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第56話黒薔薇城
しおりを挟む建材のせいか他の多くの城とは異なり、黒を基調としたシックな色合いで城の周囲は堀があり、河川の水が絶えず流れ込んでいる。
「あーあ。見えて来ちゃったよ。黒薔薇城」
黒薔薇城とは、我がクーロリー一門の “現在” の本邸であり、比較的最近建てられた盆地に築かれた平城である。
元々拠点にしていた城は山間にあるため、50年以上戦争を経験していない。クローリー家は統治のしやすさと利便性を求めて、山城を捨て、築かれた平城がこの城郭都市ザウストブルクなのだ。
名前の理由は叔母上のゴシック風なドレスの好みと、最新式の星形要塞の描く図形が、花の花弁を影絵で見たようだと言う様子から叔母上が自ら名付けた。自尊心の塊である。
そんな事を考えながら車窓から外を覗いていると、飛竜車を中心に飛行編隊を組んでいた飛竜が一騎。落ちるように身を翻し、減速しながら離脱していく……恐らくは俺の帰還を告げる先触れだろう。
予想通り、一騎の飛竜は飛行編隊を離れると、ぐんぐんと一気に加速していく……
「見事なもんだ」
先触のお陰で歓待の用意が済んでいるため、俺は本邸に帰れば先ず熱い風呂に入り、旅の垢を落とす事が出来るのだ。これほどうれしいことは無い。
しばらく飛竜車は空を旋回し、速度を落として着陸地点に狙いを定める。ジェット機と同じだ。
前回の雪山は誰かの領土ではあるものの押しつぶして困るモノは特になかった。だが今回は建造物が近くにあるので、出来るだけ速度を落とし、ゆっくりと飛竜車を接地する必要がある。
しばらくすると飛竜達は旋回をやめ、吊り下げられた車をゆっくりと着地させるべく、大きく羽ばたき減速していく。
ドン。と言う強い衝撃を尻に感じる。飛行機に乗った事がある奴なら分かると思う、三本のタイヤが地面に接地する時の数倍の衝撃と言えば分かりやすいだろうか? 飛竜車が地面に接地した事を確認して飛竜達も着陸する。
待っている間に、刀剣を腰のベルトにある吊り具に留め具を付けて帯刀し、塹壕外套を羽織り服装を整え、頭髪を香油で整える。
いくら後で風呂に入るとはいえ、旅の道中はロクに身体清める事が出来ず。蒸らしたタオルで身体を拭ったり、香水を振りかけたりして身だしなみを整える。
暫く待つとドアの下に設置された板……ステップが騎士によって取り出されドアが開く。騎士は主君の子である俺の手を取り下車を促す。
俺は騎士の手を借りて階段をゆっくりと歩き、芝の生えた踏み心地の良い地面を踏み締しめる。
メイドや執事と言った使用人達は綺麗に整列し、俺を出迎えている。
こういう過剰な対応が嫌いなんだよ……
そんな事を思いながら、使用人たちの列のど真ん中を歩いて行く……
「「「「「お帰りなさいませ。アーノルド様」」」」」
メイドや執事と言った使用人達が、一斉に乱れなく礼をして俺を出迎える。
叔母上も仰々しい事は嫌い。と言っていたが……相手の嫌がる事が好きなドS体質の叔母がやらせた。俺への嫌がらせだろう……全くあの女性は……
俺はロクな手荷物を持たぬまま、使用人たちの列のど真ん中を歩く、世話係と思われるメイド達が出て来てこういった。
「湯浴みのご用意が整っておりますので、先ずは旅の疲れを癒してから、ご当主様に面会されるとよろしいかと存じます」
見た事ない顔だな……まぁ、全員の顔を覚えている訳ではないから断言はできないけど……伯母上の事だから十分に注意しておこう……
そう心に止めてメイドに案内されるがまま俺はその後ろを着いていく……丈の長いスカートのせいで、臀部や太腿の肉付きは分からないが、彼女の歩幅や重心のブレの少なさから『デキる』使い手であると推測する。
彼女が従えるメイド達も、程度の差はあれど皆似たようなもので、重心のブレが少ないので剣術……とは言わないまでも武芸を習熟した使い手だと分かる。
俺への試験か彼女達への試験かは分からないが、全く悪戯好きな叔母には参って終いそうだ。
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