。
 なんて、悶々としていると。


「加瀬のタイプって、どんな?」

 そう、山田に聞かれた。

「好きな子のタイプってある?」
「……決まってないけど」

「じゃ高校ん時の彼女、どんな感じだった?」
「んー……派手な子が多かった、見た目も、態度とかも」

「ああ、そうなんだ……ふーん……」

「……でも、わかんね。 今は穏やかな方がいいかも……」


 樹と居る時みたいに、穏やかに居られる方が、心地よいし、楽しい。


 ――――……つか、オレの思考って、どんだけ、樹なんだろ。
 何考えてても、樹が基準って、なんだ。

 横に居ないから、余計に思い出してしまう。


「――――……山田って、南達と仲いいの?」
「ん?」

「3人誘ったの山田なんだろ?」
「うんまあ――――…… キャンプの話を佐藤とかとしてたら、そん時この3人も隣に居てさ」

「ふーん。……坂井は、キャンプ好きなのか?」

 バックミラー越しに、真ん中に座っていた坂井を振り返る。

 松本は騒ぐの好きそうだし、南もノリノリで男子とのキャンプも平気そう。
 一人だけ、坂井だけ、何となくちょっとイメージが違う。

 男子と泊りのキャンプなんて来そうにない。
 樹がキャンプに行きたがるのが珍しいなと思うのと、同じような感覚で、珍しい感じがするけど。

 そう思って聞いたら。
 急に話をふったせいか、ミラー越しに、びく!と驚かれた。


「あ、うんっ。楽しそうだな、と思って」

 焦ったみたいに答えられて、またちら、と後ろを見ると。

 横から山田が割り入ってきた。

「3人とも参加したいっていうから、森田に話したらOKくれたからさ。女子居た方がバーベキューとかも助かるし」

「ふうん。そっか。 ……あれ、そーいえばバーベキュー、肉とか買ってくって言ってたよな。どこで買うんだ?」
「高速降りてキャンプ場までの間にでかいスーパーがあるって。森田が言ってたよ」
「分かった」


 適当に会話をしながら、後ろの車に合わせながら、しばらく高速を進む。


「加瀬の運転、快適。高速慣れてないって言ってなかったっけ」
「慣れてないけど……ずっと左車線走ってるし。全然問題ないだろ」

「うーん、でも、後ろの佐藤はずーっと強張ってるけどな……」

 クスクス笑って山田が後ろの車を振り返って、眺めながら言う。

「その横で、横澤が楽しそうに笑ってるけど。佐藤はほとんどしゃべってないなー……」

「……休憩しよ。 山田、樹に次のパーキングで休むって連絡して」
「OK」

 オレが言って、山田がスマホをいじって数秒。

「……了解だって」

「早や、横澤くんの返事」

 南が突っ込んでくる。



「山田に連絡させるからスマホ持っててって、樹に頼んだから」

 まじめに持っててくれるあたり、樹らしいけど。
 ふ、と笑って、オレが言うと。


「加瀬と、横澤くんって、いつから仲いいの?」

 南の不思議そうな質問が飛んできた。

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