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第三章
進級
しおりを挟む桜が舞う。
この学園で2度目の春を迎えた。
2年生に進級しました。
進級。クラス替え。
とても学生っぽい。何年ぶりかな。
無事、1年は乗り越えたので後2年。
まぁどうやら後2年のうち、卒業間際に死亡フラグは立っているようなのでなーんにも安心は出来ないのだが。
逆に考えれば、そこさえなんとかすればそう簡単に死なない可能性が高いと前向きになろう。
対策を考えつつ、今までと出来ることは変わらない。
それよりも、今一番、私が頭を悩ませているのは。
「エラルドと離れてアレハンドロと同じクラスになってしまった!」
食堂で昼食を待ちながら頭を抱える。
そのままテーブルに額を当てると、アレハンドロが後頭部を片手でグリグリと押さえつけてきた。そしてどこか楽しげな声が聞こえる。
「何か問題でもあるのか。光栄に思え」
「いた、痛い痛いっ! あるに決まってるだろう。完全に子守りを押し付けられた」
私はその手を掴んで体を起こしながら反論する。
異論は認めない。
どう考えても、私が近くに居たら大きな問題は起きないだろうと踏んでのことだ。
先生方よ。生徒に生徒の面倒をみさせるのはやめてくれ。
親しい友だちが同じクラスにいた方が良いというのも分かるけれども。
完全に皇太子のお取り巻きたちに目の敵にされるやつだ。元々されてると思うけど。
頬杖をついたエラルドが楽しげに笑う。
「あはは、嬉しそうだな殿下」
「クラスメイトがどうこうなど、一喜一憂することではないだろう」
鼻で笑う様子を軽く睨む。
嬉しいくせに。
大事だぞクラス替えは。
これから過ごす1年の明暗がそれで決まったも同然だろう。
少なくとも私はクラス替えで誰と一緒になるかはめちゃくちゃ大切だった!
「殿下、流石です。僕はエラルドと一緒のクラスで少しホッとしてしまいました……」
ネルスは苦笑しながらも、素直に嬉しそうだった。人見知りがあるとそうなるわな。
やっぱりクラスは大切。
ワガママ皇太子にもこのくらいの可愛げがあればいいのに。
溜息を吐いていると、慰めるようにタイミング良く、スタンドに乗った食事が運ばれてきた。
約2週間ぶりの学食だ。
下段は主食のパン。
今回はバケットとフォカッチャだった。オリーブオイルや塩、ジャム、バターなどのお供が添えられている。
中段がメインの白身魚のポワレ。
周りにトマトやアスパラガス、パプリカなど色とりどりの野菜が飾り付けてある。
上段の副菜はモッツァレラチーズやポテトサラダなどを生ハムで一口サイズに巻いてあるもの。
食べなくても美味しいことが分かる。食べるけど。
そして、キノコのポタージュスープ。
相変わらず、どれもこれもおしゃれで美味しそうだ。
そして最後に給仕の人が、
「本日のカフェタイムはイチゴと生クリームのケーキでございますよ」
と口元に手を添えて楽しげに教えてくれた。
「それは楽しみです」
今、金髪碧眼の美男子はにっこりと優雅に微笑んでいるが内心では小躍りしている。
やったー!!
私がショートケーキが好きなのを知っていてわざわざ教えてくれたのだ。優しい。
もしかしたら頭を抱えていたのを見ていたのかもしれない。流石、気が利くわ。大好きだ。
「へー、剣の受け取りに」
ネルスが食事に手をつけず、興味津々で呟いた。
私が食事やケーキに気を取られている隙に話題はエラルドの剣の話に変わっていたのである。
「そうそう、バレットと選んだんだ。今度の休みに外出許可を貰ってねー」
頷いているエラルドは話しながらも大きな口を開けてメインを頬張る。いつも通り、見ていて気持ちのいい食べっぷりだ。
自分で選びたいって言っていたのに、バレットの意見も聞いたんだな。仲良しだな君たち。
「その街は観光地だったか」
「そうですね、あまり貴族が足を運ぶ場所ではないですが賑やかな場所だという噂ですね!」
アレハンドロは気取って澄ました顔で、ネルスは分かりやすく、ソワソワしてエラルドを見ている。
顔に「行きたい!」と書いてある。
かわいいな。
「殿下とネルスも一緒に行く?」
心優しいエラルドは、そういうことを見逃さないしスルーしない。
おおらかな笑顔にネルスの顔が輝いた。
「行く!」
反対にアレハンドロはあまり表情は動かなかったが、軽く頷いた。嬉しそうだ。
観光地ということは、煌びやかで楽しい反面、人が多くてトラブルも多い。
人混みでのスリとか、喧嘩とか。裏路地に入ってしまうと言わずもがな。
外出許可には学校の許可も必要だが、当然親の許可が要る。
なんでも経験しろよタイプの皇帝陛下はともかく、他の偉い人たちが皇太子を友人だけでそこに行くのを許すのか。
また護衛まみれになるのでは。
あとネルス、あの過保護なお前のお父さんとお母さんの許可は下りるのか。護衛まみれ以下略。
それにしてもこの魚、最高だな。
骨も取ってくれてて食べやすいし、身が柔らかくて。何より皮のパリパリ感が絶妙だ。
さすが料理長。
黙って食事にパクつく私にもエラルドは微笑みかけてくる。
「じゃあシンも行く?」
「今回は、遠慮しておくよ」
子守りはごめんだ。
エラルドと2人とかなら安心していけるけれども。
どうせバレットもついていくんだろうし、4人でダブルデートしてきてくれ。
組み合わせはなんでもいいからね!
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