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第17話 犬を見つけた話

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 話は数時間前にさかのぼる。

 本日の授業をすべてを終えた一郎がかえ支度じたくをしていたところ、同じゼミの山田と鈴木に飲み会にさそわれたことがきっかけだ。

 いつものように話のネタにする代わりに、食事代をタダにするという条件でこれにOKした一郎は、聖蹟桜ヶ丘せいせきさくらがおかの駅前にあるカラオケボックスで、他の大学の女子達と合流。

 例の不名誉ふめいよなあだ名――お持ち帰り率100%の童貞どうてい――をイジられネタにされつつも、かまうことなく食事にいそししんでいた一郎だったが、参加者の中に彼の実家のことを知っていた女子が多数いたため、今回はいつものように飯だけに集中はできなかった。

 そのせいで参加者男子からのヘイトを買ってしまい、一郎は二次会から締め出されてしまう。

 女子たちの残念そうな声を浴びつつ、残り物をいつものようにタッパーにめて帰路きろに着いたら――出会ってしまったのだ。

 くだんの犬と、物部幽子もののべゆうこに。

 ……
 …………
 ………………

「あれ? 幽子?」
「一郎くん? めずらしいところで会うわね。何か用事ようじ?」

「いつものやつだよ。俺をネタにした飲み会。まあ、今回は玉の輿こしねらいが多い女の子が多かったから、飲み会というよりも合コン……いや、ハーレムだったかも。久々に俺モテた」

「私というものがありながら! 浮気うわきですか!? ねえ浮気ですか!?」
「なあ幽子、知ってるか? 浮気は付き合っている者同士でなければ成立しないということを」

「そのうち付き合うから成立するの!」
「そのうちっていつだよ……まあ、ぶっちゃけそういう可能性が一番高いのはきみではあるけど」

 他は明らかに実家の財産ざいさん目当めあてで、彼自身のことを見ていない。
 その点、幽子は財産目当てなのは一緒いっしょだが、彼自身のことも見てくれている。

 はっきりと財産目当てだと口にしているのも正直しょうじき好感こうかんが持てる。
 趣味しゅみについては色々とツッコミどころ満載まんさいだが。

「そ、そう? えへへ……♪ まあ、一郎くんと一番したしい女子は間違まちがいなく私だし。お金や財産だけが目当ての女の子なんて、一郎くんは相手にしないだろうし、今回は特別に許してあげましょう!」

「そりゃどうも。ところで幽子、腹減ってない? 帰ったら俺の部屋へやで映画でも見ながら飲み会で回収してきた飯でも食おうぜ」
「食べるぅ♪」

 付き合っていない男の部屋に、女子が一人でやってくる。
 彼女は警戒心けいかいしんというものはないのだろうか?
 一郎におそわれてしまうかもという考えはないのだろうか?

 いや、よくよく考えたらそんなことには絶対ならないか。
 なにせ彼女は常人じょうじんばなれした力を使えるのだ。

 そういった場合、襲われる可能性があるのは幽子ではなく、むしろ一郎の方だ。

「どうしたの?」
「……いや、やっぱりきみの部屋で食わない?」

 そのことに気づいたのか、一郎は先ほどの誘いを一部訂正ていせいする。

「私の部屋で? 夜に女の子の部屋に行きたいだなんて、一郎くん積極的せっきょくてきぃ(笑)」
「いや、違うからね!? ホントそういう意味じゃないからね!? ってか、それを言ったらきみだって夜に男の部屋に来るなんて積極的だろ!」

「そうですけど?」
「ああ、うん……そうだったわ……」

 彼女は出会った時から積極的だった。
 そこにツッコミを入れるのは今さらか。

 結局、一郎の部屋で飯を食うということになり、そのために何か飲むものをと、駅前のスーパー(コンビニより安い)でお茶とコーヒー、それから牛乳を購入こうにゅうし、バスを待っていたところ――、

 ――ヴ……ヴゥ……

「なあ幽子、何か聞こえないか?」
「え、そう? どんな感じのやつ?」

「なんて言うか、うめき声? 結構けっこう弱々しい感じの。気のせいかもだが」
一応いちおうさがしてみる? バスまでまだちょっと時間あるし、もしも誰かが倒れてたなら助けなきゃだし」

「そうだな。そうしよう」
「気のせいであって欲しいけどねー」

 こういう時に面倒めんどうだから気のせいだとだんじるのではなく、探そうと言ってくれるところが一郎的に好感度高い。
 悪魔超人もビックリな残虐性ざんぎゃくせいで、結局プラマイゼロになるけど。

「じゃあ一郎くんはあっち、私はこっちを探すね」
了解りょうかい

 一郎たちは、気のせいかもしれない声の主を探した。

 駅前ゆえの車の音や、さわがしい人々の声に邪魔じゃまをされつつも、いるかもわからない声の主を徹底的てっていてきに。

 バスが来る時間ぎりぎりまで。

「んー、これだけ探して見つからないってことは多分気のせいでしょ」
「そうだな。わざわざ付き合ってもらってすまなかった」

「いえいえ、彼女ですから」
「いや、彼女じゃありませんから」

 ――ヴ……ヴゥゥゥ……

「――ッ!? いや、やっぱ聞こえる! ……声は、あそこだ!」

 コンビニ横にあったゴミ捨て場。
 大量のゴミぶくろまれているあたりだ。

 ゴミ捨て場を荒らすことに、二人は多少の罪悪感ざいあくかんいだきながらも、ゴミ袋の山をかきわけた。

 そして見つけた。
 絶対に見つけてはいけないものを。
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