上 下
69 / 134
第二章

そろそろ帰ろうか

しおりを挟む
 
「はい、おしまい」

 私は音を拾う魔術を解除し、ラナージュの目を覆って自分も2人のいる方には背を向けた。

「ええっなんでですの!?何も見えませんわ!」

 ラナージュは抗議の声を上げて私の手を外そうとする。
 させない。
 柔らかく笑って口を開く。

「流石にプライベートに踏み込みすぎただろう?」

 自分で言っといてびっくりするほど今更だけどな。

「仕方ありませんわね……」

 もう少し抵抗されるかと思ったが、思いの外すんなりとラナージュは諦めてため息をついた。

 そのままの状態で2人からは離れていく。
 女の子の目隠しをしたまま歩いてる状態って、周りからしたらいちゃついてるカップルに見えるだろうな。
 今は魔術のせいで見えないけれど。

「満足したなら、そろそろ帰ろうか」

 ある程度離れると、目元から手を離して魔術も解く。

「ええ、そうしましょう」

 ようやくいつも通りの落ち着いた様子に戻ったお嬢様が頷いた。
 劇場の敷地と外を仕切る門へと歩いて行く様子に、なんだかほっとしながら離れないように後ろをついていく。

「ところで、デルフィニウムさま……」
「ん?なんだ?」

 ラナージュが私の方を振り返った丁度その時。

「キャー!!」
「ライモンドさまー!!!!」
「ロスウェルさまー!!!!」
「こっち向いて――!!」

 まさしく黄色い声がラナージュの声を掻き消した。

 騒ぎの中心を見ると、予想できる通り。
 王子役の俳優と魔王役の俳優が並んで出てきたのだ。
 皆なかなか帰らないなと思っていたら、ここで出待ちしてたのか?と思ったが、目に入った2人はメイクも服装も舞台のままだ。

 おそらくそういうパフォーマンスなのだろう。サービスいいな。

「デルフィニウムさま、もっと近くに行きましょう!!」
「え。あ、はい……」

 意外とミーハーだったらしいラナージュに腕を引かれて、ファンでごった返すイケメン俳優さんの居る方へ行く羽目になった。

 大きな赤い目がいつも以上に輝いている。
 何か言いかけてたけどもう良いのだろうか。

 ここ最近でラナージュの印象がガラッと変わったな。すごい振り回してくるタイプのお嬢様じゃんか。
 世話係の騎士か執事かの登場を求む。
 
 人の波に乗って分かったのだが、みんなはただ演者の顔を見ようとしているわけではないらいしい。
 どうやら並んだらハイタッチしてくれるようだ。
 よく見ると少し離れたところに他のメインキャストたちもいる。

 なるほど、みんな好きな人のところに行くわけか。
 サービス良すぎだな。
 セキュリティは大丈夫なのかな?

「わたくし、魔王役の方のところに行きたいですわ!ロスウェルさまとおっしゃるんですわね!」
「……わかりました……」

 とでも楽しそうに声を弾ませるラナージュと対照的に、気が乗らない返事をしてしまう。

 いや、私とて演者の方とハイタッチはしたい。とてもしたい。

 しかしルーク王子の肖像画は金髪碧眼なので、当然今回の劇でもそうである。なんだか近くに行くのが気恥ずかしい。
 自前の髪と目なので決して寄せたわけではないのだが。

 出来ればラナージュだけで行って欲しいが、何かあったら大変なのでついていくしかない。王子のすぐ隣ではあるが、魔王役の方に行くというのがせめてもの救いか。
 騎士や賢者の方に行ってくれたら良かったのに。

 ちなみに、魔王の外見は特に正式な記述があるわけではないが、今回の劇ではあろうことか黒い長髪に緑の瞳。
 せめて魔王に覚醒した状態で出てきてくれれば瞳は金色だったのに、何故か魔術師の時の姿で出て来ている。

 本当になんでだ。なんでわざわざ瞳の色を元に戻してきたんだ。
 絶対に今のアレハンドロとは並びたくない。

 そんなこと気にしているのは私だけなのかもしれないが、コスプレしてきたファンみたいになってしまう。
 さすがに魔術師は三つ編みはしていないけれども。
 私としたことが、前情報を何も確認しないできてしまったから。

 ちゃんとポスターを確認して被らないようにしてあげればよかった!
 
 まぁ、そうはいうものの。
 多分アレハンドロとアンネは今関係を進展させてる最中だろうからこっちには来ない。

「シン?」


 いやだー!!
 見つかったー!!
 こっち来ないで――!! 


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?

N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、 生まれる世界が間違っていたって⁇ 自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈ 嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!! そう意気込んで転生したものの、気がついたら……… 大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い! そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!! ーーーーーーーーーーーーーー ※誤字・脱字多いかもしれません💦  (教えて頂けたらめっちゃ助かります…) ※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません

召喚アラサー女~ 自由に生きています!

マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。 牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子 信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。 初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった *** 異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います

処理中です...