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第68話

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「アーノルド良かったら、稽古を付けてあげるよ」

 晩餐会の翌日の早朝、朝の鍛錬で屋敷の周囲を走っていると、長兄のリチャードがそんな事を言って来た。
 俺はその提案を渡りに船だと感じた。
 実際魔力を封印していた時の戦闘では、肝を冷やす場面も正直多かった。

「ありがとう。リチャード兄さん」
  
「じゃぁ道場に行こうか」

………
……


「稽古を付けてあげるって言ったけど、俺は誰かに物を教えた経験が少ないから、なに教えればいいかわかんないけど、まあ試合をすれば稽古に成ると思うんだ」

 謙遜と言うには傲慢で、正直何を教えればいいかわからないと言いながらも、一戦級の実力を持つ彼の双眸そうぼう獰猛どうもうに大きく見開いた。
 一瞬で纏っていた雰囲気、オーラ、気迫……そう言ったモノが変質した。

 これが第一線で活躍する魔剣士……

 彼は、鞘に納められたままの両刃の直長剣を両手で構える。
 危険は少ないはずなのに、俺の第六感が危険信号をビンビンと鳴らしている。失礼だと思う以前に、咄嗟に腰に佩した愛刀の鞘と鍔の上に左手が乗っり、親指で既に鯉口を切っていて、右手も柄を握り締めている。
 いつでも抜刀できる状態となっていた。

「――――っ!?」

 自分ではなぜ構えを取ったのかすら理解出来なかった。

 捕食者と被食者。

 そう言う絶対的な力の差を感じた故の行動なのだろう。

「いいね。今ので殺気を感じられるぐらいには、経験積んでるんだ……アーノルドはその強さを得るために戦って、戦って、戦って来た訳だ。“死なない”ていう保証付きでその真似事をするだけだよ。大丈夫死にはしないさ」

 彼の構えは剣道で言えば中段の構え、切っ先どの部分に向けるかで、五つの字の違う『せい眼』になると言う話を剣術漫画で読んだのだが、彼の中段がどれに当てはまるのかは分からない。

「やぁぁああああああああああ!!」
 
 八相に構えながら接近し放つ、斬撃を軽々と身を翻して避けると、返しの横なぎ払いが俺の腹に命中し、数メートル吹き飛んだ。

 ドン! と言う鈍い音がして、ダンジョンの岩肌のような壁に叩き付けられた。

 痛い。背中とお腹に激痛と言うより熱のようなモノを感じる。

「悪くないけど、『もし袈裟斬りを避けられたら?』って考えた方が良いと思うよ。袈裟斬りに特化したいなら、それでもいいけどそれだけだと、万能型であるアーノルドの強さは貪欲なところを潰しかねない。
 剣術って言うのは技だけではなく、信念や理念・哲学を内包した当時の道徳教育だから技にもその考えが出るのさ……」

 失敗の原因を丁寧に説明してくれる言葉も、痛みのせいでろくすっぽ頭には言いてこない。右から左へ聞き流しているようでもったいない。
 
 痛みに悶えながらも怒りの力で、闘志を滾らせて嗤う膝に手を突いて立ち上がる。

「頑張るね。アーノルド」

 今度も攻める。彼の攻撃を防ごうなんてのは土台無理な話だからだ。
 足をハの字にして前後に開くと、半身をとって腰だめに構え刀を胴の横に付く程密着させる。見よう見まねの居合術で、左下方から右上方に向かって逆袈裟斬りを放つが……

「見え見えで遅い」

 

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