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第2話 タダ飯――それは知能指数を下げる魔法の言葉

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 タダ飯――それは大学生の知能指数ちのうしすうを下げる魔法の言葉。

 親元をはなれ、アルバイトで生計せいけいを立てる大学生において、腹いっぱい食っても飯代めしだい一切いっさい気にする必要がないというメリットは非常に大きい。

 一郎の実家は金持ちだ。
 土地を転がして得た金額の何割かを地元に還元かんげんしているため、彼の親は地元の名士と言われている。

 年が離れた兄は市議会議員しぎかいぎいんつとめているし、年がそこそこ近い姉は官僚かんりょうの道を進んでいる。

 そして彼は国立大の大学生。
 まるで絵に描いたようなエリート一家の末弟まってい
 それが彼――田中一郎だ。

 そんな彼がタダ飯にれる――不自然に思うかもしれないが、これにはちゃんと理由がある。
 一郎は決して少なくない親からの仕送り、自身のアルバイト代、そのほとんどをとある事につぎこんでいるのだ。

 そのせいでいつも生活費はカツカツ。
 基本的に一日一食。

 食べるものもほとんどが賞味期限しょうみきげん切れギリギリの半額弁当や、サンドイッチを作る際に生まれるパンの耳だ。

 野菜は買う余裕がないのでその辺に生えている雑草をおひたしにして食べたり、天ぷらにして食べたり、農学部の友人を手伝って分けてもらったりして食べている。

 こんな生活を送っているので、肉は当然のことながらほとんど食べていない。
 唯一腹いっぱい食す方法は、雑務ざつむと引き換えにゼミの教授にたかるぐらいだ。

 さすがに毎回たかるのは悪いと思って、スズメやハトをつかまえて食べようと思ったこともあったが、都会は人の目がきびしいので泣く泣く断念だんねんしている。

 そんなわけで金持ちのボンボンだが、そこらの貧乏学生よりも非常にヘビーな食生活を送っている一郎としては、「タダ飯が食える」「しかも腹いっぱい」という条件が魂にブッさるわけで。

「しゃーない! 参加してやるかぁ♪」
「やったぁ! 一郎くん大好きぃ♪」
「キャーッ! 田中サーン!」

 ――プライドで腹はふくれないよねっ☆ミ
 ――これで腹いっぱい金額を気にせず飯が食える!

 ――そのためならば俺のちっぽけなプライドなんぞ、笑いながら犬に食わせてやるわ!
 ――喜んで客寄せパンダになってあげようじゃないか!

 やはりタダ飯は魔法の言葉。
 人が簡単にプライドを捨てる。

「それじゃあ今日の夕方6時、町田駅近くの飲み屋『昭和』でな」
「目一杯腹空かしてこいよ?」

「お前も参加者だし、全然女の子ねらってもいいからな!」
「なんなら持ち帰ってもいいぞぅ! 今日こそ童貞が捨てれるといいなぁ♪」

 そんな会話で締めくくり、友人たちと別れた一郎は次の授業へと移動した。

 ――肉、肉、肉……今日は数カ月ぶりのお肉ターイム♪
 ――唐揚げにハンバーグ、腹いっぱい食った上に追加注文もしてタッパーに詰めちゃうぞぉ♪

 合コンだというのに久しぶりの肉への渇望かつぼう
 女の子と親密しんみつな関係になることを完全にあきらめている。

 そんな一般的な大学生にあるまじきムーブをかましながら、ウッキウキで飲み屋に行った先で一郎は――、

 物部幽子もののべゆうこに出会った。
 そして彼女をお持ち帰りした。

 これは、お持ち帰り率100%の童貞と言われた彼に、彼女ができるまでの物語。

 彼はいかにして恋人を作ったのか?
 最後まできちんと語るので、付き合ってくれると――とても嬉しい。
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