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四章 行き着く先は

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 日曜日になり、今日は映画を見に行ったり、ちょっとお高めのお店でランチを取るんだと言って両親はデートに出掛けて行った。

 夕方六時には戻ってくるって言ってたから、それまでに準備を終わらせないとね。

 ささっと野菜を切り終わり、じゃがいもを水に浸けてアク抜きしている間にお花を買いに行くことにした。

 家の近くのお花屋さんは小さくて種類もそこまで多くないので、駅前まで出ることにした。
 母の日と言うこともあり、カーネーションの花束や紫陽花なども多く取り揃えられていた。
 母の日に紫陽花を送る人も結構いるってテレビで言ってたかも。
 確かに綺麗だよね。どうしよう……

 花言葉とか気にしないで、見た目で選んでいいかな。
 オレンジとピンクのガーベラの小さなブーケがめっちゃ可愛い!
 これ、テーブルに飾ったら素敵な気がする。

 他にも何かないかなとうろついてみるも、やっぱりさっきのにしようと、店の入り口へと戻ると、碧くんに出会した。

 「あれ、柚木も花買いに来たのか」

 「うん、母の日だからね。碧くんも花買いに来たんだね」
 
 彼の手にはカーネーションが一輪握られていた。
 男の子なのに、ちゃんと花を買いにくるなんて偉いな。

 「私は、この花にしようかなって……悠?」

 碧くんと話していると、ちょうど店の前を悠が通りかかり、目が合ってしまった。
 よりによって碧くんと一緒にいるところに遭遇するなんて……部活はどうしたのー⁉︎

 「えっと、お花を買いに来たら、偶然……そう、偶然、碧くんに会ったんだよね」

 「そっか」

 「悠は、部活帰り? 今日は早かったんだね」

 「今日は、練習昼までだったからな」

 「それなら、私も帰るところだったから、一緒に帰ろうか」

 「そうだな。俺も花買ってから帰るよ」

 見た感じ……気にしてるようには見えないけど、これまでを振り返ると、碧くんのこと気にしてそうな気がする。
 とりあえず、偶然なのだと強調してみたけど……

 「じゃ、俺は先に会計して帰るから、またな」

 「うん。碧くん、またね」

 悠と碧くんは、言葉は交わさず、軽く会釈をして別れた。
 二人は友達ってわけでもないから、言葉を交わすのも微妙なのかもしれないな。

 悠は何を買うのかなと眺めていると、紫陽花の鉢植えを選んでいた。
 わかるよー、可愛いよね。私も紫陽花にしようか悩んだんだよね。

 ただ、テーブルに飾りたかったから、やっぱり切り花かなって思って、ミニブーケを選んだ。

 「悠……本当に、碧くんと会ったのは偶然なんだよね」

 「分かってる」

 「じゃ、気にして……」

 「正直に言えば、気にしてるな。どうしてこうも遭遇する率が高いんだよって思っちゃうんだよな」

 「うー、それは私も思ったけど」

 家からお店まで近いから近所で出会すことはあるとは思うけど、タイミングが……
 私は悠以外見えてないけど、そんなこと悠は知らないから、碧くんのこと気にしちゃうんだよね。
 どうしたら、不安にさせないかな……

 「今日は、カレー作るって言ってたよな」

 「うん。野菜はもう切ってあるから、あとは炒めてルー入れるだけだから、すぐだよ」

 「おばさん、喜びそうだよな」

 「めっちゃ喜んでくれると思うなー」

 娘の私が言うのもなんだけど、お母さんは私のこと大好きだから、大袈裟なくらい喜んでくれそう。
 家に着くと、すぐに花瓶にミニブーケを飾る。そして、可愛いナプキンを折り、麻の紐で縛りリボンにしてカトラリー入れを作る。

 良い感じー! めっちゃ可愛くテーブルセットできた気がする。
 冷蔵庫には、果物もカットしてラップをしてあるから、帰ってきたらすぐ出せるし、カレーも作り終わって準備万端。

 お母さんたちが帰ってくるまで、あと一時間もあるなと思っていたのに、鍵が開く音が聞こえた。
 え……? もう帰ってきたの?

 「ただいま。カレーの良い香りがするわね」

 「おかえり。予定より早かったね」

 「母さんが、早く帰っていろはのカレーが食べたいってきかなくてね」

 「えー、隠し味とかもない普通のカレーだから期待しすぎないでね?」

 「いろはが作ったことが隠し味になってるのよ」

 「もー、それじゃ、温め直すから、ゆっくりしてて」

 「はーい」

 カレーを温めている間に、果物やサラダ、飲み物を出していくと、お母さんは、それを微笑みながら楽しそうに眺めていた。
 そんなに嬉しそうにしてくれるなら、頑張った甲斐があるな。

 私がご飯の準備をしている間に、お父さんがプレゼントを部屋から持ってきてくれたので、食べ始める前にプレゼントをあげることにした。

 「お母さん、いつも私たち家族のためにご飯を作ってくれたり支えてくれて、本当にありがとう。これ、お父さんと一緒に選んだの。良かったら使ってね」

 「まぁ、選んだのはいろはだから、気にいると思うけどな。俺は半分出しただけだから」

 「ふふっ、二人ともありがとう。何かしらね。開けてもいい?」

 「もちろん。どうぞー」

 リボンを解き、ボックスの蓋を開けると綺麗にティーセットが収まっていた。
 ソーサーが丸い葉っぱの形をしているから、花が咲いているように見えて可愛い。

 「まぁ、可愛いわね。四脚あるから梢ちゃんがうちに来た時にも出せていいわね」

 「でしょー? 可愛いから何脚かあったほうがいいと思って、お父さんと出し合ったんだよね」

 「本当に……お母さんは幸せ者ね。こんなに可愛い娘と優しい夫がいて……」

 プレゼントを抱きしめながら、涙を流すお母さんの頬を拭いながら背をさする。

 「もー、お母さんってば、泣かないで? 私こそ、素敵なお母さんのもとに生まれて幸せだよ」

 ぎゅっと抱きしめて、感謝を伝えると「良い子ね」と頭を撫でてくれて、なぜか私も泣きそうになってしまった。

 「ほら、二人とも。せっかくいろはが温めてくれたカレーが冷めてしまうから食べようか」

 「そうね。楽しみにしてたから、早く食べましょ」

 「はーい」

 市販のルーを使った普通のカレーなのに、「お母さんよりカレー作るのが上手ね」なんて言いながら、嬉しそうに食べていた。
 まぁ……愛情はたっぷり入ってるからね。
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