上 下
8 / 77
第2章 王様ゲーム

「穏やか」*蓮

しおりを挟む
 樹は、優しい。
 大勢で騒がないけれど、直接話せば、優しいし、まっすぐだし、まじめなのも、すぐ分かる。
 おとなしい訳ではないから、突っ込みも入るし、話していて、楽しい。

 大勢でつるんだりするのはあまり見かけないけれど、樹は仲の良い奴が多い気がする。

 オレは、まあ……いつも目立つ連中と居て、楽しそうで、騒がしくて。と、周りから思われているらしいのは、何となく知ってる。

 自分でも、バカ騒ぎしてるのが一番好きな人間だと、思っていたし。


 ――――……樹と話す時みたいに、穏やかに話すのが好きだ、なんて、最近、初認識したばかりで。

 最初に樹と話した時に、何でだか、自分がすごく穏やかで。
 その居心地が良かった。

 一緒に暮らして、さらに、その認識が深まって。

 穏やかに話すのが、楽で。
 樹とは、どれだけ一緒に居ても、疲れない気がする。

 無理をしなくても、楽で、居心地が良くて。
 それがこんなに、穏やかだなんて。
 最近、初めて知った。


「なあ蓮、イメージどんなの? こんなの?」

 樹が深緑の皿を手に持って、見せてくる。

「ん――――……形はこんな感じかなあ… 黒っぽいのがいいかと思ってたんだけど……緑もいいかも……」

「とりあえず黒も探してくるね」

 樹がそう言って、また店内をうろうろし始める。

 渡された皿をじっと見ていると。
 色々作りたいものが浮かんでくる。

 なんかオレ、ほんと料理人みたいになってきたな……。
 ふ、と、苦笑いしつつ。


「蓮ー、ここらへん? 黒いのって」
「ん」

 樹が見ている横に一緒にしゃがんで、2人で選ぶ。

「……じゃ、さっきの樹の持ってきたこれと、あと、この黒いの。買ってこ」
「うん」

 2人でレジに並ぶ。

「いくら? 半分だす」
「いいよ、オレが欲しかったんだし」

「でも……むしろオレが食べさせてもらうんだし」

 クスクス笑いながら、樹が皿の裏側の値段シールを見ようとしてくる。
 見せないように、しているのだけれど。


「一緒に買おうよ、蓮」

 そう言う樹に、多分もう聞かないなと思い、仕方なく頷く。

「蓮、なんか不満?」
 言いながら、樹がオレを見上げて、肩を竦めて笑う。

「…んな事ないけど」
「出すって言ってるんだから、その方が普通良くない?」
「――――……まあ……」

「……それに、2人で一緒に買ったって方が、なんか嬉しくない?」

 そう言う樹が、ふ、と楽しそうに笑っているので、結局そんな気になって、オレも、そうだなと頷いた。包んでもらった紙袋を受け取って、店を出る。

「早く料理したいなーとか、思うの?」
「思う。早く料理、のせてみたい」

「ほんと蓮、料理人みたい」

 クスクス笑って。

「おかげでオレは、めっちゃ毎日幸せだけど」

 178センチのオレより、樹はいくらか背は低い。
 一緒に並んでると、すこし下にある樹の頭。 茶色の髪がふわふわしてる。笑顔で何か言う時、必ず見上げてきて、顔を見ながら話す樹。

 可愛いとしか思えない顔で、そんなような事を言って、微笑む。


「――――……お前が喜ぶから、オレ、プロ化してってるんだけど」
「えー、じゃあもっと喜ぶことにするね」

 そしたらもっと美味しくなるのかー、すごいなー、なんて、楽しそう。


「樹、どーする、集合まであと30分あるけど」
「うーん。蓮はどうしたい?」

「コーヒー飲もっか」
「うん」
「歩きながら探そか」
「うん」

 二人で歩きながら、店を探す。

「そういえばさ」
「ん?」

「蓮のことを好きな子……とか、気になる?」

 珍しい、そういう恋愛話みたいなのを振ってくるの。
 そう思いながら、答える。

「……今は、なんねーかな」
「……今、は?」
「彼女欲しいとか、今あんまり思ってないから」
「……ふうん。そうなんだ。 あ、蓮、このカフェ、美味しそう」
「ん、いいよ、ここで」

 雰囲気の良い、カフェ。
 ドアを開けると、からん、とドアチャイムが鳴り響いた。

しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

「恋みたい」

悠里
BL
親友の二人が、相手の事が好きすぎるまま、父の転勤で離れて。 離れても親友のまま、連絡をとりあって、一年。 恋みたい、と気付くのは……? 桜の雰囲気とともにお楽しみ頂けたら🌸

「短冊に秘めた願い事」

悠里
BL
何年も片思いしてきた幼馴染が、昨日可愛い女の子に告白されて、七夕の今日、多分、初デート中。 落ち込みながら空を見上げて、彦星と織姫をちょっと想像。  ……いいなあ、一年に一日でも、好きな人と、恋人になれるなら。   残りの日はずっと、その一日を楽しみに生きるのに。 なんて思っていたら、片思いの相手が突然訪ねてきた。 あれ? デート中じゃないの?  高校生同士の可愛い七夕🎋話です(*'ω'*)♡ 本編は4ページで完結。 その後、おまけの番外編があります♡

【Rain】-溺愛の攻め×ツンツン&素直じゃない受け-

悠里
BL
雨の日の静かな幸せ♡がRainのテーマです。ほっこりしたい時にぜひ♡ 本編は完結済み。 この2人のなれそめを書いた番外編を、不定期で続けています(^^) こちらは、ツンツンした素直じゃない、人間不信な類に、どうやって浩人が近づいていったか。出逢い編です♡ 書き始めたら楽しくなってしまい、本編より長くなりそうです(^-^; こんな高校時代を過ぎたら、Rainみたいになるのね♡と、楽しんで頂けたら。

「誕生日前日に世界が始まる」

悠里
BL
真也×凌 大学生(中学からの親友です) 凌の誕生日前日23時過ぎからのお話です(^^ ほっこり読んでいただけたら♡ 幸せな誕生日を想像して頂けたらいいなと思います♡ →書きたくなって番外編に少し続けました。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

うちの子達の番外編おきば♡

悠里
BL
「お月見」は、アンダルシュ《うちの子》推し会!第1回 お題「お月見」に参加した番外編です。投稿期間は2021年9月18日~20日でした♡ それ以外は、本編では月日が合わなくて書けない番外編を置く事にします。 本編とは関係ないものとして読んで頂きたいです♡ 本作品を読んでなくても、楽しんで頂けるように、簡単な関係は書きますので、短編としてぜひ♡ そのまま、元の作品も読んで頂けたら良いなあ♡と思いつつ。

処理中です...