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一章 再会

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 高校一年の夏、お祭りで買ったりんご飴をベランダで食べながら、幼馴染の男の子を思い出す。
 隣の家に住んでいたため、家族ぐるみで付き合いがあり、毎年一緒にお祭りに行っては、りんご飴を買って、ベンチに並んで食べた。
 結局大きくて全部食べられなくて、家に持って帰って、お祭り楽しかったなと思い出しながら残りを完食するのが恒例になっていた。

 「そんなところで暑くないの?」

 昔のことを思い出していると、お母さんがリビングから顔を出してきた。

 「んー……暑いね。そろそろ中入るよ」

 風があるわけでもなく、夜でも蒸し暑い。
 良い感じに余韻に浸れないと思い、早々に中に入ることにした。

 「そういえば、悠くん。一年生でレギュラーになったそうよ」

 「えっ⁉︎  凄いじゃん!」

 小学校三年生からバスケットを始めた彼は、今でも真面目に続けて、レギュラーの座を勝ち取ったのか。
 中学に上がる前に、私たち家族が引っ越しちゃったから、悠とはそれっきりだけど、お母さんはおばさんと今でも連絡をとり続けていた。

 「高校一年生なのに、もう175cmも身長があるんですって。バスケット続けてたかしらね」

 「う……高すぎじゃ無い?」

 私は身長が154cmしかないのに……しかも、もうこれ以上伸びそうにもない。
 
 「バスケットやってるんだから、高すぎて困ることはないでしょ」

 「まぁ、そうだけど……」

 彼に会うことがあれば、身長差が凄くて見上げることになりそう。
 釣り合わない……か。

 小さい頃から兄弟のように過ごしてきた悠と私。
 地区大会があれば、家族で応援に行っていた。応援席にいる私に気付くと大きく手を振ってくれる彼が好きだった。

 中学に上がる前に引越しが決まり、私の初恋はそこで終わったはずだった。
 だけど……お母さんが、しょっちゅう彼の写真を見せてくる。

 「ねぇ、見て見て。こずえちゃんから悠くんの写真が送られてきたんだけど、高校のユニフォーム着てるのよ。格好良いわねー」

 また悠のお母さんから写真もらったの⁉︎  
 そのせいで、私は彼を忘れられずに、初恋継続中だったりする。
 はぁ……

 「……それも私のスマホに送っといて」

 「もう、そんなに気になるなら、私から梢ちゃんに悠くんのID聞いてあげるのに」

 「いや……いいよ」

 親を通してID聞くのはなんか……それに、もう三年も話していないのに、何を送ればいいのかも分からない。
 まだ彼女はいないみたいだけど、高校生になったし、一年生でレギュラーなんてモテるに決まってるし……
 悠に彼女ができたってお母さんにいつ言われるのかと戦々恐々としている。

 お母さんから送られてきた悠の写真を見ながらソファーに寝転がる。
 はぁ、硬めの黒い髪が短くカットされて、スポーツ少年って感じがして爽やかだなー……格好良すぎる。
 青と白のユニフォームも爽やかで似合ってるよ。レギュラーおめでとう。
 いつも心の中で応援してるからね。

 「それにしても、いつになったらあの家に戻れるかしらね。そうくんが住んでてくれるから安心してこっちに来たけど」

 従兄弟の蒼くんは、お父さんの転勤が決まった時に、ちょうど大学進学を控えていた。
 ちょうど一人暮らしを検討していたタイミングだったため、それなら我が家を使ったらどうかと提案したのだ。
 それなら、我が家で暮らせばいいんじゃないと言うことになり、一戸建ての我が家を一人で使っている。
 礼儀正しい彼のことだ、綺麗に使ってくれてるんだろうなとみんな安心して任せている。

 父は数年地方に転勤した後に、本社に戻るというものだったため、もう三年もこっちにいるのにとお母さんは思っているみたい。
 私も早く戻りたいな。こっちでも友達はいるけど……やっぱり悠に会いたいし、あちらで過ごした年月の方が長いため、帰りたい気持ちの方が大きい。

 そんな気持ちのまま一年が過ぎ、ついに父の本社への移動が決まった。
 これで悠に会える……

 「二年生から悠くんと同じ学校に通うのね。今から楽しみなんじゃない?」

 「楽しみだけど……久しぶりすぎてちゃんと話せるかな」

 「大丈夫よ。きっとすぐ前みたいに話せるようになるわよ」

 「そうだといいけど……。あっ、おばさんに話す時は、悠には内緒にしてって言ってね。学校で会ったときに驚かせたいから」

 「あら、面白そうね」

 春休みの内に引越しの準備をして、新学期が始まる三日前に引越しが決まった。
 春休み中は、部活でほとんど家にいないみたいだから、引越しのトラックが来ても悠は気付かない。

 蒼くんは、丁度就職するタイミングだったこともあり、我が家を出て行くことになった。
 
 久しぶりに帰った我が家は、あの時と変わらない。
 蒼くんが新しく家具などを買ったりしたわけでもないから、変わりようもないけれど。
 使っていた客間には色々自分のものを置いていたみたいだけど、それも既になく、以前と変わらない状態に戻っていた。

 私の部屋とかも時々換気をしたり掃除機をかけていてくれたみたいだから、本当に感謝しかない。

 「蒼くんに我が家を貸したのは正解だったわね。妹の子だもの、やっぱり信用できるわよね」

 「蒼くんは昔から礼儀正しくて、良い子だったよね」

 「本当に、思春期でも荒れることもなくて、今では本当に良い男になったわねー」

 「一流企業に就職も決まったみたいだし、恋人には困らなさそうだよね。こんな言い方あれかもだけど……めっちゃ優良物件だよね」

 「本当にね。いろはが悠くんのこと好きじゃなければ、蒼くんに貰ってもらいたいぐらいだわ」

 「……お母さん」

 私と蒼くんはそういう感じでは決してない。
 妹のように可愛がってくれてはいたけど、お互いに恋愛感情なんてものは微塵もない。
 大体、年も離れてるのに、何を言ってるんだか。
 

 
 

 
 
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