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第32話 最悪の仮定と証明
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「キズナ、一刻も早く逃げるぞ」
「わかった。手、出して」
キズナが背中の翼を出しつつ俺に握手を求めてきた。
俺は素直にその言葉に従い右手を出す。
「ど、どうしたのその手!?」
「……ちょっと、な」
手首の火傷は小さいが、皮がただれているので見た目的には結構酷い。
「彼女の状態はボクの想像以上に悪化しているのかもな。早く元に戻してあげないと」
「頼む。《アクセラレイション》が愛情を加速し続けるっていうなら、今の精神状態はかなりギリギリだ」
俺の苦しむ姿を、愛しそうに見ていたしな。
このままだとそう遠くないうちに「俺を食べて一つになりたい」などと言い出すかもしれない。
そうならないように一刻も早くここから逃げ出さなくては。
「さあ、行こう」
「どこへ?
――ドサッ。
キズナの片翼が地面に転がった。
「……え?」
一瞬だった。
キズナが引き寄せられるように俺に向かって倒れ込んでくる。
「……熱い、背中が……熱いよ……太陽」
俺の耳元でキズナがささやく。
「お庭の手入れをしようと思って外に出てよかった。ねえ、私を置いてどこにいくの……? 太陽くん」
彼女はニコニコとした表情で俺を見ているが、今の一撃で全く笑っていないことは誰にでもわかる。
あの誰にでも分け隔てなく接する優しい彼女が、笑顔で人を切りつけるだなんて。
「もう……私に黙ってどこかに行こうだなんてイケナイ人ね。私は一時でもあなたと離れていたくないのに。そんなことができないように、一人じゃ歩けないよう、両足の筋を切り落としたほうがいいかしら? それとも脊髄を傷つけるべきかしら?」
まるでラブラブ新婚夫婦の若奥様のような顔でそう呟く。
〈アクセラレイション〉は、やはり想像以上に進行してしまっている。
彼女の心を蝕むほどに。
(彼女の間合いにいるのは不味い!)
俺は断たれた翼の付け根を力いっぱい握り締めながら、少しずつ彼女から距離を取る。
約5メートル――彼女が1、2歩踏み込んで切りつけても包丁が届かない間合いまで下がると、キズナを抱えてゆっくりと立ち上がる。
キズナは俺にしか見えないので、せめて安全な場所に移さないと。
「キズナ、立てるか?」
「太陽……ボク、どうなっちゃった……の? 背中、が……背中が、熱いんだけど……?」
「考えない方がいい。今は逃げることだけ考えよう……彼女から」
お互いの頬が触れ合うほどの距離で相談を始める。
「キズナ、俺が彼女を引きつけるからお前は一旦脱出して、何とかして他の天使を呼んでくれ。タブレット、持ってきてるんだろ?」
「ひ……引きつけるって……あの子どう見ても常識のリミッターが外れちゃってるよ!?」
「だけど他にどうしようもない。彼女の狙いは俺だ。彼女だって俺同様、運命のバグに翻弄された被害者なんだ。彼女の将来のためにも警察沙汰にしたくない。それにお前は人間じゃなく天使だ。天使は普通の人間には見えないんだろ? 天界製のものに触れない限りは。なら、動きを気取られず助けを呼べるはずだ」
「だ、だけど……」
「だけどもクソもねえよ。これ以上被害を拡大させないためにはそれが一番なんだ。見えない奴が見えない援軍を呼ぶのが最上の策だ。……わかるな?」
俺の説得にキズナは少しの間考えていたが了承してくれた。
フラフラとだが自力で立つと、後ろへと移動し家の角に消える。
それと同時に彼女――八舞さんのほうも俺をどうするのか考えをまとめたようで、彼女にとっては幸せの一つの形、俺にとっては不幸以外の何物でもない答えを告げてきた。
「うん、やっぱり脊髄に傷をつけましょう。そうすればもう勝手にどこかに行こうとしないでしょうし。手足を切り落として私専用の抱き枕にするのも捨てがたいけど、それだと太陽くんのあたたかい、あの優しい手のぬくもりが感じれなくなっちゃうもの。そうなるとデートのときや二人でいるときに手をつなげないもの。恋人同士なのにお互いの手のぬくもりを感じられないなんて……そんなの哀しいわよね。それに比べて脊髄を傷つけるのは我ながらいいアイデアだわ。満足に動けないから日常生活を送るのに誰かの手が必ず必要になるわよね。そうなれば私は常に、いつも太陽くんの傍にいられるもの」
「……それだと俺の下の世話までしなくちゃいけないぜ? 八舞さん」
「あら、そんなの当たり前でしょ? むしろ大好きな人の下の世話なんてご褒美よ。私たちはお互い愛し合っているんだから、心から愛し合っているんだから、お互いの良い部分も悪い部分も、もちろん恥ずかしい部分だって見せて欲しいわ」
包丁を右手から左手に持ち替えて笑顔で答える八舞さん。
俺は彼女のこの行動に違和感を覚えた。
彼女から向かって右側、俺は壁を背にしている。
なのに、なぜ包丁を標的から少し離れたポジションに構える必要があるんだ?
離れたといってもわずか数センチの差ではあるが、俺と彼女の身長は10センチ以上あるので、そのわずか数センチが行動の成否を分けると言っていい。
「だから……ね?」
彼女の左手が水平に構えられた。
「私にちょうだい、あなたの人生。代わりに私の人生をあげる」
彼女が大きく踏み込んでくる。
踏み足は左、彼女から見て右側に俺がいるのに、わざわざ左手に包丁を構えて、円の動きで距離を詰めてきている。
やはり変だ。
そんなことをすれば円状に動く分だけ間合いが広がり、逃げやすくなるだけだというのに。
理由はわからなかったがこれは好都合だ。
俺は壁を背にしたまま、拡がった間合いに真っ直ぐ突っ込み、彼女の裏側へと回り込もうとした。
このまま突っ込めば彼女の包丁を食らうことなく家の中へ逃げ込める。
まだ事件は解決してはいないが、安心感から俺の顔に少しだけ小さな笑みがこぼれた。
――ニチャァ。
「――!?」
それに呼応するように彼女の顔にも。
何でだ? 何で今彼女は笑ったんだ?
間合いから逃げられたのに……っていうか、そもそもなぜすれ違う際に包丁を振らなかったんだ?
何で方向転換をしようとしないんだ?
そして、何で自分の行動が失敗したのに笑ったんだ?
俺に横を抜かれたというのに笑う彼女の顔を見たとき、俺の頭に最悪の仮説が生まれた。
天使を見るには天界製の物に触れなければならない。
キズナと初めて出会ったとき、モテ電に触れた俺は彼女が見えたが、そのとき教室にいた彼女には見えていなかった。
だから天界製の物に触れなければ天使の、キズナの姿は見えないはず。
だから天界製の物に触れていない八舞さんにはキズナの姿は見えない。
……本当にそうなのか?
教室での一件から、天界製の物に触れなければ天使を見ることはできないというのは間違いない。
これは確実。実証もされているのでこれは疑う余地はない。
では、八舞さんにキズナが見えていないと考えた場合、これも疑う余地はないのだろうか?
天使を見るには天界製のものに触れたことがなければいけない。
もし見えると仮定した場合、彼女は一昨日の夕方以降から今に至るまでに、天使に出会ったことが前提となる。
しかしその可能性は極めて低い。
彼女も俺と同様、アカシックレコードにバグが巣食っていたわけだが、彼女のはレベル2。
本来であれば修正バッチで事足りるもので天使がわざわざ降臨しない。
それに、見つかったタイミングがタイミングだ。
検索は毎週月曜日。なので、今のタイミングではキズナ以外はそのことに気づけていない。
この状態で他の天使が彼女に接触する可能性はゼロに等しい。
以上のことから彼女にキズナが見えるはずがない。
つまり、これは俺のただの杞憂だ。
彼女が引き返さないうちに家の中に逃げ込めば俺たちの勝ち。
家の鍵は指紋式なので、ドアさえ閉めてしまえば彼女が入ってくることはできない。
ガラスとかを破壊して侵入する可能性は一般家庭ならばあるのだろうが、俺の家は泥棒避けに強化ガラスを使っている。
なので、その荒業は使えない。
ダクトもあるが、あれは普通体型な男しか無理だ。
女の子は胸があるのでCカップ以上の子は胸がつかえて通れない。
彼女はキズナより少し小さいがDカップはある。だから通れない。
つまりこの状態になった時点でもう詰み。
俺たちの勝ち確なのだ。
俺がドアの足を収納して、閉めてしまえばそれで終わり。
当初の予定通り俺が彼女を引きつけなくても、キズナが援軍を呼ぶ時間を作ることができる。
そうなるとキズナも一緒に外で待機となるが、彼女には見えないから何も問題はない。
切り落とされた翼からの出血が気になるが、支えなしで歩けていたのでおそらく致命傷ではない。
隙を見て家の中に入れて手当てをしてやれば命に別状はないだろう。
(よしっ! これで!)
ドアを開けた。
あとは足をしまって締めるだけ。
しゃがんで足に手をかけようとしたとき八舞さんと目が合う。
彼女は笑みを浮かべたまま家の角に消えた。
――なぜだ? あの先にはキズナしかいないのに。
――天界製の物に触れたことがない彼女がキズナを見えるわけ……まさかっ!?
俺の中で先ほど否定した考えが蘇った。
彼女に『キズナが見えない』というこの仮説、本当に正しいのかと。
確かに先ほど否定したとおり、彼女がここに来る以前、何らかの理由で他の天使に出会ったことがあるというのはほぼゼロだろう。
(じゃあ今なら?)
俺の家に来たことで、何らかの天界製の物に触れたならば!?
そう仮定した瞬間、俺の中で数時間前の記憶が蘇った。
(あのとき彼女は、彼女は何で俺の嘘を見抜けた!?)
そうだ、そうだった!
彼女はキズナの髪を理由に俺の嘘を見破ったんじゃないか!
キズナは天界の住人だ。天界製と言ってもいい!
いや、それよりも燃やされた本とDVDだ!
地下室で灰になったあれらの隠し場所の一つに、モテ電を隠していた引き出しもあったはずだ!
鍵はかけたが所詮机の鍵、簡単に壊せるし外せる。
発掘中に触れたとしても何ら不自然じゃない!
もう間違いない! 俺の中で最悪の仮説が確信となる。
――彼女はキズナが見えている!
「きずなあああぁぁぁぁあああっっ!」
俺は家の裏で他の天使に連絡を取っているであろう彼女に向けて大声で叫ぶ。
「キズナ! 気をつけろ! 彼女にはお前が見えているぞ!」
--------------------------------------------------------------------------------
《あとがき》
ヤバいよこれヤベーって。マジヤバいってこれホント。
「わかった。手、出して」
キズナが背中の翼を出しつつ俺に握手を求めてきた。
俺は素直にその言葉に従い右手を出す。
「ど、どうしたのその手!?」
「……ちょっと、な」
手首の火傷は小さいが、皮がただれているので見た目的には結構酷い。
「彼女の状態はボクの想像以上に悪化しているのかもな。早く元に戻してあげないと」
「頼む。《アクセラレイション》が愛情を加速し続けるっていうなら、今の精神状態はかなりギリギリだ」
俺の苦しむ姿を、愛しそうに見ていたしな。
このままだとそう遠くないうちに「俺を食べて一つになりたい」などと言い出すかもしれない。
そうならないように一刻も早くここから逃げ出さなくては。
「さあ、行こう」
「どこへ?
――ドサッ。
キズナの片翼が地面に転がった。
「……え?」
一瞬だった。
キズナが引き寄せられるように俺に向かって倒れ込んでくる。
「……熱い、背中が……熱いよ……太陽」
俺の耳元でキズナがささやく。
「お庭の手入れをしようと思って外に出てよかった。ねえ、私を置いてどこにいくの……? 太陽くん」
彼女はニコニコとした表情で俺を見ているが、今の一撃で全く笑っていないことは誰にでもわかる。
あの誰にでも分け隔てなく接する優しい彼女が、笑顔で人を切りつけるだなんて。
「もう……私に黙ってどこかに行こうだなんてイケナイ人ね。私は一時でもあなたと離れていたくないのに。そんなことができないように、一人じゃ歩けないよう、両足の筋を切り落としたほうがいいかしら? それとも脊髄を傷つけるべきかしら?」
まるでラブラブ新婚夫婦の若奥様のような顔でそう呟く。
〈アクセラレイション〉は、やはり想像以上に進行してしまっている。
彼女の心を蝕むほどに。
(彼女の間合いにいるのは不味い!)
俺は断たれた翼の付け根を力いっぱい握り締めながら、少しずつ彼女から距離を取る。
約5メートル――彼女が1、2歩踏み込んで切りつけても包丁が届かない間合いまで下がると、キズナを抱えてゆっくりと立ち上がる。
キズナは俺にしか見えないので、せめて安全な場所に移さないと。
「キズナ、立てるか?」
「太陽……ボク、どうなっちゃった……の? 背中、が……背中が、熱いんだけど……?」
「考えない方がいい。今は逃げることだけ考えよう……彼女から」
お互いの頬が触れ合うほどの距離で相談を始める。
「キズナ、俺が彼女を引きつけるからお前は一旦脱出して、何とかして他の天使を呼んでくれ。タブレット、持ってきてるんだろ?」
「ひ……引きつけるって……あの子どう見ても常識のリミッターが外れちゃってるよ!?」
「だけど他にどうしようもない。彼女の狙いは俺だ。彼女だって俺同様、運命のバグに翻弄された被害者なんだ。彼女の将来のためにも警察沙汰にしたくない。それにお前は人間じゃなく天使だ。天使は普通の人間には見えないんだろ? 天界製のものに触れない限りは。なら、動きを気取られず助けを呼べるはずだ」
「だ、だけど……」
「だけどもクソもねえよ。これ以上被害を拡大させないためにはそれが一番なんだ。見えない奴が見えない援軍を呼ぶのが最上の策だ。……わかるな?」
俺の説得にキズナは少しの間考えていたが了承してくれた。
フラフラとだが自力で立つと、後ろへと移動し家の角に消える。
それと同時に彼女――八舞さんのほうも俺をどうするのか考えをまとめたようで、彼女にとっては幸せの一つの形、俺にとっては不幸以外の何物でもない答えを告げてきた。
「うん、やっぱり脊髄に傷をつけましょう。そうすればもう勝手にどこかに行こうとしないでしょうし。手足を切り落として私専用の抱き枕にするのも捨てがたいけど、それだと太陽くんのあたたかい、あの優しい手のぬくもりが感じれなくなっちゃうもの。そうなるとデートのときや二人でいるときに手をつなげないもの。恋人同士なのにお互いの手のぬくもりを感じられないなんて……そんなの哀しいわよね。それに比べて脊髄を傷つけるのは我ながらいいアイデアだわ。満足に動けないから日常生活を送るのに誰かの手が必ず必要になるわよね。そうなれば私は常に、いつも太陽くんの傍にいられるもの」
「……それだと俺の下の世話までしなくちゃいけないぜ? 八舞さん」
「あら、そんなの当たり前でしょ? むしろ大好きな人の下の世話なんてご褒美よ。私たちはお互い愛し合っているんだから、心から愛し合っているんだから、お互いの良い部分も悪い部分も、もちろん恥ずかしい部分だって見せて欲しいわ」
包丁を右手から左手に持ち替えて笑顔で答える八舞さん。
俺は彼女のこの行動に違和感を覚えた。
彼女から向かって右側、俺は壁を背にしている。
なのに、なぜ包丁を標的から少し離れたポジションに構える必要があるんだ?
離れたといってもわずか数センチの差ではあるが、俺と彼女の身長は10センチ以上あるので、そのわずか数センチが行動の成否を分けると言っていい。
「だから……ね?」
彼女の左手が水平に構えられた。
「私にちょうだい、あなたの人生。代わりに私の人生をあげる」
彼女が大きく踏み込んでくる。
踏み足は左、彼女から見て右側に俺がいるのに、わざわざ左手に包丁を構えて、円の動きで距離を詰めてきている。
やはり変だ。
そんなことをすれば円状に動く分だけ間合いが広がり、逃げやすくなるだけだというのに。
理由はわからなかったがこれは好都合だ。
俺は壁を背にしたまま、拡がった間合いに真っ直ぐ突っ込み、彼女の裏側へと回り込もうとした。
このまま突っ込めば彼女の包丁を食らうことなく家の中へ逃げ込める。
まだ事件は解決してはいないが、安心感から俺の顔に少しだけ小さな笑みがこぼれた。
――ニチャァ。
「――!?」
それに呼応するように彼女の顔にも。
何でだ? 何で今彼女は笑ったんだ?
間合いから逃げられたのに……っていうか、そもそもなぜすれ違う際に包丁を振らなかったんだ?
何で方向転換をしようとしないんだ?
そして、何で自分の行動が失敗したのに笑ったんだ?
俺に横を抜かれたというのに笑う彼女の顔を見たとき、俺の頭に最悪の仮説が生まれた。
天使を見るには天界製の物に触れなければならない。
キズナと初めて出会ったとき、モテ電に触れた俺は彼女が見えたが、そのとき教室にいた彼女には見えていなかった。
だから天界製の物に触れなければ天使の、キズナの姿は見えないはず。
だから天界製の物に触れていない八舞さんにはキズナの姿は見えない。
……本当にそうなのか?
教室での一件から、天界製の物に触れなければ天使を見ることはできないというのは間違いない。
これは確実。実証もされているのでこれは疑う余地はない。
では、八舞さんにキズナが見えていないと考えた場合、これも疑う余地はないのだろうか?
天使を見るには天界製のものに触れたことがなければいけない。
もし見えると仮定した場合、彼女は一昨日の夕方以降から今に至るまでに、天使に出会ったことが前提となる。
しかしその可能性は極めて低い。
彼女も俺と同様、アカシックレコードにバグが巣食っていたわけだが、彼女のはレベル2。
本来であれば修正バッチで事足りるもので天使がわざわざ降臨しない。
それに、見つかったタイミングがタイミングだ。
検索は毎週月曜日。なので、今のタイミングではキズナ以外はそのことに気づけていない。
この状態で他の天使が彼女に接触する可能性はゼロに等しい。
以上のことから彼女にキズナが見えるはずがない。
つまり、これは俺のただの杞憂だ。
彼女が引き返さないうちに家の中に逃げ込めば俺たちの勝ち。
家の鍵は指紋式なので、ドアさえ閉めてしまえば彼女が入ってくることはできない。
ガラスとかを破壊して侵入する可能性は一般家庭ならばあるのだろうが、俺の家は泥棒避けに強化ガラスを使っている。
なので、その荒業は使えない。
ダクトもあるが、あれは普通体型な男しか無理だ。
女の子は胸があるのでCカップ以上の子は胸がつかえて通れない。
彼女はキズナより少し小さいがDカップはある。だから通れない。
つまりこの状態になった時点でもう詰み。
俺たちの勝ち確なのだ。
俺がドアの足を収納して、閉めてしまえばそれで終わり。
当初の予定通り俺が彼女を引きつけなくても、キズナが援軍を呼ぶ時間を作ることができる。
そうなるとキズナも一緒に外で待機となるが、彼女には見えないから何も問題はない。
切り落とされた翼からの出血が気になるが、支えなしで歩けていたのでおそらく致命傷ではない。
隙を見て家の中に入れて手当てをしてやれば命に別状はないだろう。
(よしっ! これで!)
ドアを開けた。
あとは足をしまって締めるだけ。
しゃがんで足に手をかけようとしたとき八舞さんと目が合う。
彼女は笑みを浮かべたまま家の角に消えた。
――なぜだ? あの先にはキズナしかいないのに。
――天界製の物に触れたことがない彼女がキズナを見えるわけ……まさかっ!?
俺の中で先ほど否定した考えが蘇った。
彼女に『キズナが見えない』というこの仮説、本当に正しいのかと。
確かに先ほど否定したとおり、彼女がここに来る以前、何らかの理由で他の天使に出会ったことがあるというのはほぼゼロだろう。
(じゃあ今なら?)
俺の家に来たことで、何らかの天界製の物に触れたならば!?
そう仮定した瞬間、俺の中で数時間前の記憶が蘇った。
(あのとき彼女は、彼女は何で俺の嘘を見抜けた!?)
そうだ、そうだった!
彼女はキズナの髪を理由に俺の嘘を見破ったんじゃないか!
キズナは天界の住人だ。天界製と言ってもいい!
いや、それよりも燃やされた本とDVDだ!
地下室で灰になったあれらの隠し場所の一つに、モテ電を隠していた引き出しもあったはずだ!
鍵はかけたが所詮机の鍵、簡単に壊せるし外せる。
発掘中に触れたとしても何ら不自然じゃない!
もう間違いない! 俺の中で最悪の仮説が確信となる。
――彼女はキズナが見えている!
「きずなあああぁぁぁぁあああっっ!」
俺は家の裏で他の天使に連絡を取っているであろう彼女に向けて大声で叫ぶ。
「キズナ! 気をつけろ! 彼女にはお前が見えているぞ!」
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《あとがき》
ヤバいよこれヤベーって。マジヤバいってこれホント。
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