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第三章
好みの違い
しおりを挟む私の周辺はキラキラと輝く光に満ち溢れていた。
短い呪文をいくつも唱え、思いつく限りの魔術をこれでもかというほど掛けまくる。
「こんなもんか」
ひとまず満足した私は、腰に手を当てて息を吐いた。
ここは森の中の少し開けた場所。
周囲には大木に似合う大きな葉っぱがいくつか落ちているが、その他は何もない場所だ。
空は日が傾きオレンジ色になっている。
そろそろ寝る場所を見つけようと言っていたところに見つけたのがこの場所だった。
テントを設営して、不審人物や動物対策の結界、魔術攻撃に対する結界、快適に過ごせるように温度調節をする魔術などなど。
とにかく最善を尽くした。尽くしまくった。
これでなんのトラブルもなく一晩過ごせるはずだ。
「次は火を起こして食事の準備だな」
道中、流れていた川でエラルドとバレットが魚を捕まえたのだ。
食べやすいかどうかはともかく、焚き火で焼く魚とかファンタジーのサバイバルって感じでわくわくする。
私が皆の方へと顔を向けると、魚と串を手に持ったエラルドが目を丸くしていた。
「シンがいると、本当になんでも出来るよな……」
改めて言われるとちょっと照れる。
私の力じゃなくて、この体が凄いんだけど。
でも努力を魔術に全振りした分、本物のシンより魔術は使えると思う。きっとそう。
私は何もないところに手のひらを向け、魔術の火を起こした。
木の枝が無くても焚き火というのだろうか、などと考えながらエラルドに笑いかける。
「騎士も魔術を使うだろう?」
「そうだけど、魔術師じゃないとここまであっさりは出来ないよ。シンはすごいな」
「後光が差すくらい顔がいいのに、魚に串を指してるのなんかシュールだな……」
「シンは本当にエラルドの顔が好きだな」
「そしてたまに何言ってるか分かりませんよね」
エラルドの顔が眩しくて目を細めていると、アレハンドロとネルスが呆れ顔でこっちを見てきた。
ちなみにアレハンドロの手元の魚は美しく串刺しにされているが、ネルスのはちょっとこっちに貸しなという出来栄えだった。
なんでネルスはこんなに萌えキャラなんだろう。乙女ゲームの攻略対象なのに。
「んー……俺は今まで会った中ではシンが一番綺麗な顔だと思うんだけど」
その言葉、後でラナージュに報告しておくなエラルド。
すると、ネルスが真顔で話に入ってきた。
「何を言っているんだエラルド。そういうことなら殿下が一番に決まってるだろう」
ここでその言葉に対して当然のような顔をしているアレハンドロが面白い。
謙遜は絶対しないよな。私もしないけど。
エラルドは私たちの顔を見比べた。
「二人とも別格なんだけど、どっちかというとシンかなって」
「そうか? シンの顔に見慣れてるからだろうか。殿下の方が凛々しくて……バレット、どう思う?」
「変わらない。好みの違いだろ」
ネルスに話を振られたバレットは心底どうでも良さそうに、一番大きい魚を串刺しにしていた。
うん。
こういう何気ない会話ね。いいよね。
後でラナージュに報告しよう。
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