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しおりを挟む翌る日の午後。
俺の首から漸く魔道具が外された。
どうやら捕らえた者達の中に外せる者がいたようで、そいつの魔力を魔石に込めたものをヒースが持ってきた。その魔石を首の魔道具に近付けた途端、カシャンと軽い音を立ててあっさりと外れた。
外れた魔道具を持ち上げてみれば驚くほど軽い。金属で出来たチョーカーに、楕円形の赤い魔石がはめ込まれたそれは、自分を使い物にならなくした原因の1つ。
「これ、ぶっ壊していい?」
ヒースに伺いをたててみたところ、駄目だと返ってきた。
残念。
とある黒幕さんにお返しするそうだ。とてもいい笑顔でそう言ったヒースに、手にしていた魔道具を喜んで渡した。決して、笑顔が怖かったから急いで渡した訳じゃない。決して。
魔道具から解放された俺は、早速回復魔法を自分に使った。手足を縛られていた時に擦って出来た傷は地味に痛い。それから諸々の事情で鈍痛を訴えていた下半身にも。
……おかしい…痛みは無くなったのに……まだなんか入ってる感じが…。
うん、気のせい!!
「さて。お仕事しますか」
回復魔法がきちんと効いてくれてよかった。俺は何の苦も無くベッドから立ち上がる。違和感があるが、これは気のせいだと現実逃避しつつヒースに案内を頼む。本当は今日も休めと言われていた。
が、昨日は仕方ないとしても、今日は休むつもりはなかった。回復魔法も使って身体は癒えたし、魔力無限のお陰でなんの支障もない。
それに、早く黒幕さんに魔道具をお返ししないとな。
案内されたのは、騎士団本部の地下にある牢屋だった。ここには、先日俺を攫った者達がいる。
どうやら全員金で雇われただけの集団だったようで、俺の姿を見た途端に仲間を売り始めた。
こいつが悪い。
金で雇われただけだ。
俺は止めようと言った。
許してくれ。
あいつが実行犯だ。
薬を飲ませたのはこいつだ。
魔道具を填めたのはあいつだ。
助けてくれ。
「うるせぇ…黙れ」
んん?あんだけ喚いてたのにピタリと静かになった。
「へぇ…そんな魔法も使えるのですね」
ヒースの言葉に無意識で魔法を使っていたらしい。
創造魔法すごくね?
こりゃ下手に使えんわ。とんでもねぇ魔法創りそう。
そんなやり取りをしていた間も、俺は喚き散らしていた連中の声を思い出しその中に目的の人物を見付けていた。
そう、あの言葉を言った奴。
神に殺されたのが運の尽きだったな。
1人1人の顔を殺気を込めた瞳で見つめる。じっくり、ゆっくりと。
怯えて目を逸らし震える者が続出する中、そいつは俺を睨み返してきた。
薬を飲ませたのはこいつだ、って言った奴。だって俺に薬を飲ませた事を知ってるのは2人しかいない。事前に指示されてるなら、飲ませた事実さえあれば誰が飲ませたかなんていちいち報告しないもんな。
俺はそいつを指差して心の中で魔法を解く。
「お前、助けてやってもいいぞ。名前は?」
俺の言葉に指を差された奴は目を見開いた。そして何かを考えているようで黙り込む。
「金で雇われただけの人達なんだろ?俺は暴力を振るわれたわけでもないし、傷だって自分で暴れて付けただけだ。薬だって指示されただけだろ?反省してくれるなら、助けてもいいと思ってる。けど、誘拐は事実だから恩情で1人だけ。被害者である俺がその1人を決めていいんだってさ。だからあんたにする。名前は?」
勿論、嘘だ。誰1人であろうと許す気はない。脅されていたならともかく、金で犯罪に手を出すなら他にも色々余罪はあるだろう。
思惑を悟られないように比較的普段通りに話す。ヒースもやれやれと肩を竦めていた。これも、芝居だ。
ヒースの万能さに脱帽するわ。
ちなみに、ギルとレイドはここにはいない。あの2人に演技は無理だろう。
「………カロン・ダンストン」
はい、ビンゴォ。
あいつが例の発言をした奴。俺は早速鑑定した。
「カロンね。じゃ、色々手続きあるし他の人達に恨み買わないように別な牢屋に入っててもらうから」
名前 カロン・ダンストン
:
:
:
備考 強盗、窃盗、詐欺、殺人等様々な悪事に手を染めている。技術者、ロレンス・グリューの腹心の部下。ロレンスの為に様々な裏工作を行うこともしばしば。
「他の人達もあんまり暴れないようにな。口添えくらいはしておくから」
会話をしつつ鑑定した内容を覚えていく。ヒースに目配せして確信した旨を伝えると、全員の魔法を解いてあたかも脳天気でお人好しな人物を装い牢屋を後にした。
ヒースは残ってカロンをすぐ隣の独房に移す。それから俺の後を追ってきた。
「後で羊皮紙に書き起こせますか?」
「余裕」
ニヤリとお互いに笑い合い、団長室へ向かった。
団長室に着くと、早速羊皮紙に鑑定結果を書き起こす。
俺の鑑定は、鑑定された本人が隠したい部分を見せる効果があるらしく、ギルとレイドを鑑定した時の備考欄の最後の文面もそうだったようだ。
おかしいと思ったんだよな…。
確認するために2人を鑑定したから間違いない。
ちなみに、ヒースも鑑定して結果を確認するために本人に見せたら………オカン属性が付いてた。やっぱりヒースは俺のお母様で決定だな。その他諸々恐ろしい結果だったが、煌めくような素敵な笑顔で内緒ですよと言われた。
死んでも話しません。鑑定してごめんなさい。
そんなこんなで物的証拠と状況証拠を集める。
俺を鑑定したロレンスは、とても忙しい身だ。1年を通して自宅に帰宅するのは片手で数える程しかない。そんなロレンスが俺を鑑定した数日後に2日ほど帰宅したらしい。物的証拠やら何やらがあるのは確実にその自宅。仮に証拠が無くても俺の証言や鑑定結果を突きつければいい。後はカロンくんにもちょっと強引にご協力いただく。
自宅への証拠集めは静かに行うそうだ。所謂不法侵入。
騎士団としてどうなの、それ。
まぁ……犯罪者なのは確定しているので大丈夫なんだろうけど…ほら、ねぇ?
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