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第四十九話
しおりを挟む――――そして、葛城に付き合うことにした休日。
俺は葛城と落ち合っている駅前に来ていた。
服センスの未熟な俺の場合、マネキンコーデが無難となる。
……がしかし、今の俺には『組み合わせデスク』や変形・合体ロボばりにバリエーションに跳んだ着回し出来る洋服がある。
今赤井は無難に黒ベースのセットアップコーデにインナー、スエットを合わせてウエストポーチを肩から流し、香水を一吹きする。
スニーカーも少し履きならした程度の真新しい綺麗なものを履いている。
あまり香りの強いものは好かないが、ニオイと言うモノは記憶に残る。
つまり『見た目』や『性格』に勝るとも劣らないぐらいには重要だ。
出来れば洋服のように、同じ印象を与えないようにローテーションするのが望ましい。
ボトルで買えば香水は高いが、小分けにされたものなら数百円から購入できる。
人気ブランドと似たような香りのものも購入出来る。
痛い出費だが、『清潔感』を手に入れるにためには安いと言える。
香水とワセリンを一対一で混ぜることでより経済的になる。
身だしなみに気を使うことを覚えたのは大学生時代だが、より重要性に気が付いたのは社会人時代だ。
爪先から指先、頭頂部まで整えることで、凡人は初めてイケメンの下位互換になれのだと知った。
待ち合わせ場所にたどり付いたのは約束の10分前。
「先輩、お待たせしてすいません」
人好きのする可愛らしい笑顔を浮かべ、小走りで駆け寄る美少女は春先の為か少し露出した服装でおめかししているようだ。
普段の状態でも可愛いのにメイクや服装も合わされば、ロリコン男性以外の人目も強烈に引き付ける。
理由は中学二年とは思えない程に成長した “胸” だ。
原作で彼女は「あたし、結構胸が大きい方だと思ってたんですけど、祐堂先輩の周りが胸が大きい女性ばかりで……あたしなんて巨乳界の中堅です」と言っていたほどだ。
流石は俺の推しと言ったところだろう。
同じ学校の男子生徒の初恋を奪って来たと言われても納得の可愛らしさだ。
だが、濃度の低い画面越しとは言え声と魅力が増す事はあっても減る事はあり得ない。
成人男性としてのメンタルで無理やり抵抗すると、動揺を見せずノータイムで反応を返した。
「いや約束の時間からすればまだ十二分に速いだろ? まだ待ち合わせまで10分もあるし……」
「先輩を待たせたら悪いかなーって思いまして……」
「女子ってメイクやヘアセットなんかで大変なんだろ?
ってことは俺より早起きしなきゃいけないはずだし、連絡くれれば少しぐらい遅れてもいいんだぞ?」
すると、葛城は「あははは……」と愛想笑いを浮かべる。
「お気遣いありがとうございます。次からはもう少し余裕を持たせてもらいます」
「そうしろ。LIMEに一方入れてくれるだけで十分だ。社会人の基本はホウレンソウだから早めにその習慣を付けて置くのは悪いことじゃない」
「はーい。って言うか先輩おじさんみたい」
「お、おじさん……」
「先輩なんでそんなに傷ついてるんですか……」
「いや何でもない……」
確かに中学生からしたら、二十代過ぎた俺はおっさんかもしれない。だけど面と向かって女子中学生にそれも、推しの女の子に『おじさん』と言われると物凄く傷つく。
「それで今日はどの映画を見るんだ?」
「これです!」
『じゃーん』と効果音でも聞こえそうな勢いで突き出されたチケットには、イケメン俳優と美人な女優が二人並んだものだった。
「あー確か話題になっていた奴だよな……『私の天国』だっけ?」
「そうです それです! 少女漫画が原作なんですど人気アイドルグループの二人が主演を努めていて、今話題沸騰中の作品なんですよ!」
「へー、そんなに人気があるのか……」
そう言えば妹がぎゃぁぎゃぁ騒いでいた気がする。
「興味薄そうですね」
「興味を持とうとしている」
「まぁそこそこに楽しめるだろ」
「そうですね」
俺達は映画感に向かった。
………
……
…
映画を観終えた俺達は、映画館が入っているビルの階下にある喫茶店で談笑していた。
「やっぱり凄く面白かったですね!」
推しのイケメンアイドルが出演しているせいか、葛城の評価は上々のようだ。
プラスチック製の不透明なコップに入ったコーラ片手に、『ムフゥ』と満足げな笑みを浮かべる。
「ああ面白かったな。だが少しブツギリ感は否めなかった」
「まあ映画の尺でやるわけですから仕方ない部分はありますよね……」
やっぱり原作勢からしても、ぶつ切り感を感じるようだ。
「そういえば原作を読んでいないから知らないんだけどさ、原作にも濡れ場のシーンてあるの?」
「あ、あります……」
恥ずかしいのか葛城は少し口籠る。
「少女漫画って少年誌に比べてエグいって訊くけどホントなんだ……少年誌で言う水着グラビアとかサービスシーン見たいなモノなのかね」
「そう言う認識で概ね合ってると思います」
「そ、そう言うセンパイだってサービスシーン見てたじゃないですか! 白状すると、ああいうシーンでどういう反応をするのかな? って思って視てたんですけど……」
「ああ、なんか視線感じるなって思ったけど、そういうことか……」
気まずくて視線を逸らしただけかと思っていたけど、別に異性愛者なら同性の裸を見てもそこまで気まずい思いはしないか……
「はい。何というかサービスシーンなんだから、男性は喜んで鼻の下伸ばしてるんだろうなーって思ってたら、鼻の下を伸ばした直後に『何の意味が?』って顔してて、正直面白かったです」
「いや、女の子隣にいるし布団被ってるから男のシルエットしか判らないしでぶっちゃけどうでもよかった」
「……」
「まあでも結構面白く見れたし誘ってくれてありがとうな」
無意識だった、最近よく妹の頭を撫でてやっているのが癖になってそのまま行動として反映されたのだろう。
彼女の髪の毛に手を置こう手を動かした。
「あっ」
どちらとも判らないが不意にそんな声が聞こえた。
だが葛城は、その動作を何かと察すると恥ずかしいのか耳まで赤く染め瞼を閉じた。
その様子はまるで柴犬が撫でられやすくするために耳を動かしているように見えた。
俺は彼女の頭を何度も撫でた。
そのたびにシャンプーかトリートメントの甘い匂いが香ってくる。
「これからなんだけどもし良かったらウチ来ないか?」
「え?」
「今日両親いないし気兼ねなく来れると思うけど……」
「家に招待されて、しかもが親いない……? (ボソ)」
「ほら、毎回毎回ファミレスで時間潰すのも飽きるだろ? 前々から緊急避難先としてウチはどうかって進めてただろ?」
「ああーそう言うことですか完全に理解しました。せんぱいそういうところがダメなんです!」
怒られてしまった。
「ごめん」
そういうところとはどういうところなのだろうか? 思わず反射的に謝ってしまいった。
「でも確か妹さん居るんでしたよね?」
「今日はどうだろ? 午前は部活だと思うけど……」
今朝早く出かけていくのを見送った記憶がある。
「あー土曜日だと部活ありますよね」
「だから今誰も居ないから気楽だと思うけど……」
「そうですね……ではお邪魔させてもらいます」
「少し寄りたいところがあるんだけどいいかな?」
「へ? 私は全然かまいませんけど……」
そんなこんなで俺達二人は喫茶店を後にして、最寄りのスーパーマーケットに向かう。
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