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第42話奴隷を買おう
しおりを挟む名前かぁ……名前ねぇ俺ネーミングセンス無いんだよなぁ……そう言えばアーサー王の父とされる王ユーサーは、ペンドラゴンと言う称号を持っている。
「ペンドラゴン商会かな……剣は目の前の敵しか殺せないがペンはそれ以上の人間を殺せる。そして竜は富を蓄え倒される事で英雄を祝福し加護や呪いを与える……そして古代ではドラゴンは王のような強大な権威と、河川などの大地の恵みを与える地母神の化身で戦士の守護者でもある。ペンとは異国の古い言葉で、長《おさ》を意味をする。言葉だ。
兎に角強くて恐ろしくて、戦士の長と言うぐらいだ。公爵家当主に成ろうと言う野心家には相応しいだろう?」
俺はジョバンニに問いかける。
「確かに複数意味があるのは良い事かと……」
歯切れが悪いな……
まぁ仕方ないか……ジョバンニにとっては、俺が公爵位を継いでも継がなくても大して変わらないからな。何せそのころにはもう、冷たい土の下だろうからな。
「ノーフォーク公爵家の家紋にも赤竜が描かれていますから、関係を誇示するためには最適化と……」
――――とデニス。
うんうん、そう言うアイディアが聴きたかったんだ。
「庶民には文字が読めない方も多いので、いっその事紋章にしてみるのは如何でしょう?」
――――我々のなかでも平民に感覚の近い。マリーネがそう提案した。
確かに日本は江戸時代から世界的に見ても稀なほど、教育熱心な国だった。何せ、平民でも文字が読めたのだから。
それを担ったのが私塾や寺子屋だ。寺子屋とは、現代で言う初等教育では、士農工商《しのうこうしょう》の身分で教育の内容が違ったと言うのだから、驚きだ。
そんな事を考えている間にスヴェは羊皮紙を取り出して、羽ペンにインクをチョンと付けインクを切ると……
「任せなさい!」
そう言ってスヴェは羊皮紙に絵を描き始める。それは斜めに地面から生えたように見える羽ペンを、二足歩行で直立したゴ〇ラ型の竜が短い手で持ってモノを書いている絵だった。
「「「「……」」」」
皆、視線だけで会話をする。
カッコイイものが出来上がるハズだったのに、なぜか可愛らしい物が出来上がると言う珍事に、みな困惑の表情を浮かべ誰か指摘しろよ! と視線で押し付け合う。
結果。最後に押し付けられたのは、ジョバンニだった。
彼は「コホン」と短く咳ばらいをしてこう言った。
「こう……何というか可愛らしいですな……」
ひねり出した言葉はまさかのカワイイだった。
「え、そう? かっこよくない?」
スヴェの画力のせいか、はたまたこの世界の絵画技術の問題か……彼女の描いた絵は、カッコイイと言うよりは誰からも愛され、親しまれるそんなデザインになった。
「ユーサーはカッコいいと思うよね?」
「いやぁ……カッコいいと言うよりはカワイイかな? 縫いぐるみとかにしたら売れそう……」
「縫いぐるみってなに?」
「あ」
縫いぐるみの歴史は1800年代後半に生まれたものとされているので、この世界にはまだ存在しないものだろう……しかし、クッション自体はそんざいするので生まれるのは時間の問題か……俺はそう諦めて、縫いぐるみの説明をした。
こうして戦士長だとか、騎士の長と言う意味で付けたハズのペンドラゴンと言う屋号は、スヴェのせいで可愛らしいゆるキャラ化されてしまった。
この世界にも奴隷が存在する。
借金の形にされる、親に売られる、生まれた時から奴隷、犯罪の罪によって、誘拐されるなど、奴隷の身分に落ちる理由は様々だ。
多くのWEB小説と同じく、奴隷には【服従の首輪】というマジックアイテムがはめられ、コレをハメられると主に逆らう事が出来なくなるらしい。
奴隷が売却された時に主人の血を首輪に触れさせ、専用の呪文を使うことで初めて契約は成立する。この契約で奴隷は主人を害することが難しくなる呪い(孫悟空の頭の輪っかの様に激しい痛みに襲われるらしい)が刻まれた魔道具をしようする。
奴隷は法的に主人の所有物となり、殺人や窃盗などの正当性がない限りは、他者が奴隷を殺すことは法で禁じられている。
また奴隷の人頭税や衣食住にかかる費用は、全て主人が負担しなければならない。
また不必要な虐待は、貴族であろうと罰に処されることとなる。この世界版の剣闘士奴隷スパルタクスのような人物達の活躍により、奴隷の扱いはかなり寛容《クレメンティア》になったものの、私有財産の所有は認められていない。
そして旧貴族たちは、道具としてしか見ていない。奴隷《かれら》の権利が拡充するのは面白くないのだ。
そう言った。経緯もあり、奴隷の扱いは決して良いものとは言えない。
「ユーサー様。御身自ら奴隷商人の元に等向かう必要はないのでは?」
そう言って俺の行動を諫《いさ》めたのは、警護の騎士だった。
「昔よんだ本では、古の帝国では貴族であろうと良い奴隷を買うためには奴隷市に向かい商品を直に見ると読んだのだが……」
古代ローマでは良く、奴隷の出身地や技能の詐称が横行していた。ガリア人と言う木札を下げているのに、実際は違った。何て事は良くあったそうだ。
「確かにそう言った逸話は、ございますが今の世それも公爵領で公爵様の縁者に対してそのような愚行を犯す、奴隷商人が居るとは思えませんが……」
彼の言う事ももっともだ。この領地で、当家に逆らうという事は、警察、軍、行政、司法その全てに喧嘩を売るのと同じだ。
「まぁ俺の傍回りを任せる女中《メイド》が欲しいんだ。自分で選びたいんだ」
「左様ですか……」
暫くすると、何人かの少年・少女を連れて奴隷商が部屋に入って来た。
少年や少女の顔色……肌の血色は悪くなく、唇と言った細部もガサガサになっていないのは、この奴隷商の扱いが良いからだ。
衣服も質素ながら、冬のこの時期には十分な暖かさを与えてくれそうな服装をしている。
コイツはアタリだな……
「これはこれは、ユーサー様。このような場においで下さり誠にありがとうございます」
「気にするな。貴殿らのお陰で民達はギリギリ生きていけている」
「そうですな。水害、獣害、モンスターの暴走、戦争、族の襲撃、村はその程度で崩壊してしまう……我々はその弱みに付け込んでいるのですよ」
奴隷商は自虐的に微笑んだ。
「だが、その口ぶりからするとに貴殿は、奴隷商をある種の防波堤。セーフティーネットと思っているようだ。事実そこの彼らの扱いも悪く無いようだ……」
「無論。貴人であるユーサー様にお出しする人材ですから、有能なモノを揃えたまでです」
と謙遜までする。
「実は、我が長男家は街道整備を貧困民への救済と商業の活発化のために行う予定でな。道路工事の『人』を求めているのだ。それを貴殿には用意して頂きたい。無論、兵士や貧民を雇う事が主目的なのだが人手が足りない事が予想される。だから信頼できる商人を探しているのだ」
これは嘘ではない。道路や治水の事業はバレても問題ないが馬車の事業がバレてしまうのは不味い。この短時間では俺はこの奴隷商をそこまで信頼出来ていないからだ。
「分かりました。ご用意させて頂きましょう……私は奴隷制度が嫌いなのですが親の商売で仕方なく継いだのです。貴方なら解放奴隷としなくても十分な暮らしを彼らに与える事が出来るでしょう……」
「そのために頑張っているのだ。信頼してもらうためにも今ここにいる全員を買おう。俺の傍仕えとして雇い入れる! 男は、執事か兵士か騎士、女は女中だな……」
俺はそう言って年もさほど変わらない奴隷たちを買う事にした。
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