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第9話ギルドへ帰還
しおりを挟む何とか夕暮れ時の入市ラッシュの行列に並び、アーノルドとミナは日が暮れる前に城壁内へと戻っていた。
基本的に都市は夜間は緊急の用件―――例えば貴族の先触などでもなければ、基本的に門を守る衛兵が通してくれないのだ。
一番の治安維持は人を入れない事と出さない事だからだ。
「凄い人だかりだったわ……」
そう言ったのはミナだった。
その顔色は人ゴミで酔ったのか、はたまた超大型鼠に襲われ命の危機を感じたためか、火球連鎖で大量の魔力を一度に失ったためか顔色が悪かった。
「商人や冒険者は、閉門の時間までしか都市を行き来出来ないからな……都市に入れなければ、周囲にある村か外周に泊まらなければいけない。最悪の場合は城壁の外側で野宿する羽目になるからな」
俺は以前、貴族である事を示す身分証を持たず、町の外に出た事があった。その時時間が少し遅れてしまい、閉門の時間になってしまった事があった事を思い出した。
「まぁそうだけど……でも疲労困憊の身には堪えるわ……」
(この様子を見ると、精神的なケアをした方がいいのか少し迷うな……俺も初めて鶏を絞めた時は気分が悪かった。さてどうしたものか……)
俺としては一人で気楽に飯を食うのも好きだが、彼女に俺の秘密を守って貰うために、メシを奢る事は吝かではない。
一応予約必須の超高級店でもなければ、奢れるぐらいの金は持っている。そうでなくてもクローリー家にツケれば、後日金を受け取りに店側が人を寄越すので問題ない。
断っても良い雰囲気でディナーに誘う……乗ってくればケアをして断られても後日ケアをすればいい。うんコレで行こう……
「俺は冒険者ギルドによって依頼の報告をしてくるが……メイザースはどうする?」
俺は友人のナンパ野郎の口調をマネ。出来るだけ軽い口調で提案する。
「折角のお誘いだけど、今日は遠慮させて貰うわ……」
彼女はしゅんと悲し気な表情で、俺の誘いを断った。
「家に……送って行ってやりたいのは山々だが、過去の因縁の事を考えるとそうもいかない一人で帰れるか?」
「えぇ何とかするわ……指導を引き受けてくれて改めてありがとう……そして勝手に付いて行って迷惑をかけてごめんなさい」
ミナは頭を下げて謝罪した。
「気にするな……とは言えないが……感謝と謝罪の言葉を素直に口にできる事に付いては素直に好感が持てる。幸いお互い五体満足で帰ってこれたんだ、今日みたいな失敗を繰り返さなければ、それだけで儲けものだ」
「そう言って貰えてよかったわ……また日を改めて今後の事についいて話ましょう……」
こうして冒険者として初めての一歩を歩む事になった。
………
……
…
ミナ・フォン・メイザースと別れ、整備され石畳の道路を歩き冒険者ギルドへと向かう途中、自分と同じように依頼を終えたのであろう幾人もの冒険者らしき男女を目にする。
中にはズタ袋一杯に貨幣を詰めた財布を握り締め、屋台や店に足を延ばす者も居れば、武具店や薬屋に出向き武具の整備や消耗品の補充をしている姿が見える。
江戸人やラテン系の人々のように、「宵越しの銭は持たない」と言う文化でもあるのだろうか?
冒険者ギルドの買い取り帳場は絶賛大賑わいのようだ。既にどの帳場にも長蛇の列が出来ている。数十分ほど待つと自分の番が回って来た。
「依頼の受注書と冒険者ギルドの登録証、そして納品物をご提示ください」
ニコリとも笑わない能面のような女性職員は、淡々と事務的な口調でするべき事を促す。
「これでいいか?」
受付で渡された紙と冒険者ギルド登録証を手渡しし、毛皮と薬草を一段下がったサイドテーブルのような場所に置く。
女性職員は書類を受け取ると内容を確認し始めた。
「少々お待ちください」
なるほど愛想はないが仕事は出来るタイプか……
「この辺りはいつもこんな様子なのか?」
アーノルドは周囲の喧騒に驚いて女性職員に尋ねた。帳場内の女性職員は書類に目を通し手続きをしながら、顔色一つ変えずに答える。
「えぇ。まぁ……この辺では珍しくもない事です。制服姿でうろつくと目立つので、上から一枚羽織るか着替えてから仕事をする事をお勧めします。ここにいる冒険者達は気性が荒い方が多いので、無用な興味関心を抱かせない事をお勧めします。あなたの得物はタダでさえ目立つので……」
無表情な女性職員だが彼女なりに、俺の事を心配してくれているようだ。
「ご忠告ありがとうございます。次回から気を付けます」
「えぇ是非そうしてください」
無表情だと思っていた女性職員の顔が少し明るくなった気がした。
「報酬ですが、常設依頼の鎧狼の討伐と毛皮が八枚、薬草が10束、土豚狸鼠の毛皮一枚、大瘤猪の大牙が二本ですので、75000ゼニーになります」
そう言って銀貨と銅貨をで報酬を渡してくれる。
「本来予定にない。土豚狸鼠や大瘤猪の討伐がありますが、お金が欲しいからと言って無理だけはしないように……失敗して失うのは貴方の命なんですから」
冷静かつ慈の心を感じる声音で、無表情な女性職員はそう言った。
俺は「はい。」と返事を返す事しか出来なった。
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