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70、順調に貞操の危機
しおりを挟むベッドに寝転がってそのまま朝までぐっすりコースだった俺は、何となく怠さが残る身体を無理矢理引き摺って学園に向かいました。
が、やっぱり無理をしてしまったのか体調が悪くなり保健委員の癒し系加藤くんに保健室へ連れて行かれました。
保健室の先生に俺を引き渡し心配そうにしながら戻っていく加藤くんを見送ると、今度は保健室の先生にベッドへ連行されました。
熱は無いようですが顔色がすこぶる悪いとの事で、大人しく寝ているように厳命されてしまいました。
寝かされたベッドのフカフカさに呆気なく陥落した俺は、大人しく目を閉じるとものの数秒で夢の中へと旅立ってしまってました。
途中、誰かが来たようですが俺はまだベッドから離れたくありません。
髪を優しく撫でられ何か柔らかいものが唇に触れ、次いでゴソゴソとお布団の中に何かが侵入してきます。
「……んー…?」
何かが変だと重い瞼を無理矢理開けると、目の前にまたもやイケメンのドアップがあります。デジャブというやつです。
昨日は翔先輩のドアップでしたが、今日は雅先輩のドアップです。
「雅…先輩…?」
いつの間にかお布団に入り込み腕枕をしている雅先輩が、起きた俺に気付いて目元を和らげます。
「サボり。いいから寝とけ」
トントン、と背中を優しく叩かれまた眠りへ誘われ瞼がゆるゆると閉じていきます。
ですが雅先輩の攻撃はそれだけではなく、顔や髪の至るところに柔らかく何かが触れるのです。俺は閉じそうになる瞼を必死で開いて抱き込まれている雅先輩の腕の中から出ようともがきます。
「んん…俺は、眠い…です…。雅先輩…くすぐった、い…」
尚も柔らかく触れてくる雅先輩から逃げるようにもぞもぞ動いていきますが、逆に身体をがっちりとホールドされていくのが分かります。
「ミノル、いいから寝とけって」
いや、寝られないですよ。
とは心の声です。どうやら雅先輩は俺が寝惚けてるのを良いことに、顔や髪の至るところにキスをしていた様子。
これは接近禁止令対象ではないのですか?
理人先生、翔先輩助けてー!
すっかり覚醒した頭で必死に雅先輩のキス攻撃を阻止します。
寝込みを襲うとは卑怯なり。
ここは恥を忍んで保健室の先生に助けを求めましょう。
と、大声を出そうとしたところで唇を塞がれてしまいました。勿論、雅先輩の唇で。
「んんっ?!」
驚いてくぐもった声が上がってしまいましたが、結構大きな声だった為、きっと保健室の先生は気付いてくれたはず。
「残念。保健医のヤローはさっき出てったぞ」
期待を込めて仕切りのカーテンを見つめていたら、唇を離した雅先輩がニヤリと笑って希望を打ち砕きます。
「雅先輩酷いです。俺体調不良なのに…」
作戦変更です。体調不良アピールで、良心へ訴えかけます。
「さっきまで暴れてたろ?もう大丈夫だって」
なんてこったい、ですよ。
俺の必死の抵抗が体調不良アピールを阻害する事になるとは。
雅先輩と俺とでは力の差は明白で、がっちりと抱き込まれている現状から自力で抜け出すことはほぼ不可能です。
「は、離して下さい…っ」
都合良く誰かが助けに来てくれるとも限らない現状。俺は必死に訴えかけます。ちょっと涙目です。
だって雅先輩の目が怖い。ギラギラしてる。身の危険ですよ!
「んな可愛い顔で言われても逆効果だけどな…。……ミノルに嫌われんのもやだしもっかいだけキスさせろ。それで終わり。な?」
そう言って頬を優しく撫でてくれた雅先輩の目は、もうギラギラしてませんでした。
取りあえずちょっと安心して、でも警戒は怠らず。
「本当に…?」
疑いの眼差しを向けつつ問い掛ければ、雅先輩は頷きます。もし嘘だったら嫌いになりますからね、と付け加えて俺は提案を飲みました。
途端に唇が重なりましたが、すぐに離れていきました。それから抱き込んでいた俺を解放してくれ、お布団も肩までしっかりと掛けてくれた雅先輩は最後にわしゃわしゃと髪を撫でて保健室から出て行ったのでした。
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