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しおりを挟む騎士団の、ちょっとそれどうなの的な証拠集めは成功したようで、誘拐した奴らに指示した内容が書かれた羊皮紙が見付かった。
どうやらロレンスくんは何事にも控えを書き写す性格のようで、俺の鑑定結果の写しもあった。能力欄の鑑定(Max)部分と、備考欄の神に~の部分にペンか何かを何度も突き刺した後があった。
その物的証拠と俺が鑑定したカロンくんの鑑定結果を手にギルとヒースが王城へ向かっている。
俺は当事者だが、見付かった証拠の状態を見たヒースママンが心配して宿舎待機になった。
今俺は、自室で本の暗記中。レイドが護衛に付いてる。
攫われてから今日まで、本格的に身体を動かしていなかった為訓練でもしてようかと思ったが、ロレンスくん捕縛まで何が起きるか分からないから大人しくしてろと言われ仕方なく本を手にしている。
と言っても読んでいる訳ではなく、魔法で暗記中だ。まだまだこの世界での常識を知らない為の行為です。決して暇だったとかではない。
ギルとヒースに任せっきりで鬱憤が溜まってるなんて事ではない。
………殴るくらいはしても罰は当たらないと思うんだ。
俺は暗記を終えた何冊目かの本をベッド脇に積み上げ、扉近くで微動だにせず立っているレイドを見る。護衛としているのは分かるが、じっと見られているのは居心地が悪い。
「護衛なのは分かるけどさ、座ったら?」
椅子を指し示してみる。
あれ、俺このやり取り前にも2回位してる。騎士団の人って椅子嫌いなの?
「任務中だ」
思った通りの反応に笑みが零れる。レイドは真面目だからなぁ。
「部屋から出るつもりはないし、副団長自ら護衛してくれてんだから大丈夫だって」
座っていた椅子から立ち上がって反対側の椅子を引いて座るように促すと、観念してくれたのか大人しく座った。
立ってるか座ってるかの違いだけでレイドが微動だにせずじっと見てる事実は変わらないが、長身のイケメンが微動だにせず立っているよりは大分圧迫感が減った。
「ギル達、後どんくらいで戻ると思う?」
本を1冊手に取りパラリと捲りながら目の前に座るレイドに尋ねる。正確な時間など分からないが、物理的に逃げ道を塞いだ上で更に証拠も揃えて捕縛に向かっているのだ。王や、上層部にも話を通してあるし各騎士団長にも伝えている。そうそう、時間のかかるものではない。
「昼前に終わる予定だ」
やっぱりそうだよな。
大変楽しそうな様子で朝食をしっかり食べ、気合十分で向かったギル達だ。2時間程度で戻ってくるだろうと予測出来る。
俺は暇つぶし……もとい、常識勉強に没頭する。その間、何やらもの言いたげな視線を目の前から受けていたようだが気付きはしなかった。
暗記した本の中に衝撃的な内容のものがあったから。
思わず暗記したばかりの本を開いて内容を確認していると、扉がノックされた。
「団長達が戻りました。本部までお越し下さい」
仕事モードの知り合いの団員の声で本から目を上げレイドと共に部屋を出る。そのまま本部の、取り調べを行う部屋へ直行した。
ーーーーーーーーーー
「待っていたよ!シンイチロウ!」
扉を開けて投げ掛けられた声に反射的にお待たせ!と返しそうになって、ぐっと堪える。
今、シンイチロウって言った?
部屋の中を見渡すと、ギルとヒース、仲良くなった同僚騎士1名と知らないおっさん1人に、俺を鑑定したロレンス。それから今着いたばかりのレイドと俺。
騎士団メンバーは俺の事を普段、シンと呼んでくれる。こちらの人達には言いにくいって言うのもあるが、仲間となった俺を親しみを込めて呼んでくれるのだ。
見知らぬおっさんの事は、事前に取り調べに同席する上層部の1人で、全騎士団が所属する軍部の偉い人だと伝えられていた。騎士団が捕縛した相手に不当な扱いをしないか見張るため、更には魔道具を使っての記録係でもあるらしいので余計な口出しはしないという。
ならば、と俺は縛られて座らされているロレンスを見た。
つい半月程前に会った時と変わらない様子だった。室内職特有の日に焼けてない白い肌と、多忙さを表すような目の下の隈。真面目で誠実そうな見た目。ただ、その瞳はギラギラと血走っていて何か危機感を感じる。
「シンイチロウ!ギルフォード団長に私は無実だと証明してくれ!私はシンイチロウを助けるためにしただけなんだと!愛するシンイチロウを助けられるのは恋人である私だけだ!さぁ!早く私のところに来るんだ!そんな男達の近くにいたら孕まされてしまう!私と2人で逃げよう!」
……………えぇっと…?
「ずっとこの調子なんですよ。話が全く通じなくてですね…」
訳が分からずにいると、同じように混乱した様子のヒースが隣に並びつつ話しかけてくる。
この数時間でどっと疲れたと言わんばかりの様相である。
ここはどうやら俺が話さないと駄目なようだ。
面倒くせぇな…とか思っている場合ではない。
深い溜息を吐き出して縛られて椅子に座るロレンスの正面に立つ。俺の両側にヒースとレイドが陣取ってくれた。
ギルは記録係のおっさんと並んで一歩離れた場所にいる。顔見知りの同僚はロレンスの近くに立って監視していた。
「えぇっと……ロレンス・グリューさん。俺を助ける、とはどういう事でしょう?」
「いつものようにロレンスと呼んでくれ!助けるは、助けるだ!騎士団がシンイチロウを監禁しているのは分かっている!だから恋人である私が助けなくては!」
「その、恋人というのは…?」
「恋人は恋人だろう!まさか、記憶でも消されたのか?!」
「いや、消されてませんし。いつから恋人でしたっけ?」
「そんなの、初めて会ったあの日からに決まっているだろう?!君は必死に助け出してくれと訴えてきたじゃないか!愛しているのは私だけだと!!」
「初めて…って、鑑定してもらった時ですよね?よろしくお願いしますと言いはしましたが、そもそも会話すらしてませんよね?会ったのもその1度きりですし、何かで連絡を取り合うなんて事もしてませんよね?」
「だが私を見つめる目がそう言っていた!シンイチロウ、どうしたんだ?!騎士団の連中に脅されているのか?!」
「いや、脅されてません。じゃあ、俺を助け出す為に攫わせたんですか?」
「当たり前だ!本当は私が出向きたかったが私は優秀すぎて周囲の者達が離してくれなくてな。だから部下に君を連れてくるように命じた!」
「そうですか。媚薬はなぜ飲ませたんですか?」
「一刻も早く私と愛し合う為だ!処女である君を気持ち良くさせる為だ!さぁ、早く私と逃げよう!ここにいたらシンイチロウの美しさに我慢できなくなったゲス共に犯されてしまう!危ないんだ!!シンイチロウ!!」
ガタガタと椅子を鳴らして近付こうとする身体を同僚の騎士が必死に押さえ付けている。
目は血走り、白かった顔を真っ赤に興奮させ、おまけに股間も元気に膨らませて……。
あ、危ないのはお前だーーーーーっ!!!!
え、なにこいつ?!どんだけ想像力豊かなの?!
これが世に言うストーカーって奴なの??!!
怖っ!キモッ!もうやだ!帰るぅ…!
若干涙目になりつつジリジリと後退した俺を見て、レイドがその背に庇うように前に出た。
ヒースは俺の肩に手を添えて慰めてくれている。
ギルは……殺気が半端ない。
記録係のおっさんは呆気に取られた様子で俺とロレンスのやり取りを見ていた。
一発ぶん殴ろうかと思っていたが、ロレンスの話を聞いていてその気力も失せた。
それこそ殴ったらとんでもない勘違いを成長させそうだ。
離せだの、愛してるだの、ぎゃあぎゃあ騒ぐロレンスを視界に入れるのも億劫で、俺を慰めてくれているヒースに部屋に戻る旨を伝えてレイドに護衛されつつ部屋に戻った。
ギル達に任せる形になってしまったのは申し訳ないが、あの場所に留まっていたら正当な取り調べが出来なくなるほどボコボコにしそうだった。
とんでもない勘違いに、とんでもない妄想。
一目惚れだのなんだの、それ自体は否定はしないが、あまりにも自分勝手に脳内で事を大きくし過ぎだ。
しかもそれを人に押し付け、怪我人や最悪、死人が出るような事態に発展させた。
俺自身の不注意で攫われたとは言え、あまりにも理不尽。
目と目が合うだけで恋人になるなら、そこら中恋人だらけじゃ!!変態野郎ぉおおお!!!
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