上 下
12 / 56

第10話畑を手に入れた

しおりを挟む



 数日後
 俺は子守女中ナースメイドのマリーネから、嬉しい知らせを聞いていた。

「先日、自分の花壇が欲しいと仰られていた件ですが、庭師が場所を用意してくれました。良く肥えた土を移してありますので、今からでも花を植えても大丈夫との事です。」

 良く肥えた土が入っているのは嬉しい事だが……俺がやりたかったのは、贈答品用の花の調達と四圃輪栽式ノーフォーク農法の実験畑が欲しかっただけなんだけどなぁ。

「ありがとう。贈答品として喜ばれる花があれば、是非種や球根が欲しい庭師に頼んでおいてくれないか?」

「既に庭師が用意してあるそうです」

「そうかありがとう……」

 俺はマリーネと共に庭師の元へ向かった。





 規則正しいシンメトリーを基調とした。秩序ある複雑な幾何学模様を作り出すような庭ではなく、屋敷の周囲にある騎士の詰め所や使用人の宿舎が近くにある。通路と呼ぶべき場所に移動してきていた。
 そこにはレンガによって囲われた。小さな花壇が作られていた。

 庭師は頭に被った帽子を取ると会釈をする。
 庭師は庭の管理だけでなく、突然の来客があれば来客の案内を務める。だから庭師は紳士的な人物でなければ務まらない仕事だ。

「ユーサー坊ちゃま、これ位の広さで宜しいでしょうか?」

「あぁ問題ない。レンガとくわをくれ」

「かまいませんが何をするつもりですか?」

「少しやりたい事があってな。この花壇を四分割する」

「何やら分かりませんが……必要なのはレンガと鍬ですね。分かりました直ぐにお持ちします」

 庭師はそう言うとこの場を後にした。

「ユーサー様。なぜ四分割する必要があるのであるのですか?」

「実験だよ、実験。本で読んだんだけど、同じ作物を同じ畑で作っていると段々実りが少なくなってくる。現在の農法では新しい土を混ぜるか掘り起こすか一年土地を休ませる農法と、魔法で地力を回復させる方法があるんだ。それ以外の方法を試せないかなと……」

 ぶっちゃけ嘘である。
実際のところ三圃式農業さんぽしきのうぎょうすら広まっていないであろうこの国で、四圃輪栽式ノーフォーク農法を試す事が出来るのだ。それだけでも価値がある。
 今回実験するのは四圃輪栽式ノーフォーク農法と、実際の18世紀では支配的だった六圃輪栽式農法、七年サイクルで農作業を行う穀草式農法と、堆肥を混ぜる古来からある農法この四つの方法を試したいと思っている。
 作るのは麦ではなく、公爵家の長男が育てたと言う付加価値の付いた花だが……

「素晴らしいお考えです! 「ユーサーの本分は勉学です」と言いたいところですが、そちらの方は完璧なようですし……なので魔法と武芸の時間を増やしましょう。魔力のコントロールが苦手なようですので……」

「ぐっ!」

「園芸は心が疲れる貴族にとっては趣味の領域です。
他には釣りや裁縫、旅行、本の執筆、食などを趣味にされている方は多いと聞きます。ユーサー様も挑戦されてみたらいかがでしょう?」

「考えておくよ……」

 俺は予め用意して貰っていたカーネーション、ユリ、カスミソウ、バラと言った花束に向いている花々の種や球根、株を植える。
 良くも悪くも貴族の主な仕事は人間関係にある。
 賄賂は礼金や心付けとして、この世界の貴族の間には存在している。賄賂を悪とする風潮がないのだから当然である。
 俺は子供だから、まだ金を右から左へ流す事なんて、金もないし人望もないから出来ないから、出来ないが花を贈る程度は出来る。
 前世の経験から消え物以外を貰うのは、少し嵩張って使いどころや置き場所に困る。
 消え物でなおかつ見た目も華やかで、公爵公孫が自ら育てた花ともなれば価値は高いだろうと判断しての事だ。

 庭師から道具を受け取ると、うねを作って等間隔に種や球根、苗を植えていく。予め用意しておくように頼んでおいた。ハッカなどのハーブを植える事で、防虫効果も期待できる。

「ユーサー坊ちゃん。雑草摘みや選定もご自分でなさるそうですが……」

 庭師が作業中の俺を見守りながら話しかけてくる。

「ああ、そのつもりだ。どうせ五歳になるまでは、屋敷からは余り離れられない。雑草摘みは自分で出来るだろうが、忙しくなったら手伝いぐらいは頼むかもしれない。できるだけ自分でやりたいからな……」

「それは良い事だと思います。上位貴族とは言え農業をする事は、民草の暮らしの一端を知るのにはうってつけかと、過去の平民出身の執政官も「農業はいいぞぉ(意訳)」と言っていますし」

 この世界にも共和制ローマの執政官である大カトーの様な人が居たんだ。

「すまないが、俺が世話を出来ていないようなら世話をしてくれ、枯れても構わないから今から渡すメモを守って世話をしてくれないか?」

「もちろんですとも、何なりと仰って下さい……」

 俺は四つの区画一つ一つの育て方を説明し、メモも渡した事で庭師からの貴重な意見を聞くことが出来た。
 この国では地力の回復のために、栄養豊な土を足す事はあっても、堆肥を作ると言う発想には至っていないようだ。
 なのでこの畑を弄る事は許可しないが、他の場所を使うのなら俺の考えた方法を試して、アレンジを加える事は許可すると言ったら、泣いて喜んでいた。



しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル 異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった 孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。 5レベルになったら世界が変わりました

スキル【僕だけの農場】はチートでした~辺境領地を世界で一番住みやすい国にします~

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
旧題:スキル【僕だけの農場】はチートでした なのでお父様の領地を改造していきます!! 僕は異世界転生してしまう 大好きな農場ゲームで、やっと大好きな女の子と結婚まで行ったら過労で死んでしまった 仕事とゲームで過労になってしまったようだ とても可哀そうだと神様が僕だけの農場というスキル、チートを授けてくれた 転生先は貴族と恵まれていると思ったら砂漠と海の領地で作物も育たないダメな領地だった 住民はとてもいい人達で両親もいい人、僕はこの領地をチートの力で一番にしてみせる ◇ HOTランキング一位獲得! 皆さま本当にありがとうございます! 無事に書籍化となり絶賛発売中です よかったら手に取っていただけると嬉しいです これからも日々勉強していきたいと思います ◇ 僕だけの農場二巻発売ということで少しだけウィンたちが前へと進むこととなりました 毎日投稿とはいきませんが少しずつ進んでいきます

孤児による孤児のための孤児院経営!!! 異世界に転生したけど能力がわかりませんでした

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はフィル 異世界に転生できたんだけど何も能力がないと思っていて7歳まで路上で暮らしてた なぜか両親の記憶がなくて何とか生きてきたけど、とうとう能力についてわかることになった 孤児として暮らしていたため孤児の苦しみがわかったので孤児院を作ることから始めます さあ、チートの時間だ

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

転生してしまったので服チートを駆使してこの世界で得た家族と一緒に旅をしようと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
俺はクギミヤ タツミ。 今年で33歳の社畜でございます 俺はとても運がない人間だったがこの日をもって異世界に転生しました しかし、そこは牢屋で見事にくそまみれになってしまう 汚れた囚人服に嫌気がさして、母さんの服を思い出していたのだが、現実を受け止めて抗ってみた。 すると、ステータスウィンドウが開けることに気づく。 そして、チートに気付いて無事にこの世界を気ままに旅することとなる。楽しい旅にしなくちゃな

墓守の荷物持ち 遺体を回収したら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアレア・バリスタ ポーターとしてパーティーメンバーと一緒にダンジョンに潜っていた いつも通りの階層まで潜るといつもとは違う魔物とあってしまう その魔物は僕らでは勝てない魔物、逃げるために必死に走った だけど仲間に裏切られてしまった 生き残るのに必死なのはわかるけど、僕をおとりにするなんてひどい そんな僕は何とか生き残ってあることに気づくこととなりました

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

【幸せスキル】は蜜の味 ハイハイしてたらレベルアップ

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアーリー 不慮な事故で死んでしまった僕は転生することになりました 今度は幸せになってほしいという事でチートな能力を神様から授った まさかの転生という事でチートを駆使して暮らしていきたいと思います ーーーー 間違い召喚3巻発売記念として投稿いたします アーリーは間違い召喚と同じ時期に生まれた作品です 読んでいただけると嬉しいです 23話で一時終了となります

処理中です...