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第35話クズな三連星1 青の三等星上

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 二戦も三戦もすると学生レベルの魔力は底を尽く事が多い。
 魔力とは一説によれば、精神力と体力などのエネルギーの混合物と言われており、食事や睡眠などで回復すると言われている。
 だが一部の者は知っている。魔力を一切体外へ放出せず体内に留め精神と肉体を休める事で、魔力が回復するという事実を経験則で知っているのだ。それ故に控室は個室。それもこの世界ではありえない程設備が整っているのだ。
 俺は家柄もあって魔力量は平均よりもかなり上位に位置する。それでもあれほど激しく魔力を消費すると流石に脱力感を感じる。

 自前の魔力回復薬マジックポーションを鞄から取り出して、コルクを指で摘まみ引き抜くと一口で飲み切る。

「相変わらず美味いな……」

 脚を組み瞑想をする。心を無にする必要はないリラックスできればいいのだ。
 暫くすると気怠さが消え失せ余計な力が抜けた。

「さてそろそろ準備しますか……」

 先ほどまでは、夜空に浮かぶ花火と紅葉の落ち葉をモチーフに意匠デザインした彫刻が施された。火樹銀花《かじゅぎんか》と、桜の花弁の意匠が施されており、日本を想起させる美しい装飾の流櫻りゅうおうの二振りを腰に佩刀していたが、太刀も帯刀していく方が無難か……

 今回の昇格戦では出来るだけ手の内を隠しておきたかったが、どうやらその考えは甘えだったようだ。
 初戦の闘牛流は返しを知っていても、攻撃方法が単純明快であるがゆえに、自分の強みをこちらに押し付けるような戦い方をすることが出来る。
 自分に縛りを科した状態では剣術を隠す事は出来ない。
 ならばいっその事剣術だけでゴリ押しをしてやろうと作戦を変えたのだ。
 時計を見ると試合時間まではまだ30分以上もある。

これなら俺を……クローリー家を目の敵にしている馬鹿が釣れそうだ。

 【遠視とおみ】の魔術が刻まれた魔道具を天上の上に設置すると、俺はトイレに行くために控室を後にした。


…………
……



 トイレの個室に入り、【遠視とおみ】で映像を見る。男三人組が挙動不審な様子で俺の控室に入ると、刀剣を物色し始める。

 なるほど、妨害工作って訳か……面白いじゃん。

 この世界では珍しくも何ともない。カラフルな頭髪をしている。青、赤、緑と三原色揃っている所は評価点が高い。
 そのウチの一人が剣を持ち帰ろうとするが、他の二人がそれを止める。容器に入った液体。恐らくは水をかけてその場を立ち去った。

「さて、そろそろ戻るか……」

 用を足し、廊下を歩いて控室に戻る。
 そこには先ほど見た通りの光景が広がっていた。
 控室は荒らされ、仮眠用のベッドのシーツやロッカーはズタズタに引き裂かれていた。
 そしてなにより許せない事は、刀剣には金属の天敵と言える塩水がかけられていた事だった。

「あの馬鹿三連星が試合の相手なら相手にとって不足なしなんだが……どうか天が俺に味方してくれますように」

 この事実を学園側に報告すれば、馬鹿三連星には間違いなく学園側からの処分が下り、俺は不戦勝あるいはこれ以上戦う必要がなくなるだろうが……そんなつまらない潰し方をするつもりはない。

「さぁ試合に行きますか……」

 俺は鞘を取り換えた刀剣たちを腰に佩刀はいとうして会場へ向かう。
 先ほどまでの二戦とは違い。観客からブーイングが巻き起こることは無い。
 入口の無い壁側を見るとそこには「東1.5倍西2倍」と書かれている。なるほど全員が全員俺の事が嫌いと言う訳じゃなくて、嫌っている奴の声が大きいという事か。

「な!」

 俺は思わず小さく驚きの声を上げる。
 眼前に現れた男は俺の控室に忍び込んで、部屋の備品と刀剣を荒らして行った一味の一人だったからだ。
 深い青髪を後で結んだ。バンドとかお洒落風の大学生が好みそうな特徴的な髪型をしている。
 帯剣しているのは恐らくは長剣ロングソードと呼ばれる。濶剣ブロードソードを長くしたもので、長さによって両手持ちしたり片手で振り回したり、運用方法を変える事が出来る武器だ。

「顔を見ただけで驚かれるとは、俺達【魔剣士三連星】の名前も学園にロクに登校すらしない。クローリー家の四男にも知れ渡っているとは光栄だな……」

「【魔剣士三連星】って何? ていうか自分から異名とか仇名を名乗るのって恥ずかしくない? イタイって言うかさ、羞恥心って感情が無いのかな?」

「言ってろ! 一年坊主。あれれーおかしいぞぉー俺には得物が違うように見えるんだがどうした?」

 コイツ。自分でやったことをいけしゃあしゃあと聞きやがって、コイツ絶対性格悪いな……まぁ相手の術中にハマったフリをしてやるか……その方が面白そうだ。

「――――っ!」

 わざと苦虫を嚙み潰したような表情を作り、ギロリと【魔剣士三連星】の青髪を睨み付ける。
 
「そう睨むなよ……何があったのかは知らないが、俺達は何もしてないぜ? 文句があるなら証拠を出せよ。まぁお前の味方をする奴なんて、この学園には居ないだろうけどな! あはははははは!」

 下品な高笑いの声が煩く不快感を掻き立てる。

「……」

 そんな舌戦に水を差したのは審判役の教師だった。



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