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第11話 これはイジメではない

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「はら、ほら。ねえどうしたのほらぁ♪ ついさっきまでの威勢いせいはどうしたのかにゃ~ん?」
『ボ、ゴォッ! オゲェッ!』

 ――パァン! スパァン!
 ――バキッ! ドカッ!

 身動みうごきができない幽霊ゆうれいに向けて、幽子がスリッパとこぶしるう。
 たたかれるたび、なぐられるたび、幽霊が嗚咽おえつの声を上げる。

「ねえどんな気持ち? ぶっ殺す気まんまんで『帰るな』とか言った相手に、こーんな一方的にやられちゃってどんな気持ちなのぉ? 私わかんにゃ~い♪ おちえて? おねがぁい♪ お願いママぁ~♪」
『モ、モ……モウ、ユル、シテ……』

「え? 聞こえなーい? 人と話すときはもっと元気よくハキハキ答えましょう……ねっ!」

 ――バキャァァッ!
 ――ドゴンッ!

『ウ、ゲ……』

 幽子の光ったあしが幽霊の胴体どうたいに決まった。
 文字通り、閃光せんこうのような回しりで幽霊は横にび、窓にぶち当たってそのままゆかびる。

 その横たわった幽霊の肩(らしき部分)を、幽子はかかといた。
 何度も何度も。

 ――ゴキン! ゴキン! ゴキン! ゴキン! ゴキン! ベキン!

『アガッ……アガガガガ……ヤ、ヤメテェ……』
「ハキハキこたえろって言ったでしょ? 何聞いてんの? もしかして私の話聞いてなかったのかな? 耳とかふさがってたりする? なら良く聞こえるように、耳掃除みみそうじでもしてあげましょうか? これを使って」

 そう言って幽子が取り出したのは、長さ30センチくらいのぼうだった。
 毛糸のセーターとかをう時に使う、あの道具だ。
 あんなもので耳掃除をされたら、脳みそまでほじくられる。

「この編み棒は樹齢じゅれい千年以上もする御神木ごしんぼくえだからできてるの。耳に突っ込んだらきっとゴミが取れて綺麗きれいになるわよ? あんたの存在ごと」
『オネ、ガイ、デス……ヤメ……ヤメテ、クダ、サイ……モウ、ユルシテ、クダ、サイ……』

 ふるえる声で幽霊が言った。
 声からして、どうやら泣いているようだ。

 幽霊が泣くのって、こう……もっとうらめしい感じなのでは?
 まるでイジメられっ子のように泣いている。

『モウ、デテイキ、マス……ダカラ、ユルシテ……』
「だって。どうする田中くん?」

 ――ドゴッ!

『ホゲェッ!』
「質問しながらはらを蹴るなよ……」

「あ、なんか脚がさみしかったからつい」
「おい幽霊、あんた、何で俺に取りいたんだ?」

『イイ、タマシイ、モッテイタカラ……』
「は? 魂?」
「魂には色があるの。性格も良い人ほどあざやかで美しい、綺麗な色をしているのよ」

『アナタノ、イロ、キレイデ……ウツクシカッタ。ダカラ、イッショニ、イタカッタ。ワタシノモノニ、シタカッタ……』
「私には見えないけど、こいつの言うように綺麗なんだろうね。田中くんやさしいし」

『ズット、イッショニイル、タメ……シンデ、ホシクテ……』
「それで俺に色々とやってたわけか」

 冗談じゃない。
 そんな一方的な都合つごうころされてたまるものか。
 一郎はまだまだこの世に未練みれんがあるし、やりたいことだってたくさんあるのだ。

「あんたなあ、そんな理由で取り憑かれた奴の気持ちを考えたことあるか? 助けを呼ぶこともできず、一人で何とかしようとしていた人間の気持ちを考えたことがあるか? 意思の疎通そつうができるんだから、あんただって生きてるころは人間だったんだろ?」
『ゴメンナサイ……ゴメンナサイ……』

「あんたがどういう経緯けいいでそうなったのかは知らない。だけど、今を生きている人間の邪魔はするな」
『ハイ……』

「わかったら出て行け。そして二度と戻ってくるな」
「あれ? 許しちゃうの? 1年も苦しめられた相手なのに? こいつの頭にコレさなくていいの? きっといい声で鳴くと思うんだけど」

「別に許すわけじゃない。これ以上関わりたくないだけだよ」
「まあ、田中くんがそう言うならいっか」

 幽子が幽霊から足をどけた。
 眉間みけんに刺さった口紅くちべにを抜くと、幽霊は一目散に一郎の部屋から逃走とうそうした。
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