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時価マイナス1000万
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せっかく異世界にやってきたというのにチートもなく言葉すら通じず保護されるどころか速攻で売り飛ばされたアオイにとって、魔法はキラキラ異世界生活を象徴する“よく分からないけど何か素敵なもの”だった。キラキラ異世界生活はたぶん労働とかから解放された良い感じの生活のことだ。
せっかくの異世界だ。教えてもらえるなら教えて欲しい。期待のこもった目で男を見つめると、男は「今度ちゃんと教えますね」と目尻を下げた。
「人の心を覗く魔法は……そうですね……。それは嘘や隠し事が分かるという意味でしょうか?」
「僕の想定解はその場でパッと思い浮かべた数字とかのことなんですけど、魔法は嘘や隠し事も分かるんですか?」
「正確に言うと魔法薬なら分かる、ですね」
「……それは、自白剤? ですか?」
「端的に言うと、そうです。私たちの間では真実薬と呼ばれていますが……。強力なものだと本人の知覚し得ない本音まで話してしまいます」
「なんだそれコッワ! あっ、ごめんなさい。びっくりしちゃって」
「怖いでしょう? 魔法薬は魔力を持つ者しか調合できないので、これも魔法の一種と言っていいでしょうね」
「なるほど……。じゃあ、旦那様も調合できるんですか?」
「私、細かい作業は苦手なんです」
これは意外だ。アオイは目を丸くした。思わず「得意そうなのに」と呟くと、男は「よく言われます」と眉を寄せた。
「実は少し見栄を張りました。訂正します、苦手どころか嫌いです」
相当嫌らしい。神様が丹精込めて作り上げた人形のような、完璧な顔立ちをしているので何となく漠然と手先も器用だと思い込んでいたが、考えてみれば確かに顔は関係ない。それもそうだ、とアオイは頷いた。
「顔の印象から勝手に期待されて勝手にガッカリされるの嫌ですよね」
綺麗な顔してるくせに意外と雑、心臓に毛が生えてる、人前で酒は飲むな、と好き勝手言われた過去を思い出してアオイは口を尖らせた。
「分かってくれますか!」
「えっ、はい」
軽い気持ちで共感しただけだったのだが、アオイの言葉はこの美しい男にことの他深く刺さったようだった。男は食い気味に深く何度も頷いた。
「そう、本当にそうなんです。魔法が使えるってだけで万能薬や真実薬を求められ、しかも私が作る魔法薬ならさぞ強力なものだろうと勝手に期待され、魔法薬はまた別の技術が必要だとちゃんと説明したって貴方様なら関係ないでしょうと……本当、いい迷惑だと思いませんか?」
日頃の鬱憤が溜まっていたのか昨日より饒舌だ。アオイは珍しいな、と思いつつ「そうですね」と相槌を打った。
「ああ、それは確かに……?」
「ちまちま調合なんかするより殴った方が早いのに」
「んんん」
「冗談です」
いや僕も大概な自覚があるけど、この人も普通にヤバいな。
おかしくなって思わず破顔すると、男も微かに口角を上げた。それはよく見なければ気づかないほど小さな変化だったが、初めて見る男の笑顔に心臓が跳ねる。頬に熱が集まる予感に、アオイは慌てて男から視線を逸らした。
アオイの焦りは気づかれることなく、再びいつもの無表情に戻った男はなんでもないように話題を続けた。
「私ができるのは、ある場所からある場所へと物を移動させることくらいです」
たとえばこんなふうに。男はそう言って人さし指をくるりと回した。ふわりと風が吹いて、アオイが目を開けたときにはグラスの中の酒が消えていた。
「わっ、……えっ!?」
不思議そうにキョロキョロと視線を動かすアオイを、男は微笑ましそうな顔で眺めていた。思わず拍手を送る。男はパチンと片目を瞑った。気障ったらしい仕草だが恐ろしく顔の整った男にはとても似合っている。アオイはこの人顔だけで食ってけるタイプだ、とこっそり感心した。
――や、待った、感心してる場合じゃない。
アオイは慌てて頭を振った。楽しませる側が楽しんでどうするんだ。
仕切り直すように咳払いを一つしたアオイは、困ったように眉を下げてみせた。
「ええと……僕がこれからすることは、きっと旦那様には見慣れた光景だと思います」
「……なるほど?」
「だから、なんだこれくらい、とも思うかもしれません」
薄く紅をひいた唇が妖艶な弧を描く。アオイは口元に微笑を湛えたままこてんと首を傾げた。そのどこか幼い仕草は、アオイの綺麗な顔立ちとも相まってどこか背徳的な色気が感じられた。
「でも、忘れないでほしいんです。僕は魔法が使えません」
アオイはそう言って片手でクロスを持った。
男の視線がアオイの手元、ひらひらと揺れるクロスに注がれる。
アオイは秘密を打ち明けるようにそっと囁いた。
「――見てて」
せっかくの異世界だ。教えてもらえるなら教えて欲しい。期待のこもった目で男を見つめると、男は「今度ちゃんと教えますね」と目尻を下げた。
「人の心を覗く魔法は……そうですね……。それは嘘や隠し事が分かるという意味でしょうか?」
「僕の想定解はその場でパッと思い浮かべた数字とかのことなんですけど、魔法は嘘や隠し事も分かるんですか?」
「正確に言うと魔法薬なら分かる、ですね」
「……それは、自白剤? ですか?」
「端的に言うと、そうです。私たちの間では真実薬と呼ばれていますが……。強力なものだと本人の知覚し得ない本音まで話してしまいます」
「なんだそれコッワ! あっ、ごめんなさい。びっくりしちゃって」
「怖いでしょう? 魔法薬は魔力を持つ者しか調合できないので、これも魔法の一種と言っていいでしょうね」
「なるほど……。じゃあ、旦那様も調合できるんですか?」
「私、細かい作業は苦手なんです」
これは意外だ。アオイは目を丸くした。思わず「得意そうなのに」と呟くと、男は「よく言われます」と眉を寄せた。
「実は少し見栄を張りました。訂正します、苦手どころか嫌いです」
相当嫌らしい。神様が丹精込めて作り上げた人形のような、完璧な顔立ちをしているので何となく漠然と手先も器用だと思い込んでいたが、考えてみれば確かに顔は関係ない。それもそうだ、とアオイは頷いた。
「顔の印象から勝手に期待されて勝手にガッカリされるの嫌ですよね」
綺麗な顔してるくせに意外と雑、心臓に毛が生えてる、人前で酒は飲むな、と好き勝手言われた過去を思い出してアオイは口を尖らせた。
「分かってくれますか!」
「えっ、はい」
軽い気持ちで共感しただけだったのだが、アオイの言葉はこの美しい男にことの他深く刺さったようだった。男は食い気味に深く何度も頷いた。
「そう、本当にそうなんです。魔法が使えるってだけで万能薬や真実薬を求められ、しかも私が作る魔法薬ならさぞ強力なものだろうと勝手に期待され、魔法薬はまた別の技術が必要だとちゃんと説明したって貴方様なら関係ないでしょうと……本当、いい迷惑だと思いませんか?」
日頃の鬱憤が溜まっていたのか昨日より饒舌だ。アオイは珍しいな、と思いつつ「そうですね」と相槌を打った。
「ああ、それは確かに……?」
「ちまちま調合なんかするより殴った方が早いのに」
「んんん」
「冗談です」
いや僕も大概な自覚があるけど、この人も普通にヤバいな。
おかしくなって思わず破顔すると、男も微かに口角を上げた。それはよく見なければ気づかないほど小さな変化だったが、初めて見る男の笑顔に心臓が跳ねる。頬に熱が集まる予感に、アオイは慌てて男から視線を逸らした。
アオイの焦りは気づかれることなく、再びいつもの無表情に戻った男はなんでもないように話題を続けた。
「私ができるのは、ある場所からある場所へと物を移動させることくらいです」
たとえばこんなふうに。男はそう言って人さし指をくるりと回した。ふわりと風が吹いて、アオイが目を開けたときにはグラスの中の酒が消えていた。
「わっ、……えっ!?」
不思議そうにキョロキョロと視線を動かすアオイを、男は微笑ましそうな顔で眺めていた。思わず拍手を送る。男はパチンと片目を瞑った。気障ったらしい仕草だが恐ろしく顔の整った男にはとても似合っている。アオイはこの人顔だけで食ってけるタイプだ、とこっそり感心した。
――や、待った、感心してる場合じゃない。
アオイは慌てて頭を振った。楽しませる側が楽しんでどうするんだ。
仕切り直すように咳払いを一つしたアオイは、困ったように眉を下げてみせた。
「ええと……僕がこれからすることは、きっと旦那様には見慣れた光景だと思います」
「……なるほど?」
「だから、なんだこれくらい、とも思うかもしれません」
薄く紅をひいた唇が妖艶な弧を描く。アオイは口元に微笑を湛えたままこてんと首を傾げた。そのどこか幼い仕草は、アオイの綺麗な顔立ちとも相まってどこか背徳的な色気が感じられた。
「でも、忘れないでほしいんです。僕は魔法が使えません」
アオイはそう言って片手でクロスを持った。
男の視線がアオイの手元、ひらひらと揺れるクロスに注がれる。
アオイは秘密を打ち明けるようにそっと囁いた。
「――見てて」
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