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3.火竜襲来

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「っ!」
 なんで裸?
 って、さすがに一応水着らしきものは着ているか。



 燃えるように紅い髪と、雪のように白い肌が、薄明かりの中で微かに光っているように見える。




 膝を抱えるようにして眠っている女の子の手には手錠が掛けられ、猿ぐつわをかまされている。
 
 奴隷として売買される途中ってことだろうか。でもそれなら箱に、はっきりと奴隷と書かなければならない。

 つまり、この子は違法取引されているってことだ・・・・・・




 そう思ったとき、森の向こうから叫ぶ声がした。


「な、なんだてめぇら!ぐあぁっ!」
「ぎゃあぁっ!」



 飛竜使いたちの断末魔。
 盗賊か何かに襲われているのかっ!?



 そのとき、頭上にヒュウっと風切り音が聞こえた。
 これは、飛竜の翼の音!


「ヤバい!」

 いやな予感がした俺は、とっさに女の子が入った木箱を抱えて横っ飛びに跳んだ。



 すると、空気の爆ぜるような音とともに巨大な炎が降ってきて、さっきまで俺たちがいた場所を焼いた。



「くっ!」
 着地して振り返ると、森の中の空き地は一面、紅い炎の海になって、飛竜たちを呑み込んでいた。



 鳴き叫びながら倒れていく竜たちに息をのむ。
飛竜も竜の一種だから、そう簡単に焼き殺されたりはしないはずなのに。



ってことは、今襲ってきたのはより上位種の竜・・・・・・!


 その推測は当たっていた。
 
 すさまじい風圧とともに上空から降りてきたのは、火炎翼竜だった。



「イーーーヤッホゥハハッハハァーーー!」
 竜の背に乗った一人の男がキ○ガイじみた笑い声を上げている。



「ヒャハハハハ!やっぱりグリルバースト産の火竜はぁ、世界一ィィイイイィィイイ!!」


 すると、さらにもう一頭の火炎翼竜が降りてきた。

「おい、あまり竜を暴れさせるな!獲物を台無しにするつもりかっ!」

 こっちの乗り手はまだマトモなようだが、気の触れた乗り手はヘラヘラと笑っている。


「だぁいじょうぶだって!ここにゃ雑魚トカゲどもしかいねぇ・・・・・・ん?」



「っ・・・・・・!」
 最悪だ、奴と目が合ってしまった!


 
 キ○ガイライダーは耳まで裂けそうなほど口を開けた笑顔で、
「なぁあに持ってンだい、おニイちゃぁん?」
とこちらに急降下してきた。



「くっ!」
 慌てて絨毯をひっつかむと、木箱を抱えて飛び乗った。
 森の上空へと急上昇すると、



「ハハッ、待てよぉぉおおっ!」
 奴もまた、火竜を再び飛び上がらせようとするが、



 グギャッ!
 と火竜は悲鳴を上げた。
 翼が木の枝に引っかかったらしい。



「うぉいっ、何やってんだこのクソトカゲがぁっ!!」
 と、男は毒をはいている。



 バーカ、何いってんだよ、自分の騎乗が悪いだけだろうが!
 俺は舌を出しながら、すっかり暗くなった夜空へと駆け上がった。



 飛竜と一緒ならともかく、絨毯一枚で森林地帯をナイトクルージングなんて、いつモンスターに襲われるかわからないからな、俺はすぐに夜を越すための隠れ場所を探した。



 このあたりは何度も通っていて、地理は頭に入っていたから、山の中腹にいくつも洞穴があいているところを見つけられた。



 絨毯を着地させると、すぐに木箱を下ろした。
 相変わらず女の子は目を覚まさないが、顔色は悪くないし、呼吸もちゃんとしている。



 とにかく、拘束を解いて楽な姿勢にしてあげよう。
 幸い、手錠・足かせの鍵は、木箱の中にあった。



 錠を外し、猿ぐつわを取って絨毯に寝かせると、ジャケットを脱いで身体に掛ける。
 ふうっ、と俺は安堵の息をついた。

 なんせ、結構スタイルがいい子だから、肌が隠れてないと目の毒なんだよな・・・・・・
 


 木箱を砕いて薪にすると、転がっていた石で簡単な炉を組んで、火を起こす。
 燃える火を見ながら、これからどうするべきか、って考えた。



 いやまぁ、どうするもこうするも、最後は会社に戻るしかないんだけどな。
 この首輪をはめている限り、社長、つまり自分の主人からは逃れられない。
 3日以内に主人の下に戻らないと首輪が自動的に締まって、窒息死してしまう。
 物理的もしくは魔法の力で首輪を外そうとか壊そうとすると、これもまた首輪が締まるようになっている。
 


 でも、この女の子にはそういう首輪はついていない。
 まだ、奴隷として誰かのモノになっていないんだろう。



 ならば、まだ一般人に戻れる可能性がある。
 帰社するまえに近くの街の教会に寄って、彼女を保護してもらおう。



 そう思ったとき、「うぅん・・・・・・」と少女が声を出した。
 長いまつげに縁取られたまぶたが震え、ぱっと大きく見開かれた。



「気分はどう?」
 ときくと、まだ意識がはっきりしないのか、焦点が合わない目でこちらを見ながら、ゆっくりと起き上がる。



 その拍子に、かけてあげたジャケットが地面に落ちて、豊かな膨らみが顔を出す。
 自分の姿と、俺の姿とを交互に見た少女は
「・・・・・・!」
 見る間に顔を紅くして、自分の胸を隠した。



「ごめん!ここに運んできたのは成り行きでっ、その変なことは何も・・・・・・」
 と、とっさに言い訳する。


「この服や絨毯は、あなた様の?」
 初めて聞く少女の声は、鈴を振るように可憐だった。



「うん、そんなボロしかなくて申し訳ないけど」
 頭をかく俺に、少女は



「いいえ、気遣ってくれてありがとうございます」
 と微笑んでくれた。



 め、めっちゃ可愛い!
 貴族だったとき、一度だけ王宮の晩餐会に行ったことあるけれど、そのときに会ったどの女の子よりも美しいんじゃないか、と思った。



「いや、こっちこそありがとう、信じてくれて」
 叫ばれることも覚悟していたから、優しく対応してくれたのは嬉しかった。



「だって、この絨毯から流れてくるマナ、とっても優しくて温かいから。きっと良い人だって思ったんです」
 と少女ははにかみながら、絨毯をそっと撫でた。

 

「それにしても、すごいですね!絨毯魔法は初めて見ました!」
「え、そう?空飛ぶ絨毯なんてそんなに珍しい?」



 すると、少女は不思議そうな顔をした。
「?これは絨毯魔法ですよね?空飛ぶ絨毯とは全然違うのですが・・・・・・?」



 は?どういうことだ?
 数秒間、俺たちは互いの言葉の意味が分からずに静止していたが、やがて女の子は何かに気づいたように「あっ」と唇を開いた。



「ご存じないのですね、絨毯魔法が万能魔法だということを」
 
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