上 下
71 / 81

71

しおりを挟む



良く晴れた休日。
王都の大通りは今日も人が溢れ、彼方此方から呼び込みの声が聞こえる。その声に釣られて店先から店内を覗き込めば、試食だよと果物を一切れ差し出された。それを有難く手にして口に放り込むと瑞々しい果汁が溢れてくる。
帰り際に買うと約束して店を後にし、ぶらぶらと大通りを見て歩いていた。


「シン、何処か寄りたいところはないか?」


俺の腰に腕を回して隣を歩くギルは終始爽やかな笑顔を浮かべて通り過ぎる人々の目を惹き付けていた。反対側の俺の隣には、手を繋いだレイドの姿が。笑顔は浮かべていないが、その表情はとても穏やかでギルと同じように道行く人々を魅了している。



先日の仕事中のギルの奇行の後。彼の私室でデートについてレイドも交えて話した結果、初めの内は1人ずつ順番にデートするという話で纏まりつつあった。が、やっぱり俺は2人と一緒に行きたくて必殺・キャラじゃないけど上目遣いを発動させてもらった。
結果、3人でのデートに決まったのだ。



正直、デートなんてものをしなくても3人で過ごせるだけで満足だったのだが、いざ出掛けてみるとやはり楽しい。
そこまで娯楽が多いわけではないこの世界では、服飾品を見て回り食事をしてデートというものは終わる。時折イベントなどが開催され、それを観たりするのもあるらしい。
劇や歌など芸術的センスのかけらも無い俺が観てもさっぱりなので、こうして様々な店を見て回りあーでもないこーでもないと話したり笑い合ったりする方がいい。


「…疲れていないか?」


俺の手を握るレイドが僅かに距離を縮めて問うてくる。俺は緩く頭を左右に振って軽く笑いかけた。


「大丈夫。レイドは?疲れてねぇ?」


俺の問い掛けに目元を和らげて頷くだけに止めたレイド。すると、俺の腰を抱いていた腕に僅かに力が込められ次いで髪に触れられる何か。


「俺には聞いてくれないのか?」


頭上から尋ねられると声を発した本人を軽く見上げて答えの分かりきった質問をする。


「全く…。ギルは疲れてねぇ?」


尋ねられた本人は、殊更嬉しそうに笑みを浮かべて大丈夫だと返事を返した。


暫くの間は大通りの出店や店舗を覗いていた。
ギルやレイドが服や装飾品を俺に買おうとするので、断るのに大変な労力を要する。
立派な服を買っても着る機会はないし、装飾品を貰っても仕事柄身に付けられるとは思えない。
あれこれと買い与えようとする2人に断りを入れると、物欲が無いなと呆れられてしまった。


「物を買って貰うよりも、こうやって一緒にいる時間の方が俺には大切なの」


反論するように2人の顔を交互に見つめながら言ったら、物凄く嬉しそうに笑顔を浮かべて大通りだというのに2人から熱い抱擁をプレゼントされた。
熱い抱擁で厚い胸板に押し潰され蛙が潰れた声を出してしまったのは何時もの事である。

デートというよりはただ街をぶらぶらと練り歩くだけのようなものだったが、それでも3人で過ごせるのは楽しくあっと言う間に時間が過ぎる。
夕食は宿舎に戻って食べたいという俺のリクエストを快諾してくれた2人と、買うと約束した果物を買って宿舎へ戻る。


「こうやって過ごすのも良いもんだな。またデートしようか」


「次は順番にデートしよう」


「独り占めも…したい」


まだ言ってたか。

2人の言葉に笑いつつ頷く。
確かに、3人で過ごすのも良いがそれぞれとゆっくり過ごすのも良い。
俺は2人に約束をする。

何かしたわけじゃないけど、楽しかった。

満足げに笑顔を浮かべた俺を見て、2人もまた嬉しそうな笑顔を浮かべた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

もふもふ獣人転生

  *  
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 ちっちゃなもふもふ獣人と、騎士見習の少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。

【完結・R18】28歳の俺は異世界で保育士の仕事引き受けましたが、何やらおかしな事になりそうです。

カヨワイさつき
BL
憧れの職業(保育士)の資格を取得し、目指すは認可の保育園での保育士!!現実は厳しく、居酒屋のバイトのツテで、念願の保育士になれたのだった。 無認可の24時間保育施設で夜勤担当の俺、朝の引き継ぎを終え帰宅途中に揉め事に巻き込まれ死亡?! 泣いてる赤ちゃんの声に目覚めると、なぜか馬車の中?!アレ、ここどこ?まさか異世界? その赤ちゃんをあやしていると、キレイなお母さんに褒められ、目的地まで雇いたいと言われたので、即オッケーしたのだが……馬車が、ガケから落ちてしまった…?!これってまた、絶対絶命? 俺のピンチを救ってくれたのは……。 無自覚、不器用なイケメン総帥と平凡な俺との約束。流されやすい主人公の恋の行方は、ハッピーなのか?! 自作の"ショウドウ⁈異世界にさらわれちゃったよー!お兄さんは静かに眠りたい。"のカズミ編。 予告なしに、無意識、イチャラブ入ります。 第二章完結。

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

やめて抱っこしないで!過保護なメンズに囲まれる!?〜異世界転生した俺は死にそうな最弱プリンスだけど最強冒険者〜

ゆきぶた
BL
異世界転生したからハーレムだ!と、思ったら男のハーレムが出来上がるBLです。主人公総受ですがエロなしのギャグ寄りです。 短編用に登場人物紹介を追加します。 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎ あらすじ 前世を思い出した第5王子のイルレイン(通称イル)はある日、謎の呪いで倒れてしまう。 20歳までに死ぬと言われたイルは禁呪に手を出し、呪いを解く素材を集めるため、セイと名乗り冒険者になる。 そして気がつけば、最強の冒険者の一人になっていた。 普段は病弱ながらも執事(スライム)に甘やかされ、冒険者として仲間達に甘やかされ、たまに兄達にも甘やかされる。 そして思ったハーレムとは違うハーレムを作りつつも、最強冒険者なのにいつも抱っこされてしまうイルは、自分の呪いを解くことが出来るのか?? ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎ お相手は人外(人型スライム)、冒険者(鍛冶屋)、錬金術師、兄王子達など。なにより皆、過保護です。 前半はギャグ多め、後半は恋愛思考が始まりラストはシリアスになります。 文章能力が低いので読みにくかったらすみません。 ※一瞬でもhotランキング10位まで行けたのは皆様のおかげでございます。お気に入り1000嬉しいです。ありがとうございました! 本編は完結しましたが、暫く不定期ですがオマケを更新します!

【完結】悪役に転生した俺、推しに愛を伝えたら(体を)溺愛されるようになりました。

神代シン
BL
主人公の青山朶(あおやまえだ)は就活に失敗しニート生活を送っていた。そんな中唯一の娯楽は3ヵ月前に購入したBL異世界ゲームをすること。何回プレイしても物語序盤に推しキャラ・レイが敵の悪役キャラソウルに殺される。なので、レイが生きている場面を何度も何度も腐るようにプレイしていた。突然の事故で死に至った俺は大好きなレイがいる異世界にソウルとして転生してしまう。ソウルになり決意したことは、レイが幸せになってほしいということだったが、物語が進むにつれ、優しい、天使みたいなレイが人の性器を足で弄ぶ高慢無垢な国王だということを知る。次第に、ソウルがレイを殺すように何者かに仕向けられていたことを知り、許せない朶はとある行動を起こしていく。 ※表紙絵はミカスケ様よりお借りしました。

僕がサポーターになった理由

弥生 桜香
BL
この世界には能力というものが存在する 生きている人全員に何らかの力がある 「光」「闇」「火」「水」「地」「木」「風」「雷」「氷」などの能力(ちから) でも、そんな能力にあふれる世界なのに僕ーー空野紫織(そらの しおり)は無属性だった だけど、僕には支えがあった そして、その支えによって、僕は彼を支えるサポーターを目指す 僕は弱い 弱いからこそ、ある力だけを駆使して僕は彼を支えたい だから、頑張ろうと思う…… って、えっ?何でこんな事になる訳???? ちょっと、どういう事っ! 嘘だろうっ! 幕開けは高校生入学か幼き頃か それとも前世か 僕自身も知らない、思いもよらない物語が始まった

耐性MAXだから王子の催眠魔法に掛かれない!?

R-13
BL
騎士として実力が認められて王子の護衛になれた俺は、初の護衛任務で張り切っていた。しかし王子は急に、護衛の俺に対して催眠魔法を放ってきて。 「残念だね。これで君は僕のモノ、だよ?」 しかし昔ダンジョンで何度も無駄に催眠魔法に掛かっていた俺は、催眠耐性がMAXになっていて!? 「さーて、どうしよう?ふふぅ!どうしちゃおっかなぁ?」 マジでどうしよう。これって掛かってませんって言って良いやつ? 「んふ、変態さんだぁ?大っきくして、なに期待してんの?護衛対象の王子に、なにして欲しいの?うふふ」 いやもう解放してください!てかせめてちゃんと魔法掛けてください! ゴリゴリのBL18禁展開で、がっつり淫語だらけの内容です。最後はハッピーエンドです。

処理中です...