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30  ※※R18(暴力表現有り)※※

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月が中天を過ぎた深夜。鬱蒼とした森にはその淡い光は届かない。森の木々が少しでも光を吸収しようとこれでもかとその枝葉を空へ向かって広げているからだ。
そんな森の中で、魔法の光が辺りを照らす場所があった。
ゴツゴツとした大小様々な大きさの石が転がるその場所は、雨が降ると途端に小さな泉が出来る言わば窪地だ。


「ぐ…ぅ……っ…」


そんな場所で聞こえてくる、抵抗混じりのくぐもった悲鳴。
目の前で繰り広げられる光景に、無意識に顔を顰めてしまう。

創造魔法で作り出した、俺とそっくりのゴーレムを、第一騎士団のクズ連中が囲んで襲っていた。

その光景を、少し離れた場所で見ている俺とギル。
気配遮断の能力を使っているので派手に動かなければそうそう気付かれる事は無い。


殿下の立てた作戦通りに事は運んでいる。だが…偽物とはいえ、自分が襲われている場面を見せ付けられるのは想像以上にキツい。


第一騎士団のクズ連中は、何故俺があの場所で1人でいるのか微塵も疑問に感じた素振りも見せず、手始めに初級の攻撃魔法でゴーレムである俺を背後から攻撃した。
死なない程度の威力で何度も何度も魔法を打ち込み、倒れ込んで動けなくなった所を今度は殴る蹴るの暴行を加えた。
ゴーレムの俺の背中は魔法攻撃により焼け爛れ、腕や足も有り得ない方向に曲がっているのが見て取れる。顔も異常に腫れ上がり、最早俺だと分からない程だった。
ヒューヒューという呼吸音が異常なまでの大音量で聞こえる気がする。
既に虫の息と言ってもいい状態にも関わらず、更に犯すという。

ぞわり、と背筋を這い上がる気持ちの悪い感覚。
吐き気と、嫌悪と、言いようのない怒りを覚えてベルトに差した刀の鞘を掴み親指でその鍔を押し上げそうになる。が、鞘を強く握り締めて今にも斬りかかりそうになる気持ちを堪える。


「………ギル…」


隣で様子を窺っていたギルにそっと声をかけた。早くこの惨状を終わらせたくて目を向けると、そこには辛うじて殺気を抑えているが、目には明らかな憎悪を孕むギルの姿が。その視線のままに目の前の光景を見据えながら俺の言いたい事を察したらしいギルが頷いたのをしっかりと確認し、俺は作っていた創造魔法を発動する。


「拘束」


暴行を加え続けていたクズ共の動きがビシッと固まり、縄で縛られたかのように手足がそれぞれ一纏めにされていく。バランスを崩して倒れ込むクズ共を無視して繁みから身を表すと、ウジ虫のように転がるそれらを踏み付けつつ中心部へ歩いて行く。
周りでぎゃあぎゃあと叫ぶ声は沈黙の魔法を使って黙らせた。

そこにはぐったりと横たわるゴーレムの姿があった。血反吐を吐き、指が何本かちぎれかけている。腕や足も折られてひしゃげていた。顔も原形をとどめて折らず、歯も数本抜けて散らばっている。服もビリビリに破け、靴の後がくっきりと付いた肌は至る所が痣だらけで、斬られている所もあった。


「ごめんな…痛かったよな…。ありがとう」


俺は傍に跪き、その髪を撫でる。ゆっくりゆっくり、丁寧に。魔法で作り出したゴーレムでも、身代わりとしてここまで酷い仕打ちを受けたのだ。労り、感謝し、早く楽にしてやりたかった。
ゴーレムの魔法を解く。
途端にドロリと溶け崩れ、土塊に戻った男の身体を前に、拘束されたクズ連中は目に見えて動揺していた。
そんな連中を殺気を込めた瞳で一人一人見つめる。
顔が青ざめて怯えるが、そんな事どうでもいい。

いくら魔法で出来た土人形とは言え、無抵抗の者をあそこまで痛め付けるなど…。
痛め付けるのが快感なのか、暴行を加えていた最中に楽しげに下卑た笑いを上げ、股間を膨らませている者もいた。
俺の姿だから、とかではない。騎士として…それ以前に人としての行為ではない。

拘束したからには手出しするつもりはないが、この胸くその悪い気持ちの落としどころが見付からない。
このまま全員亡き者にしてやろうと考えてしまう。
四肢を切断し、舌を引き抜き、目をくり抜いて耳を削ぎ落とし……。
そこまで考えてしまって、ハッとした。
……これではクズと一緒だ。一緒になってしまう…。

ゆっくりと深い呼吸を何度か繰り返して、魔法を封じようと口を開きかけた時。


「結界」


自分とは違う声が響き、拘束したクズ共の周りに結界が張られた。
殿下の声だ。
張られた結界も前回見たものとは違った性質のものらしい。
殿下すげぇな。

後は任せようと繁みから姿を現した殿下とカインくんに場所を譲って俺はその場を離れた。




反撃を…なんて考えていた自分に嫌気が差し、クズ共と同じような行動を起こしそうになった自分に嫌悪した。
もっと早くに拘束しておけば良かったと後悔しては、あれ以上の惨状を見ずに済んで安堵する。

感情がごちゃごちゃしている。
言いようのない苛立ちと怒りが収まらず、何かに当たることも出来ず。
深い溜息を吐き出して俯き、吐き出せない感情を押し込めようとする。

ふと、優しい暖かさが髪を撫でる感覚で顔を上げた。
そこには俺を撫でてくれるギルの姿があった。
あんなに怒気を孕んでいたギルの目には今やその影すらなく、あるのは大丈夫だと言わんばかりの優しい眼差しだけ。
その眼差しで見つめられ、何だか安心してしまって苛立ちや怒りはまだあるが、きちんと落としどころを見付けよう、と前向きになれた気がした。
もう一度、深く息を吐き出す。肩の力を抜いてギルにもたれ掛かった。


「ぐぇ……っ」


そうしたらいつものように力強く抱き締められ、俺はやっぱり蛙が潰れたような声を出してちょっと笑ってしまった。

うん、元気出た。
ありがと、ギル。


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