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第16話シナモンシュガーラスク

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 その間に昨日の残りもののバゲットを貰い、ラスクを作る事にした。
シナモンシュガーとバターの良い香りが食欲を増進させる。

「いいにおい!」

 そう言ってリンダは、フライパンから取り出されたばかりの熱々のラスクを素手でつかむとハムっと大きな口を開いて頬張った。

「美っ味ぁ~~っ!!」

 今まで食べたお菓子の中でも特に美味しかったのだろう。パン工房の中を縦横無尽に走り回る。
 甘すぎる見栄を張ったお菓子が口に合わなかったのだろう……程よい甘さのおやつに、子供らしく夢中になって頬ばっている。
 フライパンの上にのシナモンシュガーラスクからは、美味しそうなバターとシナモン。それに少し焦げたような香ばしい砂糖の香りが漂っている。

「リンダちゃん。女の子がスカートで走り回ったらはしたないでしょう? 立派な淑女レディはお淑やかな女性ヒトでなくちゃなれないのよ?」

 そういてスヴェータは、ベリンダをたしなめる。

菓子職人コンフィクショナーほど上手くは作れませんが、ささ、皆様も……」

 そう言ってパン職人は、フライパンから大皿にラスクを移して差し出した。

「では、一つ……」

 俺は夕食の事も考えて数個程度に止めるつもりだ。
 カプリと口に含んだ。シナモンとバターの芳醇な香りに砂糖の甘さで食欲を増進させる。
 思わず普段から張っている頬が緩む。

「こういうのでいいんだよ。こういうので……」

 今世ではドライフルーツしか食べてこなかったが、こういう本当に美味しいお菓子には叶わない。そのうちあごを鍛えるため……と言って塩を抜いた干し肉でも食べるつもりだったが、そうなる前に行動に移せてよかった。
 前世から紅茶の酸味が苦手だったが、油分と糖分の多い。
こういうお菓子なら、苦味や渋みよりも酸味が強い紅茶のような飲み物の方が良く合うのだろう…… 

 アレ……お茶って確か東南アジア それも中国あたりが原産だった気がするんだけど……
 うん。細かい事を考えるのはよそう……

「確かにただ甘いだけのお菓子よりは、こう言うモノの方が良いわね」

 ――――とスヴェータ。
 
 子守女中ナースメイドのシャルティーナや、ベリンダ担当の子守女中ナースメイドも態度を見る限り、こちらの方が美味しいと思っているようだ。
 貴族用のお菓子を食べられるのは、中級使用人以上が余った場合食べる事が出来るのだが、子守女中ナースメイド茶淹女中スティルームメイドは役得の一環として、下級使用人ではあるが食べる機会がある。

「ただのラスクがここまで美味しいのなら、今作っているタルトにも期待が持てるな」

「ははははははは、そう言っていただけ幸いです。まぁ我々は菓子職人コンフィクショナーではないので、パン職人ベイカーとして 素材本来の風味や味わいで勝負させて頂きますよ」

 カスパー含めたパン職人ベイカーにとっては、菓子パンであろうとパンであろうと素材の味を活かした調理であって、菓子職人コンフィクショナーのように見栄えや権威を表すような、象徴的な物品ではないのだろう。

「そろそろタルト作りに戻りましょう……」

 予め余熱しておいたオーブンに、バターを塗り小麦粉を軽く叩いておいた型に、タルトの生地を張り付けフォークでたくさん穴を開け、カラメル状のソースを乗せてそのままオーブンで15分ほど焼く。

 オーブンから取り出すとバター、小麦、リンゴ、ハチミツ、カラメルの良い匂いが漂ってくる。

「「「……(;゚д゚)ゴクリ……」」」

 思わず生唾を飲み込んでしまう。

「お願いがあるんだ。両親とアイリーン夫人、それに菓子職人長ヘッド・コンフィクショナーを食堂に呼んで来て欲しいんだ」

「分かりました」

 女中メイドに言伝を伝える。
 俺は頬をパンパン! と叩き気合いを込める。
叩いたせいで頬がじんと熱くなるが今はそんな事はどうでもいい。

「さぁここから先は、俺の戦いだ!!」

「違うわユーサー、私たちの聖戦たたかいよ!」

 こうして俺達は、 新 時 代 適度な甘さのお菓子のための革命の聖戦を開始した。

………
……




 食道の上座に座っているのは当然父上であり、順に母上、俺、アイリーン夫人、ベリンダ、スヴェトラーナ、菓子職人長ヘッド・コンフィクショナーである。

 菓子職人長ヘッド・コンフィクショナーは見るからに不機嫌そうであり、その姿を雇い主である父上の前でも隠そうとはしていない。
 その姿を見て「この子たちは何をしたの?」と言いたげな表情の母上とアイリーン夫人、その二人と俺達を見て「あぁ何かやらかしたんだろうなぁ~~」と言った。諦めに近い表情をしている父上の表情が印象的だ。

俺は椅子の横に立つと子守女中ナースメイドのマリーネ・マグヴァレッジに抱えてもらい。視線を高くして演説を始める。

「皆様よくお集まりいただきました。
本日は私と我が師スヴェトラーナからご提案があり、この場を設けさせて頂きました」

 スヴェータは「え゛?」と言い。驚き表情を浮かべ俺を見るが、皆の視線が集まる前に表情を外行き様のすまし顔に変える。

「死ねば諸共だ。」

 俺はスヴェータに視線が向いている間に、口パクで俺の言葉を伝えた。
 
「本日お集まり頂いた理由はただ一つ。
昨今の貴族の間では甘すぎるお菓子が、貴族のお菓子として幅を利かせており、それによって馬に乗れない程の肥満や虫歯などの健康被害がでており、平民からの貴族への信頼も揺らいでいる状態です。
 そのため、素材の味を活かしたお菓子を作って欲しいと、菓子職人長ヘッド・コンフィクショナーに相談したのですが……他家から公爵家が侮られるような菓子は自分には作れない……と言われてしまいました」

 俺はここで悲しそうな表情を作る。
これは昔役者になりたかった頃に、映画やドラマで学んだ技術テクだ。



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