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第一章 初心者の躍動
第5話 冒険者登録
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チュートリアルを終えた俺が居たのは中世の街のような。
それこそ異世界ファンタジー小説なんかで出てくる街の噴水広場という感じの場所だった。
「すげぇ~」
こんな一言しか感想の出てこない自分を少し残念に思うけど正直な思いだった。
海外などにもあまり言ったことが無いだけに、ちょっとした旅行気分になっているのかもしれない。目に見える人々の中に獣耳の獣人、耳の長いエルフなどが居るから現実ではない事は一目瞭然だけどな。
と関係ない事を考えながら、周囲を見回していると何人もの者達が一直線に向かっている場所を見つけた。
それと同時に目の前に一つのメッセージが表示された。
【チュートリアルミッション:1『冒険者登録をしよう!』】
合わせてナビするように視界に矢印が現れてどこに行けばいいのかを案内してくれていた。
おかげで周囲の人達が迷いなく全員が一方向に向かって行けているわけが理解できた。
「これ見てみんな移動しているのか」
納得しながら俺も案内に従いながら進む。
道すがら周囲を見ていて気が付いたがNPCが本物の人間と差異が無く、話している内容も途切れ途切れに聞こえるが自然な日常会話が聞こえるだけだった。中には怒っている者も泣いている子供なんて言うのも見かけた。
システム的に識別機能をONにすると分かりやすくなるようだったけど、それはそれで味気なくて俺はOFFにしている。なので見える範囲の誰がプレイヤーなのかわかっていない。
今は全員が同じ方向に進んでいるからなんとなく把握できてはいるけどな。
「にしても初日だけあって人が多いな…」
しばらく進んでいるけれど人が多すぎる。
そのせいでしばらくすると動き難くなってきてしまった。
「少し強引に行くか…」
最初は大人しく人混みに付き合っていたが、さすがに無駄に時間が掛かりすぎている。
なので人混みから外れて通りの建物の屋根上を移動する。登り方は簡単で、昔のゲームなんかである壁を左右にはねながら登るやつだ。
練習すると意外とできるようになる。
したからなんかザワザワと騒がれているようだけど気にしないで先へと進む。
そうして真っすぐ進む事1~2分ほどでひときわ目立つ三階建ての巨大な建物があった。下の人混みは飲まれるように建物内に入って行くし、目の前の矢印も示しているから目的地で間違いないだろう。
下に降りると人に囲まれて面倒そうな事が一番の問題だが、下りる事が出来ないのなら別の方法で行くまでだ。
「さて……行くかっ‼」
気合を入れ助走をつけて建物目掛けて跳んだ。
距離にすると15mほどだったが着地点の人達がどいてくれていた事もあって普通に着地して建物内へ「おい!危ないだろ!」行こうと思っていたのに…
「なんですか?」
「こんな人混みに飛び込んできて危ないだろうが‼」
あからさまに怒っている目の前の男は無駄に派手な赤々しい髪を無駄にトゲトゲにしていた。身に付けているのは革鎧に木製の円形盾と片手剣が1本。典型的な初期装備って感じだ。
「話聞いてんのか⁉」
「話は聞いていた。でも、どうせ怪我するわけでもHPが減るわけでもないのに大袈裟な」
「あぁ゛⁉」
「まぁ…常識的に考えれば俺の行動が悪かったのは確かだな。申し訳なかった」
「急に普通に謝んのな⁉」
なんだかんだ言っても冷静に考えれば俺の行動がよくなかったから謝ったのだが怒鳴られてしまった。たまにある事だが俺はどうやらタイミングが良くないらしい。
今回も言われた内容的にタイミングをミスったのだろう。
だが俺が首をかしげると男は『もういいや…』とどこか呆れた様子で離れていった。
興味深そうに見ていた周囲もなにか困ったものを見るような目を向けた後、まるで避けるように俺から距離を取って中へと入って行った。
「よく分からないけど、まぁ~いいか」
あまり気にしすぎても誰かが説明してくれるわけでもないので考えるのを辞めた。
ついでに表の看板を確認すると『冒険者ギルド』と書かれていた。
中に入ると本当にファンタジー!っていう感じの美人の受付、依頼書の張られた掲示板と依頼を物色するNPCの冒険者達。脇の方には数十種の酒が並んだバーカウンターに渋い40代ほどに見えるマスターがグラスを磨いている。
そんな雰囲気抜群の場所で空気をぶち壊して騒いでいるのがプレイヤーっていうのが少し悲しくなるな。
「って、そんな事より登録しないと」
ここに来た目的を思い出したのはいいが同じ目的で集まっているプレイヤーで受付は混雑状態。
近くには依頼の紙を持ったNPCの冒険者が迷惑そうな表情を浮かべている。ちなみに識別方法は装備の質だ。
プレイヤーの装備は全員が初期装備の質素な服の上から革鎧と貧相に見える武具を持っているだけ、なにより全員がどこか馴染めていない。どこか浮足立っているのだ。
対してNPC達は違和感がない。
現実世界で日常を送る人々と同じで、そこに居るだけでも背景と同化しているかのように数㎜の違和感も感じる事がない。
完全に感覚での判断だから当たっているかは知らないけどな。
「お、一か所空いてるな」
くだらない事を考えながら受付を見ていると一か所だけ、この混雑状況で不自然なまでに空いていた。
たまに近寄る奴もいるみたいだけど近くの冒険者に話しかけられて慌てたように離れていく。口元を読んだ感じだと『お化け』『不気味』『噂』なんて単語が出てきていた。
気になって見続けていると空いてる受付の下の方から出てきたのは赤茶色の髪を腰ほどまで伸ばし、前髪も目元を完全に隠すほど伸ばした女性が出てきた。女性とわかったのは体つきがはっきりとわかるほど出るところは出て、引っ込むところは引っ込む。綺麗な体形をしていたからだ。
その女性らしい体形に周囲の男どもの視線は集まるが、顔を見た瞬間に不気味な長髪によって顔を顰める。
「…空いてるなら別に何でもいいか」
正直に言って今は時間が短縮できればいいので俺は相手の容姿なんて気にしない。
という事で、すぐに空いている受付へと向かう。途中で何か他の奴に忠告していたように声を掛けようとしてくる奴も居たが、時間のロスにしか感じなかったので全力でスルーした。
「ここって登録できますか?」
「え?」
声を掛けると自分の所に人が来ると思っていなかったのかキョトン?とした反応が返ってきた。その時に顔を正面から見て目は隠れてて見えないけど、全体的に顔も整っているように思えた。
もっとも大して興味はないけどな。
「あ、えっと…はい、ここでも冒険者登録できます」
「なら登録手続き頼みます」
「承りました。では、こちらを読んでサインをお願いします」
出された紙には『冒険者登録申請書』とファンタジー感少し壊すレベルで役所の提出書類のような内容が書かれていた。でも、書かれている内容は簡潔で分かりやすく1分も掛からずに読めるようになっていた。
そして全体を読み終わったのでサインして提出する。
「これでいいか?」
「問題ないです。こちらが冒険者証になります」
そう言って渡されたのは銅で出来たドッグタグのような物で表面にはFと彫り込まれている。
「このFってランク制度があるのか?」
「はい、こちらに簡単な…本当に簡単な内容ですけど説明が書いてあります」
何度も念を押すように『簡単』って言いながら渡された紙を見ると…あの念の押しようにも納得した。
なにせ紙には…
――――――――――――――――――――――――――――――――
【冒険者ギルドのルールブック】
・1:ギルド組員はF・E・D・C・B・A・S・SS・SSSの九つのランクによって分けられる。初めて登録した者は一番下のFランクから始める。このランク制度は依頼にも存在し、依頼を受ける場合は自身のランクと同じか1つ上のランクの物のみ受けることができる。
・2:パーティーを組んだ場合はパーティーの内で一番人数の多いランクの依頼まで受ける事が出来るようになる。
・3:ギルド組員同士の問題に一切ギルドは関知しない。
・4:ギルドに所属する者が犯罪行為に及んだ時、その犯罪の内容により資格の停止・凍結するものである。更にその内容があまりにも悪質だと判断された場合、資格剥奪の上で衛兵の元へと連行されるものである。
・5:以上の内容に納得できぬ者は自主的に辞めろ!
――――――――――――――――――――――――――――――――
「…確かに簡単だな。これ内容を考えたの誰だよ…」
読んだ後に思わず素直な感想が漏れてしまった。
あそこまで念を押されたけどここまで完結で、最後に至っては完全に個人の感情が丸出しの文章だ。これを一組織の公的な配布物として採用しているって凄すぎるだろ。
と言う気持ちが抑えられずに出てしまった独り言だったけど、受付嬢には聞こえていたようでそこか困ったような声音で答えてくれた。
「一応…ギルドマスターが…」
「……苦労するな」
「は、はは…」
思わず感想を漏らすと受付嬢は困ったように苦笑する。
そこでいまだに自分が自己紹介すらしていないことを思い出した。また関わることがあるかは分からないが人付き合いの基本として一番大事なことだ。
「今更だけど、俺はナギ。これから何かと世話になると思う」
「あ、私はレイルです。基本的には受付をしていますので、いつでもいらしたときはお声がけください」
「あぁ、来た時に空いてたらお世話になるよ」
「それなら毎回になりそうですね。私の場所は何故か人来ないので…」
すごく落ち込んだような様子で話すレイルの姿を見て、どうやら自分の見た目が不気味になっている事などに気が付いていないようだ。特に近寄ってきた冒険者を別の受付に行くように誘導している者が居る事もな。
ま、とりあえず今は気にしないでおく事にした。
「ははは!ならほとんど専属みたいな形になるかもしれないですね‼」
「確かにそうですね!」
なんてくだらない事を話しながらしばらく冒険者ギルドや城壁の外なんかについても聞いてみた。
そしてこの街は『始まりの街・ファステス』と言って東西南北で城壁外の魔物の強さが違うらしく。
『北・初心者向け』『東・初心者を脱却した者向け』『南・中堅手前の者向け』『西・中堅者向け』と言ったような、少しふわっとした部分もあるけどギルドなどでは区分訳を行っているらしい。
おもに依頼のランク分けの時に使うだけらしいけどな。
「だとすると、最初は北に行った方がいいのか」
「その方が安全だとは思います。でも、どこも夜は魔物達が凶暴化するので出かけないようにしてください」
「へぇ~強くなるのか」
まだ戦闘は経験していないけが、どうせ戦うなら強い奴とひりつくような感覚を味わいたい。
そう思えば思うほどに自然と口角が上がってくるのがわかった。正直に気持ち悪いだろうから止めようとは思っているんだけど、心の奥から湧いてくる感情はどうしようもない。
すると受付の方から視線を感じた。
「………」
「うん?」
「絶対に夜に行こうとしていますよね?」
「…そんな事はないよ」
「なら、せめて目を見ていってくださいよ…」
盛大に呆れたようすのレイルは小さく息を吐くと何かを探すように受付の下を漁る。
経験上、相手が呆れている時は下手なことを言うと知っていたので大人しく黙って待つ事にした。
ほどなくして何かを見つけたレイルが顔を出した。
「止めても行くつもりのようなので、もうこれ以上は止めません。でも、せめて装備くらいは整えてください」
不機嫌そうにしながらレイルが受付に置いたのは簡単な地図だった。
そこには冒険に必要なアイテムを販売している店と、その店で買える必要なアイテムの名前が書いてあった。
「ここに書かれている店ならギルドとしても品質を保証できますから。ぜひ利用してください」
「なるほど、ありがとう。店の場所なんて知らなかったから、探す手間がはぶけたよ」
「別にいいですよ。いくら異邦人の方が蘇ると知ってはいますけど、すぐに知り合った方が死ぬのは気分が良くないですから」
そう言って逃げるように視線を逸らしたレイルの頬は少し赤くなっているのが見えたけど、気が付かなかったことにした。鈍感系の主人公みたいに気が付かないってことはないけど、気が付いても口に出していい事はないからな。
「買いに行ってみてくるよ」
「はい、どうかちゃんと準備してから行ってくださいね」
「わかってる」
なんだから会ったばかりののはずなのに不思議と仲良くなってしまっただけに少し名残惜しいが、いつまでも無駄話に明け暮れるわけにもいかないからな。
ひとまず冒険者ギルドの外に出ると変わらず人でごった返していて場所の確認が難しかった。
「仕方ない。来た時と同じ方法で行くか」
なんとか人の少ない場所まで移動して一気に建物の上に移る。
途中にギルドから追いかけてきていた者が人混みに飲み込まれたようだけど、気にする必要はないか。どうしても用があるなら勝手にまた寄ってくるだろうしな。
余計なことを考えるのは後回しにして貰った地図を見ながら方向を確認する。
「えっと、向かうのは…あっちか!」
ある程度の方角が分かると建物を飛び移りながら最短距離を移動する。
それこそ異世界ファンタジー小説なんかで出てくる街の噴水広場という感じの場所だった。
「すげぇ~」
こんな一言しか感想の出てこない自分を少し残念に思うけど正直な思いだった。
海外などにもあまり言ったことが無いだけに、ちょっとした旅行気分になっているのかもしれない。目に見える人々の中に獣耳の獣人、耳の長いエルフなどが居るから現実ではない事は一目瞭然だけどな。
と関係ない事を考えながら、周囲を見回していると何人もの者達が一直線に向かっている場所を見つけた。
それと同時に目の前に一つのメッセージが表示された。
【チュートリアルミッション:1『冒険者登録をしよう!』】
合わせてナビするように視界に矢印が現れてどこに行けばいいのかを案内してくれていた。
おかげで周囲の人達が迷いなく全員が一方向に向かって行けているわけが理解できた。
「これ見てみんな移動しているのか」
納得しながら俺も案内に従いながら進む。
道すがら周囲を見ていて気が付いたがNPCが本物の人間と差異が無く、話している内容も途切れ途切れに聞こえるが自然な日常会話が聞こえるだけだった。中には怒っている者も泣いている子供なんて言うのも見かけた。
システム的に識別機能をONにすると分かりやすくなるようだったけど、それはそれで味気なくて俺はOFFにしている。なので見える範囲の誰がプレイヤーなのかわかっていない。
今は全員が同じ方向に進んでいるからなんとなく把握できてはいるけどな。
「にしても初日だけあって人が多いな…」
しばらく進んでいるけれど人が多すぎる。
そのせいでしばらくすると動き難くなってきてしまった。
「少し強引に行くか…」
最初は大人しく人混みに付き合っていたが、さすがに無駄に時間が掛かりすぎている。
なので人混みから外れて通りの建物の屋根上を移動する。登り方は簡単で、昔のゲームなんかである壁を左右にはねながら登るやつだ。
練習すると意外とできるようになる。
したからなんかザワザワと騒がれているようだけど気にしないで先へと進む。
そうして真っすぐ進む事1~2分ほどでひときわ目立つ三階建ての巨大な建物があった。下の人混みは飲まれるように建物内に入って行くし、目の前の矢印も示しているから目的地で間違いないだろう。
下に降りると人に囲まれて面倒そうな事が一番の問題だが、下りる事が出来ないのなら別の方法で行くまでだ。
「さて……行くかっ‼」
気合を入れ助走をつけて建物目掛けて跳んだ。
距離にすると15mほどだったが着地点の人達がどいてくれていた事もあって普通に着地して建物内へ「おい!危ないだろ!」行こうと思っていたのに…
「なんですか?」
「こんな人混みに飛び込んできて危ないだろうが‼」
あからさまに怒っている目の前の男は無駄に派手な赤々しい髪を無駄にトゲトゲにしていた。身に付けているのは革鎧に木製の円形盾と片手剣が1本。典型的な初期装備って感じだ。
「話聞いてんのか⁉」
「話は聞いていた。でも、どうせ怪我するわけでもHPが減るわけでもないのに大袈裟な」
「あぁ゛⁉」
「まぁ…常識的に考えれば俺の行動が悪かったのは確かだな。申し訳なかった」
「急に普通に謝んのな⁉」
なんだかんだ言っても冷静に考えれば俺の行動がよくなかったから謝ったのだが怒鳴られてしまった。たまにある事だが俺はどうやらタイミングが良くないらしい。
今回も言われた内容的にタイミングをミスったのだろう。
だが俺が首をかしげると男は『もういいや…』とどこか呆れた様子で離れていった。
興味深そうに見ていた周囲もなにか困ったものを見るような目を向けた後、まるで避けるように俺から距離を取って中へと入って行った。
「よく分からないけど、まぁ~いいか」
あまり気にしすぎても誰かが説明してくれるわけでもないので考えるのを辞めた。
ついでに表の看板を確認すると『冒険者ギルド』と書かれていた。
中に入ると本当にファンタジー!っていう感じの美人の受付、依頼書の張られた掲示板と依頼を物色するNPCの冒険者達。脇の方には数十種の酒が並んだバーカウンターに渋い40代ほどに見えるマスターがグラスを磨いている。
そんな雰囲気抜群の場所で空気をぶち壊して騒いでいるのがプレイヤーっていうのが少し悲しくなるな。
「って、そんな事より登録しないと」
ここに来た目的を思い出したのはいいが同じ目的で集まっているプレイヤーで受付は混雑状態。
近くには依頼の紙を持ったNPCの冒険者が迷惑そうな表情を浮かべている。ちなみに識別方法は装備の質だ。
プレイヤーの装備は全員が初期装備の質素な服の上から革鎧と貧相に見える武具を持っているだけ、なにより全員がどこか馴染めていない。どこか浮足立っているのだ。
対してNPC達は違和感がない。
現実世界で日常を送る人々と同じで、そこに居るだけでも背景と同化しているかのように数㎜の違和感も感じる事がない。
完全に感覚での判断だから当たっているかは知らないけどな。
「お、一か所空いてるな」
くだらない事を考えながら受付を見ていると一か所だけ、この混雑状況で不自然なまでに空いていた。
たまに近寄る奴もいるみたいだけど近くの冒険者に話しかけられて慌てたように離れていく。口元を読んだ感じだと『お化け』『不気味』『噂』なんて単語が出てきていた。
気になって見続けていると空いてる受付の下の方から出てきたのは赤茶色の髪を腰ほどまで伸ばし、前髪も目元を完全に隠すほど伸ばした女性が出てきた。女性とわかったのは体つきがはっきりとわかるほど出るところは出て、引っ込むところは引っ込む。綺麗な体形をしていたからだ。
その女性らしい体形に周囲の男どもの視線は集まるが、顔を見た瞬間に不気味な長髪によって顔を顰める。
「…空いてるなら別に何でもいいか」
正直に言って今は時間が短縮できればいいので俺は相手の容姿なんて気にしない。
という事で、すぐに空いている受付へと向かう。途中で何か他の奴に忠告していたように声を掛けようとしてくる奴も居たが、時間のロスにしか感じなかったので全力でスルーした。
「ここって登録できますか?」
「え?」
声を掛けると自分の所に人が来ると思っていなかったのかキョトン?とした反応が返ってきた。その時に顔を正面から見て目は隠れてて見えないけど、全体的に顔も整っているように思えた。
もっとも大して興味はないけどな。
「あ、えっと…はい、ここでも冒険者登録できます」
「なら登録手続き頼みます」
「承りました。では、こちらを読んでサインをお願いします」
出された紙には『冒険者登録申請書』とファンタジー感少し壊すレベルで役所の提出書類のような内容が書かれていた。でも、書かれている内容は簡潔で分かりやすく1分も掛からずに読めるようになっていた。
そして全体を読み終わったのでサインして提出する。
「これでいいか?」
「問題ないです。こちらが冒険者証になります」
そう言って渡されたのは銅で出来たドッグタグのような物で表面にはFと彫り込まれている。
「このFってランク制度があるのか?」
「はい、こちらに簡単な…本当に簡単な内容ですけど説明が書いてあります」
何度も念を押すように『簡単』って言いながら渡された紙を見ると…あの念の押しようにも納得した。
なにせ紙には…
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【冒険者ギルドのルールブック】
・1:ギルド組員はF・E・D・C・B・A・S・SS・SSSの九つのランクによって分けられる。初めて登録した者は一番下のFランクから始める。このランク制度は依頼にも存在し、依頼を受ける場合は自身のランクと同じか1つ上のランクの物のみ受けることができる。
・2:パーティーを組んだ場合はパーティーの内で一番人数の多いランクの依頼まで受ける事が出来るようになる。
・3:ギルド組員同士の問題に一切ギルドは関知しない。
・4:ギルドに所属する者が犯罪行為に及んだ時、その犯罪の内容により資格の停止・凍結するものである。更にその内容があまりにも悪質だと判断された場合、資格剥奪の上で衛兵の元へと連行されるものである。
・5:以上の内容に納得できぬ者は自主的に辞めろ!
――――――――――――――――――――――――――――――――
「…確かに簡単だな。これ内容を考えたの誰だよ…」
読んだ後に思わず素直な感想が漏れてしまった。
あそこまで念を押されたけどここまで完結で、最後に至っては完全に個人の感情が丸出しの文章だ。これを一組織の公的な配布物として採用しているって凄すぎるだろ。
と言う気持ちが抑えられずに出てしまった独り言だったけど、受付嬢には聞こえていたようでそこか困ったような声音で答えてくれた。
「一応…ギルドマスターが…」
「……苦労するな」
「は、はは…」
思わず感想を漏らすと受付嬢は困ったように苦笑する。
そこでいまだに自分が自己紹介すらしていないことを思い出した。また関わることがあるかは分からないが人付き合いの基本として一番大事なことだ。
「今更だけど、俺はナギ。これから何かと世話になると思う」
「あ、私はレイルです。基本的には受付をしていますので、いつでもいらしたときはお声がけください」
「あぁ、来た時に空いてたらお世話になるよ」
「それなら毎回になりそうですね。私の場所は何故か人来ないので…」
すごく落ち込んだような様子で話すレイルの姿を見て、どうやら自分の見た目が不気味になっている事などに気が付いていないようだ。特に近寄ってきた冒険者を別の受付に行くように誘導している者が居る事もな。
ま、とりあえず今は気にしないでおく事にした。
「ははは!ならほとんど専属みたいな形になるかもしれないですね‼」
「確かにそうですね!」
なんてくだらない事を話しながらしばらく冒険者ギルドや城壁の外なんかについても聞いてみた。
そしてこの街は『始まりの街・ファステス』と言って東西南北で城壁外の魔物の強さが違うらしく。
『北・初心者向け』『東・初心者を脱却した者向け』『南・中堅手前の者向け』『西・中堅者向け』と言ったような、少しふわっとした部分もあるけどギルドなどでは区分訳を行っているらしい。
おもに依頼のランク分けの時に使うだけらしいけどな。
「だとすると、最初は北に行った方がいいのか」
「その方が安全だとは思います。でも、どこも夜は魔物達が凶暴化するので出かけないようにしてください」
「へぇ~強くなるのか」
まだ戦闘は経験していないけが、どうせ戦うなら強い奴とひりつくような感覚を味わいたい。
そう思えば思うほどに自然と口角が上がってくるのがわかった。正直に気持ち悪いだろうから止めようとは思っているんだけど、心の奥から湧いてくる感情はどうしようもない。
すると受付の方から視線を感じた。
「………」
「うん?」
「絶対に夜に行こうとしていますよね?」
「…そんな事はないよ」
「なら、せめて目を見ていってくださいよ…」
盛大に呆れたようすのレイルは小さく息を吐くと何かを探すように受付の下を漁る。
経験上、相手が呆れている時は下手なことを言うと知っていたので大人しく黙って待つ事にした。
ほどなくして何かを見つけたレイルが顔を出した。
「止めても行くつもりのようなので、もうこれ以上は止めません。でも、せめて装備くらいは整えてください」
不機嫌そうにしながらレイルが受付に置いたのは簡単な地図だった。
そこには冒険に必要なアイテムを販売している店と、その店で買える必要なアイテムの名前が書いてあった。
「ここに書かれている店ならギルドとしても品質を保証できますから。ぜひ利用してください」
「なるほど、ありがとう。店の場所なんて知らなかったから、探す手間がはぶけたよ」
「別にいいですよ。いくら異邦人の方が蘇ると知ってはいますけど、すぐに知り合った方が死ぬのは気分が良くないですから」
そう言って逃げるように視線を逸らしたレイルの頬は少し赤くなっているのが見えたけど、気が付かなかったことにした。鈍感系の主人公みたいに気が付かないってことはないけど、気が付いても口に出していい事はないからな。
「買いに行ってみてくるよ」
「はい、どうかちゃんと準備してから行ってくださいね」
「わかってる」
なんだから会ったばかりののはずなのに不思議と仲良くなってしまっただけに少し名残惜しいが、いつまでも無駄話に明け暮れるわけにもいかないからな。
ひとまず冒険者ギルドの外に出ると変わらず人でごった返していて場所の確認が難しかった。
「仕方ない。来た時と同じ方法で行くか」
なんとか人の少ない場所まで移動して一気に建物の上に移る。
途中にギルドから追いかけてきていた者が人混みに飲み込まれたようだけど、気にする必要はないか。どうしても用があるなら勝手にまた寄ってくるだろうしな。
余計なことを考えるのは後回しにして貰った地図を見ながら方向を確認する。
「えっと、向かうのは…あっちか!」
ある程度の方角が分かると建物を飛び移りながら最短距離を移動する。
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