27 / 71
第26話アイリッシュホワイトシチュー2
しおりを挟むドアをドンドンと叩く音が聞こえる。
(こんな時間にいったい誰よ!?)
正直に言って、いま私は気が立っている。幼馴染から受けた依頼で手一杯だからだ。正直に言って明日にでも仕上げないと、他の仕事に差し障る。
この都市に両親が支店を出すと言ったので、我儘を言って支店長に就任して数か月。追加の人員を雇っていないし、送られて来ていない現状。元々私に付いていた客の依頼を捌くだけでも、正直言って骨が折れる。
この都市は騎士や衛兵が夜なかであろうと警邏しているし、なによりこの都市の代官様と、学園の提案で設置された魔石灯の明かりによって、大通りは比較的明るく危険が少ないと言われている。
が、しかし用心に越したことは無い。愛刀・双頭の白鷲を紐で止め。ワザとドタドタと足音を鳴らし、威嚇しながらドアへ向かう。
バタンと乱暴にドアが開ける。
そこに居たのは見知った顔だった。
まるで水に塗れた鴉のような美しい黒い前髪は、日の当たる角度によっては、深い青色に見えない事もない。
それなりに作りの良い顔だが、面倒くさそうで、どこか気怠げな表情のせいで、何処にでも居そうな年頃の男の子と言う評価が妥当なところだろう。
オマケに今は学園の制服を着ている訳ではないので、より面倒くさそうで、どこか気怠げに見える。
「何? こっちとらアンタのせいで忙しいんだけど?」
私は作業を中断させられた事に怒り、ついつい語気が荒くなり、不愛想な物言いになる。
そんな私の態度を見てアーノルドは、「やべ」っと言った表情を一瞬浮かべ足元に置いていた。寸胴鍋を持ちあげてこういった。
「飯を持ってきた。仕事に一度熱を入れるとバゲットしか食べないだろう? だからジャガイモの入ったスープを持ってきた。これさえ食べれば他は要らないような奴を、だ」
そう言って鍋の蓋を開ける。
アーノルドは気が回る方だとは思うけど、良く空回りする。
私は創作に没頭すると良くご飯を抜いてしまう。健康にも美容にもよくない事だとは分かっているが、クリエイターとはそう言う生き物だ。
そう言えば私、アーノルドに依頼された時から何も食べてないし、ロクに寝ても居ない……隈とか髪の毛とか匂いとかヤバいかも! 香水だって安い訳じゃないし、外出しないときは付けていない……
外出しないせいで、人より白い肌が見る見る赤くなり、頬や耳が熱くなっていくのを感じる。
「この白いスープありがとう。それじゃ……」
私は寸胴鍋を家の中に引きずると、バタン。無慈悲にもドアは閉めてしまう。
ごめん。アーノルド、でも乙女の尊厳のほうが大事だから……開けられない様に玄関のドアを背にして私は、ペタンとへたり込んだ。
玄関の外からは
「若様……」
御者さんの憐れむような声が聞こえた。
台所の上に寸胴鍋を置いて薪で火を起こす。
鍋底にシチューが焦げ付かないように柄の長い。大きなお玉でグルグル、グルグルとまるで魔女が大鍋をかき混ぜるように底の方を拡販させる。
湯気が立ち十二分に温まったところで、底が深いスープ皿にシチューをよそう。
「美味しそうな匂い……」
匙を手にシチューを掬い。一口、口に運ぶ。
「美味しい」
人参や玉葱の自然な甘みをバターと牛乳ベースのスープが優しく包み込み、野菜に足りない深いコクをプラスしている。
歯ごたえのあるブロッコリーやくたくたになった。キャベツも人参に負けない甘味が引き出されている。
鳥……否。兎の肉がゴロゴロと入っており、サッパリとした肉質にバターベースのソースが良く絡まって美味い。
アーノルドが「コレだけでご飯になる」と言っていたが、良くソースを吸い込んでホクホクになったジャガイモを食べれればその意味が理解出来た。
バターベースのソースが良く沁み込んでいて、パン粥のようなデンプンが解け出た感じが何処か懐かしさを感じさせる。
2
お気に入りに追加
1,721
あなたにおすすめの小説
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい
ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆
気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。
チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。
第一章 テンプレの異世界転生
第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!?
第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ!
第四章 魔族襲来!?王国を守れ
第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!?
第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~
第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~
第八章 クリフ一家と領地改革!?
第九章 魔国へ〜魔族大決戦!?
第十章 自分探しと家族サービス
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが
倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、
どちらが良い?……ですか。」
「異世界転生で。」
即答。
転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。
なろうにも数話遅れてますが投稿しております。
誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。
自分でも見直しますが、ご協力お願いします。
感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。
乙女ゲーのモブに転生した俺、なぜかヒロインの攻略対象になってしまう。えっ? 俺はモブだよ?
水間ノボル🐳
ファンタジー
↑ お気に入り登録をお願いします!
※ 5/15 男性向けホットランキング1位★
目覚めたら、妹に無理やりプレイさせられた乙女ゲーム、「ルーナ・クロニクル」のモブに転生した俺。
名前は、シド・フォン・グランディ。
準男爵の三男。典型的な底辺貴族だ。
「アリシア、平民のゴミはさっさと退学しなさい!」
「おいっ! 人をゴミ扱いするんじゃねぇ!」
ヒロインのアリシアを、悪役令嬢のファルネーゼがいじめていたシーンにちょうど転生する。
前日、会社の上司にパワハラされていた俺は、ついむしゃくしゃしてファルネーゼにブチキレてしまい……
「助けてくれてありがとうございます。その……明日の午後、空いてますか?」
「えっ? 俺に言ってる?」
イケメンの攻略対象を差し置いて、ヒロインが俺に迫ってきて……
「グランディ、決闘だ。俺たちが勝ったら、二度とアリシア近づくな……っ!」
「おいおい。なんでそうなるんだよ……」
攻略対象の王子殿下に、決闘を挑まれて。
「クソ……っ! 準男爵ごときに負けるわけにはいかない……」
「かなり手加減してるんだが……」
モブの俺が決闘に勝ってしまって——
※2024/3/20 カクヨム様にて、異世界ファンタジーランキング2位!週間総合ランキング4位!
強さがすべての魔法学園の最下位クズ貴族に転生した俺、死にたくないからゲーム知識でランキング1位を目指したら、なぜか最強ハーレムの主となった!
こはるんるん
ファンタジー
気づいたら大好きなゲームで俺の大嫌いだったキャラ、ヴァイスに転生してしまっていた。
ヴァイスは伯爵家の跡取り息子だったが、太りやすくなる外れスキル【超重量】を授かったせいで腐り果て、全ヒロインから嫌われるセクハラ野郎と化した。
最終的には魔族に闇堕ちして、勇者に成敗されるのだ。
だが、俺は知っていた。
魔族と化したヴァイスが、作中最強クラスのキャラだったことを。
外れスキル【超重量】の真の力を。
俺は思う。
【超重量】を使って勇者の王女救出イベントを奪えば、殺されなくて済むんじゃないか?
俺は悪行をやめてゲーム知識を駆使して、強さがすべての魔法学園で1位を目指す。
死んで全ての凶運を使い果たした俺は異世界では強運しか残ってなかったみたいです。〜最強スキルと強運で異世界を無双します!〜
猫パンチ
ファンタジー
主人公、音峰 蓮(おとみね れん)はとてつもなく不幸な男だった。
ある日、とんでもない死に方をしたレンは気づくと神の世界にいた。
そこには創造神がいて、レンの余りの不運な死に方に同情し、異世界転生を提案する。
それを大いに喜び、快諾したレンは創造神にスキルをもらうことになる。
ただし、スキルは選べず運のみが頼り。
しかし、死んだ時に凶運を使い果たしたレンは強運の力で次々と最強スキルを引いてしまう。
それは創造神ですら引くほどのスキルだらけで・・・
そして、レンは最強スキルと強運で異世界を無双してゆく・・・。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる